監督指針改正は、ビッグモーター事件など保険業界内で相次いで発覚した不祥事案を踏まえた制度整備の一環。乗合代理店が、顧客のニーズを無視して便宜供与を受けた保険会社の商品ばかりを推奨することのないよう、顧客の状況を踏まえて、商品を選別・提案した理由の説明を求める内容です。
現行の保険業法施行規則では、実質的に代理店側が提案商品を一方的に決められる「ハ方式」と、顧客の意向に沿った商品の選別・提案の説明が求められる「ロ方式」の2つの方式が認められています。ルール改正に合わせて「ハ方式」が廃止され、適切な比較推奨を求める「露方式」に一本化されることになります。代理店側ではシステム対応やフローの見直しなどの対応が必要となるため、施行まで1年半の猶予期間を設けています。
制度改正に向けて実施したパブリックコメント(意見募集)では、提案の前提となる顧客意向そのものが曖昧な場合の対応について質問が寄せられていました。
これに対し金融庁側は、「顧客が『全て任せる』『具体的な提案をしてほしい』などと述べた場合も、その意思表示のみをもって任意に特定の保険会社や保険契約を選別して提示、推奨することは適切ではない」と指摘。「保障(補償)内容、保険料水準、特約等、顧客が重視し得る事項を確認するなど、可能な限り意向の形成を促し、又は意向の明確化に努めた上で、把握した顧客の意向に沿って、合理的かつ一定の具体性を有する基準や理由等に基づき、保険契約を選別し、提示・推奨することが重要」との認識を打ち出しています。金融庁幹部は「事故対応件数や販売実績等のみを主たる理由として推奨することは、我々としては必ずしも良いと思っていない。人間だから、高い手数料、高い商品を売りたくなるのは当然だとは思が、手数料を背景として推奨することはNGであり、今後もそのスタンスだ」と釘をさしました。
比較推奨の規制強化は保険だけの話……とは言い切れません。
今回の制度改正は、2024年施行の金融サービス提供法で銀行・証券・資産運用・フィンテックなどを含む幅広い金融事業者に課された新ルール「最善利益勘案義務」とも関係しています。
制度改正に向けた検討のベースとなった金融審議会作業部会の報告書(「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書)では、以下のように記載されていました。
「改正金サ法により、「保険募集人を含む全ての金融サービス提供事業者に対し、顧客等の最善の利益を勘案して誠実かつ公正に業務を遂行する義務が明記されたことも踏まえ、乗合代理店においても、それに沿った適切な比較推奨販売を行う必要がある」
「最善利益勘案義務」は2017年に策定された金融事業者の行動規範「顧客本位の業務運営に関する原則」の一項目をハードローに移行する形で導入された経緯があります。
「顧客本位の業務運営」を巡る金融規制の展開は(「重要情報シート」の導入に象徴されるよう)まず資産運用業界で先行して具体化され、その後、保険など他業界へ波及するパターンが主流となっていました。しかし今回の制度改正では、抽象的すぎると批判もあった「最善利益勘案義務」について、保険業界の比較推奨規制という領域で先陣を切る形で、実務への落とし込みが進められています。
8月に金融庁内に資産運用・保険監督局が創設されたことで、業界。業態ごとの規制のギャップがいっそう意識されやすい時代がやってきました。恣意的な商品選定を厳しく制限する今回の動きは保険業界にとどまらず、銀行や証券など金融業界全体の販売実務の議論へと波及していく可能性がありそうです。
