公表の1年前にあたる2025年8月、金融庁は長官直轄の特別チーム「金融庁20年委員会」を設置。金融行政の目標や役割、組織の課題などについて議論を重ね、「金融行政の目標を職員が身近に感じる契機」としてスローガン作成にいたったという。
当局側はスローガンの意図について、「金融行政が目指す、金融システムの安定、利用者保護、市場の公正性・透明性(いわゆる「守り」の側面)と金融仲介機能の発揮、利用者利便、市場の活力(いわゆる「攻め」の側面)の両立を表現している」と説明している。
スローガンに込められた目標の達成のため、“人材育成”と“働く環境の整備”の2つに焦点を当てて、金融庁の「バージョンアップ」に向けて以下の取り組みを進めるとしている。
(1)人材育成
・専門性の向上:知見の蓄積・継承や新たな課題への対応を図るため、検査官人材育成チームを設置し、検討を開始した。他分野も含め、専門性の高度化をさらに進める。アカデミアとの連携を深める。
・キャリア形成:人事異動の理由説明の充実を図った。人事担当者のスキルアップを図り、職員との対話を充実させる。人事評価のフィードバックを強化する。
・マネジメント:幹部向けマネジメント研修の充実を図った。対象者や研修内容を拡充し、実施時期を前倒しするなど、さらに高度化する。
(2)働く環境の整備
・業務効率化:職員からの疑問や質問に、生成AIを活用して回答する支援システムの提供を行った。職員のニーズに応じたツールの開発をさらに進める。
・柔軟な働き方:育休明け職員や育児中職員間の交流イベントを開催し、ライフステージに応じた働き方に関する情報共有や職員同士のネットワークづくりを促した。サテライトオフィスを8月より導入する。
・コミュニケーション:金融庁のバージョンアップの取組に関する対話を全庁的・集中的に行った。幹部・職員間、課室単位、少人数グループ単位などの意見交換や庁内外への情報発信をさらに充実させる。全職員が参加可能なチャットを開設し、課室を超えたコミュニケーションを促進する。※政策評価有識者会議や金融行政モニターなどの外部有識者の意見を引き続き金融庁のバージョンアップに活かしていく。
・オフィス環境の改善:執務室のレイアウトやデスクの刷新など、オフィス改革を進めた(直近では6月に実施)。この取組を金融庁全体に広げる。
金融庁にとって「攻め」とは?
金融庁の攻めといえば、業務改善命令や立入検査を思い浮かべたくなるところだ。が、当局の認識としては上記の通り、金融仲介機能の活用や利用者利便、そして「市場の活力」こそが攻めに当たるという。金融機関に対する行政処分は、この二分法においてはむしろ、守りのうちの利用者保護の一環に位置づけられる。
バブル崩壊後の不良債権問題への対応が最優先課題だった時代に発足した金融庁。守り側に主要なリソースを集中させてきたのは歴史的経緯からして当然のことだったと言える。
風向きが変わったのは岸田政権下。「資産運用立国」の掛け声の下で、投資促進策の政策的な優先度が急上昇した。当初はNISAに象徴されるように資金の「出し手」にフォーカスする政策に力点が置かれていたが、続く石破政権、高市政権下では、投資マネーを国内の成長産業に振り向けるなど「受け手」主体の政策方針が強化されてきた経緯がある。
スローガン公表直後に実施した組織改編では、既存の「総合政策局」「監督局」の棲み分けが見直され、「資産運用・保険監督局」「銀行・証券監督局」が創設された。表面上は、守りのニュアンスが強い「監督」の名を掲げる局が2つに増えた格好だ。一方、足元で政府は高市政権が掲げる戦略17分野に資金を振り向けるよう、金融機関に協力を促している。金融サービスの提供者であるとともに巨大な投資家としての側面も持つ銀・証・保・資など各業界に対する「攻め」の働きかけが今後、いっそう強まることにもなりそうだ。
ある霞が関の事情通は「“攻め”への重心転換について、‟守り”にこだわりを持って働いてきた職員は複雑な思いを抱えている。新スローガンや『バージョンアップ宣言』の環境整備には、組織の分断を防ぎたい幹部たちの焦りがにじむ」と話す。金融庁幹部は「バージョンアップの取り組みの成否は、トップがどれだけやる気になるかにかかっている」と述べ、長官のリーダーシップ発揮に期待を寄せていた。
