かやば太郎氏 このところ、金融庁周辺の空気が如実にピリピリしていますね。
本石次郎氏 「資産運用立国実現プラン」という壮大な構想を作り上げた岸田政権に比べ、今の官邸メンバーには金融に興味のある人がそもそもそれほど多くありません。岸田政権という「恐竜」が去って、金融庁内では一時、ようやく自分たちのペースで穏やかに行政運営ができるといった期待感が感じられました。
財研ナオコ氏 プロダクトガバナンスの対応や企業価値担保制度など、岸田政権の積み残した課題を、「慣性の法則」よろしく粛々と具体化して行けばいいんじゃないか、という雰囲気が、たしかに少し前まではあったね。でも、現実はそう甘くないみたいだよ。
かやば氏 「状況は岸田政権のときより、かえって複雑化しつつある」(関係者)なんて声も聞こえますね。
本石氏 今の構図をおおまかに整理すると、(1)岸田路線を継続・発展する流れ(2)石破政権が独自色を出そうとしている流れ(3)デジタル分野における伝統金融界/非伝統界の駆け引き(4)金融庁による自前主義的な政策運営への回帰——という4つの動きが絡み合っている、といえそうですね。
財研氏 恐竜が絶滅した後で大型哺乳類の生存競争が激化したように、新しい時代の獣の影が四方にうごめいているといったところかな。
かやば氏 岸田氏が座長を務める自民党の資産運用立国議連は昨年11月、金融庁内に「資産運用課」を設置するよう政府に提言しました。さらに、読売新聞が近く運用を開始する新指数「読売333」を活用したNISAの利便性向上もプッシュしています。一方で石破政権も、岸田路線の資産運用立国を継承するポーズを見せつつ、中小企業や各種成長分野への資金供給を強化しようとしていますね。
本石氏 岸田政権下では、アセットオーナーシップやプロダクトガバナンスに関するプリンシプルを整備することによって、機関・個人双方のリスクマネー供給を拡大させてきました。石破政権と岸田氏周辺はバラバラに動いていて、そのリスクマネーを国内各所に振り向ける環境整備のイニシアチブを握ろうと画策しているということですね。
かやば氏 最近、金融庁の中の人たちと話していると、「政治的な思惑にこれ以上振り回されないぞ!」という決意のようなものを感じるときがありますね。
本石氏 金融庁の外部委託先が公表した調査報告書で、一度盛り上がって立ち消えになった投資助言業の新枠創設の政策提言が盛り込まれましたけど、庁内からは「当局が望んだ内容ではない」と突き放すような感想も聞こえます。
財研氏 助言業に関する登録要件のハードルを引き下げたうえで、NISAの具体的なアドバイスを提供しやすくするというやつだね。役人たちは、NISAのブランドを傷つけるような政治利用には慎重な態度を維持しようとしている。
かやば氏 特別枠創設の話題は投資運用業に限りません。内閣官房のデジタル行財政改革会議では、既存の金融サービス仲介業に新しい枠を作って、商品横断的なアドバイスを提供する新業態を作る案が上がりました。
財研氏 リソースが限られている金融庁は、既存事業者のリスクベース検査だけで手いっぱいだし、安易に新業態の新設を許すとは思えない。
かやば氏 もう一つ気になるのは、こうした動きの中で、金融庁と厚労省の関係性がどう変わるのかですね。
財研氏 岸田政権のときは、厚労省の社会保障審議会内で、政策的な思惑のために年金が利用されるのではないかとの警戒感が噴出し、立国プランを推進する立場である金融庁と厚労省の「不仲説」がたびたび取り沙汰されてきた。しかし、資産運用の独立性を担保するという目的が一致すれば、例の「2000万円問題」以来こじれ続けている両省庁が接近することになるかもしれない。
かやば氏 つい最近まで、官邸という恐竜の動きを見ていれば、足元の潮流をある程度はフォローすることができていた気がするんですが…。もはや「官邸一強」は過去の話です。これからの金融人は、多方面の細かな動きまでウォッチしていないと、次の変化の方向性を予測することが難しくなってきていますね。
本石氏 我々も多方面にアンテナを張り続けないといけないですね。これからもことあるごとに、情報を持ち寄りましょう。