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改正金サ法施行で最善利益義務の運用がスタート。「無難」と言い切れないパブコメ回答を解説

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2024.11.12
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改正金サ法施行で最善利益義務の運用がスタート。「無難」と言い切れないパブコメ回答を解説

「最善利益勘案義務」の創設を盛り込んだ金融サービス提供法が11月1日に施行され、金融庁は各業態向けの監督指針を改正しました。夏の間に実施したパブリックコメントへの回答文もあわせて公表し、事業者が勘案すべき「最善の利益」とはいったい何を意味するのか、当局として一定の見解を示しました。庁内での議論の経緯を取材してきた筆者が、今回のパブコメ回答文の中で注目した2つのポイントを紹介します。

11月1日に、改正金融サービス提供法が施行されたことで、これまで金融商品取引法で規定されてきた「誠実公正義務」が金サ法に移されたうえで、同義務に内包される概念として、顧客の最善の利益を勘案して業務を遂行するよう求める項目(いわゆる「最善利益勘案義務」)が追加されました。

金商法で規定されている「適合性原則」と同じように、最善利益勘案義務も、違反した場合には行政処分につながる可能性があります。たとえば金商業者向け監督指針等では、課題を把握した場合に報告徴求命令を、深刻な問題が認められれば業務改善命令や業務停止命令の発出も辞さない姿勢を明記しています。

 

この新たな義務の創設をめぐっては議論の当初から、解釈の幅の大きい「最善」という定性的な表現を用いている点が、処分権限の恣意的な行使につながるのではないかという懸念が上がっていました。実際、今回施行された法律、監督指針の文面をみても、「最善の利益」について明確な定義は見当たりません。

 

監督指針について金融庁は文案を公表した今年6月から1か月間、パブリックコメントを実施。このたび改正法と改正指針の施行にあわせ、事業者などから寄せられた質問への回答を公表しました。

パブコメの回答文はたいてい、公表後に金融庁側の行政運営を拘束する力があるため無難な書きぶりになりがちです。が、今回の回答文をよく読むと、一見お役所的な当たりさわりない記載の中にも、いくつか気になるポイントがあります。

 

まず今回のパブコメ回答文では、新設の最善利益義務と、最近当局がよく持ち出す「プロダクトガバナンス」という概念の関係性に踏み込んでいます。

 

たとえば通し番号で10番目の質問では、最善利益勘案義務を遂行しているか検証するにあたっての着眼点として「個別の取引の背景にあるビジネスモデルのあり方、例えば、業績評価をはじめとする組織運営のあり方や商品ラインナップのあり方、プロダクトガバナンスなど」を挙げています。

 

9月に確定した改定版FD原則では、プロダクトガバナンスの観点から、商品を企画・組成する時点で購入する顧客層を特定し、販売サイドとの情報連携を通じて、実際に想定顧客層に商品が届いているかを継続的にウォッチするよう促しています。

 

最善利益義務は法律上のルールであり、一方でFD原則は法的拘束力をもたない行動規範(プリンシプル)です。ルールとプリンシプルをいかにうまく使い分けるかについてはこれまで、庁内でややこみ入った議論がありましたが、今回の回答文では商品管理という観点において、FD原則と法律とが重なる部分があるという当局の見解を改めて打ち出した格好です。

 

顧客との「ウィンウィンの関係」がキーワードに

先ほども触れたとおり、改正法は「最善の利益」について明確な定義を示しているわけではなく、各事業者において「最善」とは何を意味するのか、自主的に考えるよう求めています。

ただ、今回の改正指針では「社会に付加価値をもたらし、同時に自身の経営の持続可能性を確保していく」ことを是とするくだりがあります。この点についてパブコメでは、顧客の「最善利益」を考えることは、事業者と顧客とのウィンウィンの関係を目指すことと整合するかという意味の質問が寄せられ、金融庁側はこれを全面的に肯定しました(通し番号14番)。

 

金融審の有識者委員らが指摘していたように「最善利益」の具体的な定義に関しては、判例の積み重ねの中で官民の間で徐々に共通認識が形成されていくことになるのでしょう。そのうえで、監督対象となる各事業者が、顧客と事業者の持続的な「ウィンウィン」の関係をいかに実現しようとしているかが、今後の論点の一つとなることは間違いなさそうです。

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著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
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