finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート

FDレポート確定版公表 金融庁は外貨建保険、仕組預金にどこまで切り込んだか?

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2024.07.10
会員限定
FDレポート確定版公表 金融庁は外貨建保険、仕組預金にどこまで切り込んだか?

金融庁は7月5日、「リスク性金融商品の販売・組成会社による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果等について」(2023事務年度)を公表しました。4月に発表した中間版で取り上げた外貨建一時払保険に加え、仕組預金、ファンドラップについても、重点モニタリング先における販売実態の分析を整理しています。

「L字」「I字」インセンティブの課題も言及

今回の調査では重点調査先として、主要行等7行、地銀グループ15先、証券会社9社、保険会社8社を対象に質問表送付や資料提出依頼、ヒアリングなどを実施。このうち外貨建一時払は保険会社8社を含む23先、仕組預金は7先、仕組債は8先となっています。

                                                                                                              

外貨建一時払保険については、代表的な運用型商品8商品を分析したところ、2023年8月末時点で運用を終了した商品が、モニタリング実施時点で継続期間5年以上の商品に比べパフォーマンスが劣っていることが分かりました。当局は契約期間の短期化によるパフォーマンス低下の背景に、ターゲット型を中心とした乗換販売があるとみています。

多くの調査先で「目標値に到達したターゲット型保険の多くが解約され、同時に同一商品を同一顧客に販売する乗換販売が発生していた」と指摘。市場価格調整、解約控除で利幅が押し下げられることになり、「販売手数料が二重に発生することを考慮すると、必ずしも経済合理性があるとは言えないと考えられる」と批判しました。

加えてレポートでは、外貨建保険のインセンティブ体系の課題点にも言及。多くの調査先で「販売会社が組成会社から受け取る手数料の体系が、顧客へのフォローアップ等を行う役務負担に見合ったものとなっていない」と記載。初年度の比重が大きいL字型(例として初年度5.5%、2年目以降0.1%)やI字型が採用されていることで「販売後のフォローアップ以上に販売勧誘が促されていた」と分析しています。

調査結果に対し一部事業者からは、「(分析対象となる)重点調査先の抽出基準が曖昧である以上、結論ありきでサンプルを利用できる」(地銀職員)として、統計的意義を疑問視する声も上がっています。一方、「網羅性はないとしても保険販売後の運用成果に関するデータを整理させ、提供させた実績を作ること自体に意義があった」(金融庁別部署の幹部)と評価する向きもあります。

外貨建て債券については、新興国の経済情勢や市場動向などの情報を十分に把握できない顧客に、新興国通貨建ての債券を販売するといった課題事例を紹介。ファンドラップについては、最善利益追求の観点から、コストとリターン(コスト控除後)の妥当性の検証、運用実績などの情報開示の充実が期待されるとしています。

 

仕組債の「販売ニーズ」に当局は疑いの目

複雑な仕組債をめぐっては、その代表的な商品類型であるEB債について22年のFDレポートで「購入する意義はほとんどない」と指摘し、注目を集めました。その後、日本証券業協会がガイドラインを整備し、23年夏に施行。今回のレポートではガイドラインを受けて事業者側においても個人向けの販売の取扱停止、販売態勢見直しの動きが広がる一方、法人向けの販売は依然として一定水準にあると説明しています。一部事業者について「根強い顧客ニーズがあるため販売が増加していると主張している」とも記載。ある当局幹部は「中には納得のできない主張もあった」と話しています。

 

EB債やリンク債などの仕組債と同様、プットオプションの売却というポジションを取ることが多い仕組預金についても言及。設計は仕組債と共通するところもありますが、多くの調査先でトータルリターンがマイナスになっていたというデータのみを提示し、当局としての商品性の評価は見送っています。金融庁幹部は「たしかにテールリスクが大きいという性質は仕組債と似ているが、そのリスクが顕在化した際に顧客が被る損失の度合いには相当の差があるようだ」と説明しています。

 

今回のFDレポートについては、保険商品を認可する立場にもある金融庁として、外貨建保険の課題にどこまで切り込むことになるかが注目点のひとつとなっていました。一定の分析成果を示したものの、「他部署に気をつかいすぎて歯切れが悪くなっている」(銀行幹部)と皮肉る向きもあります。

一方、前企画市場局長である井藤英樹新長官の就任を受け、業界内では、庁内でプリンシプル所管部署の発言力がいっそう強まるとの観測も浮かんでいます。今後、FD原則やそれをルール化した「最善利益義務」の観点から、外貨建保険を含むリスク性商品の販売面における課題について、業界側への攻勢をいっそう強める可能性がありそうです。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #金融庁
  • #フィデューシャリー・デューティー

おすすめの記事

広島銀行の売れ筋トップ10から「S&P500」が消える。人気を高めているファンドの特徴とは?

finasee Pro 編集部

「支店長! 業績を上げるためにFP資格は必要ですか」

森脇 ゆき

三菱UFJ銀行の売れ筋で「日経225」と「S&P500」の評価が急落、評価を高めたファンドは?

finasee Pro 編集部

【新連載】こたえてください森脇さん
①販売した商品が値下がり。お客様の反応が怖くてアフターフォローできない。

森脇 ゆき

5カ月ぶりに純資産残高が過去最高を更新したものの資金流入は低調、パフォーマンスは「国内半導体株」がトップ=25年6月投信概況

finasee Pro 編集部

著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
「支店長! 業績を上げるためにFP資格は必要ですか」
三菱UFJ銀行の売れ筋で「日経225」と「S&P500」の評価が急落、評価を高めたファンドは?
新プログレスレポートの気になるポイント3選……資産運用立国「ポンチ絵」はどう変わったか?
【新連載】こたえてください森脇さん
①販売した商品が値下がり。お客様の反応が怖くてアフターフォローできない。
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
アフターフォローはなぜ定着しないのか
広島銀行の売れ筋トップ10から「S&P500」が消える。人気を高めているファンドの特徴とは?
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
① 「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか
5カ月ぶりに純資産残高が過去最高を更新したものの資金流入は低調、パフォーマンスは「国内半導体株」がトップ=25年6月投信概況
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
③ 金融行政に本部が過剰反応?対面金融機関の役割とは
大和証券の売れ筋トップ3でパフォーマンスが際立つファンドは? 
新プログレスレポートの気になるポイント3選……資産運用立国「ポンチ絵」はどう変わったか?
「支店長! 業績を上げるためにFP資格は必要ですか」
国内株式型ファンドで過去3番目に大きな設定額を記録、野村アセットが設定した新ファンドの特徴とは? =25年6月新規設定ファンド
5カ月ぶりに純資産残高が過去最高を更新したものの資金流入は低調、パフォーマンスは「国内半導体株」がトップ=25年6月投信概況
【新連載】こたえてください森脇さん
①販売した商品が値下がり。お客様の反応が怖くてアフターフォローできない。
個人投資家の力で日本企業を変える──
マネックス・アクティビスト・ファンド、設立5周年
松本大氏が魅力を語る
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
③ 金融行政に本部が過剰反応?対面金融機関の役割とは
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
アフターフォローはなぜ定着しないのか
三菱UFJ銀行の売れ筋で「日経225」と「S&P500」の評価が急落、評価を高めたファンドは?
日本における「ターゲット・デート・ファンド」の成長余地
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
① 「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
③ 金融行政に本部が過剰反応?対面金融機関の役割とは
新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
新プログレスレポートの気になるポイント3選……資産運用立国「ポンチ絵」はどう変わったか?
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
② 投信窓販において収益性と顧客本位をどう両立させるか
松井証券の売れ筋にみる優れた世界厳選株式ファンドとは? ピクテと三菱UFJの「純金ファンド」の違いは?
【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
資産形成を達成した後…「次なる課題」
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら