「L字」「I字」インセンティブの課題も言及
今回の調査では重点調査先として、主要行等7行、地銀グループ15先、証券会社9社、保険会社8社を対象に質問表送付や資料提出依頼、ヒアリングなどを実施。このうち外貨建一時払は保険会社8社を含む23先、仕組預金は7先、仕組債は8先となっています。
外貨建一時払保険については、代表的な運用型商品8商品を分析したところ、2023年8月末時点で運用を終了した商品が、モニタリング実施時点で継続期間5年以上の商品に比べパフォーマンスが劣っていることが分かりました。当局は契約期間の短期化によるパフォーマンス低下の背景に、ターゲット型を中心とした乗換販売があるとみています。
多くの調査先で「目標値に到達したターゲット型保険の多くが解約され、同時に同一商品を同一顧客に販売する乗換販売が発生していた」と指摘。市場価格調整、解約控除で利幅が押し下げられることになり、「販売手数料が二重に発生することを考慮すると、必ずしも経済合理性があるとは言えないと考えられる」と批判しました。
加えてレポートでは、外貨建保険のインセンティブ体系の課題点にも言及。多くの調査先で「販売会社が組成会社から受け取る手数料の体系が、顧客へのフォローアップ等を行う役務負担に見合ったものとなっていない」と記載。初年度の比重が大きいL字型(例として初年度5.5%、2年目以降0.1%)やI字型が採用されていることで「販売後のフォローアップ以上に販売勧誘が促されていた」と分析しています。
調査結果に対し一部事業者からは、「(分析対象となる)重点調査先の抽出基準が曖昧である以上、結論ありきでサンプルを利用できる」(地銀職員)として、統計的意義を疑問視する声も上がっています。一方、「網羅性はないとしても保険販売後の運用成果に関するデータを整理させ、提供させた実績を作ること自体に意義があった」(金融庁別部署の幹部)と評価する向きもあります。
外貨建て債券については、新興国の経済情勢や市場動向などの情報を十分に把握できない顧客に、新興国通貨建ての債券を販売するといった課題事例を紹介。ファンドラップについては、最善利益追求の観点から、コストとリターン(コスト控除後)の妥当性の検証、運用実績などの情報開示の充実が期待されるとしています。
仕組債の「販売ニーズ」に当局は疑いの目
複雑な仕組債をめぐっては、その代表的な商品類型であるEB債について22年のFDレポートで「購入する意義はほとんどない」と指摘し、注目を集めました。その後、日本証券業協会がガイドラインを整備し、23年夏に施行。今回のレポートではガイドラインを受けて事業者側においても個人向けの販売の取扱停止、販売態勢見直しの動きが広がる一方、法人向けの販売は依然として一定水準にあると説明しています。一部事業者について「根強い顧客ニーズがあるため販売が増加していると主張している」とも記載。ある当局幹部は「中には納得のできない主張もあった」と話しています。
EB債やリンク債などの仕組債と同様、プットオプションの売却というポジションを取ることが多い仕組預金についても言及。設計は仕組債と共通するところもありますが、多くの調査先でトータルリターンがマイナスになっていたというデータのみを提示し、当局としての商品性の評価は見送っています。金融庁幹部は「たしかにテールリスクが大きいという性質は仕組債と似ているが、そのリスクが顕在化した際に顧客が被る損失の度合いには相当の差があるようだ」と説明しています。
今回のFDレポートについては、保険商品を認可する立場にもある金融庁として、外貨建保険の課題にどこまで切り込むことになるかが注目点のひとつとなっていました。一定の分析成果を示したものの、「他部署に気をつかいすぎて歯切れが悪くなっている」(銀行幹部)と皮肉る向きもあります。
一方、前企画市場局長である井藤英樹新長官の就任を受け、業界内では、庁内でプリンシプル所管部署の発言力がいっそう強まるとの観測も浮かんでいます。今後、FD原則やそれをルール化した「最善利益義務」の観点から、外貨建保険を含むリスク性商品の販売面における課題について、業界側への攻勢をいっそう強める可能性がありそうです。