finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート

特別インタビュー 中島淳一・前金融庁長官【後編】
販社は顧客本位を徹底し、アセマネは世界に挑め

finasee Pro 編集部
finasee Pro 編集部
2024.05.23
会員限定
特別インタビュー 中島淳一・前金融庁長官【後編】<br />販社は顧客本位を徹底し、アセマネは世界に挑め

資産所得倍増プランや新NISAがスタートし、日本でも「貯蓄から投資へ」の大変革が起きつつある。その立役者のひとりが、2021年7月から23年7月まで金融庁長官を務めた中島淳一氏(現KPMGジャパン シニアアドバイザー)だ。 画期的な新NISAが世に出るまでに、果たしてどのような生々しい政策論議があったのか。個人の資産形成と日本経済の成長との好循環を生むために、国内の販売会社や運用会社には何が求められているのか。 制度誕生に注力した中島氏に話を伺った。               (インタビュ/ 金融ジャーナリスト 浪川攻)

―― 中島体制の当局は、高リスク性商品の販売を徹底的に取り締まりました。 ひと昔前の当局であれば一過性の措置で終わらせることもあったかもしれません。 根気強く対処してこられた理由は。

なぜ日本で「貯蓄から投資へ」が進まなかったのかを分析していくと、やはり商品の売り方に問題があることに行き着きます。仕組み債を求めているわけではない人に高リスクの仕組み債を勧誘して売りつけたあげく、株価が下がってしまえばノックイン水準を割って顧客に大損失をもたらすような営業を許容するわけにはいきません。

よく「デリバティブ商品はヘッジになる」という人がいますが、それはあくまでも短期の話でしょう。オプション料や手数料を稼ぎたいという動機にすぎません。本当にヘッジしたいのであれば、長期・積立・分散を推奨すればいいはずです。

金融庁の「金融サービス利用者相談室」には日々150 ~ 200件の苦情や訴えが寄せられます。私が長官であった間に、相談室の所管を総合政策課から、モニタリングを担うリスク分析総括課に移し、具体的な苦情をリアルタイムで行政に反映できるようにしました。国民が安心して投資できる環境を整えることがわれわれの使命であるはずです。

金融機関との面談の場で、あえて私から「いくつかの販売会社は仕組み債の販売をやめました。おたくは販売を続けるのですか? それは経営トップの判断ですか?」と聞くと軒並みやめていく。単なる横並び意識によるものなのです。金融機関の経営者には顧客のためにならない商品に対して「売らない覚悟」を持っていただきたいと思います。

――国内運用会社に期待することは。

日本の運用会社は伸びしろが大きいのに、世界で戦えるような運用会社がこれまで育ってこなかったのはなぜか。まず、日本のアセマネ会社のほとんどが証券会社やメガバンクのグループ傘下にある点が挙げられます。各グループの主流は証券会社や銀行であり、運用会社は傍流に見られがちです。報酬の水準を比べてみても、ホールディングスや銀行のトップは何億円で、運用会社のトップはその半分くらいであると言われます。これでは運用会社で能力のある人材が海外に流出してしまいます。

これまでの系列構造を見直し、グループ内で運用会社の地位を向上させる取り組みに着手する金融機関が出てきてほしいと思います。 日本も、今の勢力図や系列構造にこだわらずにダイナミックな再編が起きてもいいはずです。とはいえ、役人ができるのは個社にエールを送り、環境を整えることまでです。それ以上の具体的なシナリオはそれぞれの経営陣に自発的に考えていただくことでしょう。

―― 最終的には「顧客に選ばれる存在」になる必要があるとすれば、投資家が商品を選別できるように情報開示を充実させなければなりません。

よく指摘されるように、実際の運用成績の見える化が欠かせません。例えば、企業年金の世界でいうと、中小の企業年金に顕著なのですが、知識も経験もないまま運用担当者に就く例が目立ちます。ポートフォリオの見直しも基本的には過去の踏襲で、いざ見直そうものなら営業上のしがらみで待ったをかけられるというのが日本の慣行です。

これも企業年金の運用成果が見えることによって、運用担当者が本気になってポートフォリオのあり方を考えるようになるでしょう。アセマネ側も、ファンドの運用担当者の名前が公表されれば責任感が伴うでしょうし、担当者が成果を挙げれば自らの手柄が広く世に知られることとなります。名前を明らかにして運用するからには、単なる他社の模倣や、販売会社の意向に従っただけのファンドも生まれにくくなるでしょう。

――中島さんはなぜそんなにも金融機関の実情に詳しいのでしょうか。当世の官僚は民間の実態を細かく把握しているのが当たり前なのですか。

霞が関の長官室で金融機関の幹部と面会するだけでは、なかなか現場のリアルな実情はつかめません。情報収集という意味では、業界団体の大会やシンポジウムの後に開かれる立食パーティーが役立ちます。やはり私に声を掛けてくださる方は、何か意見を言いたい人なんですよ。私は必ず最後までいるようにして、いろいろな方から話を聞くようにしています。私はもう役人ではありませんので、これまで以上に金融業界の方と率直に意見交換をできればと思っています。

―― 中島体制の当局は、高リスク性商品の販売を徹底的に取り締まりました。 ひと昔前の当局であれば一過性の措置で終わらせることもあったかもしれません。 根気強く対処してこられた理由は。

なぜ日本で「貯蓄から投資へ」が進まなかったのかを分析していくと、やはり商品の売り方に問題があることに行き着きます。仕組み債を求めているわけではない人に高リスクの仕組み債を勧誘して売りつけたあげく、株価が下がってしまえばノックイン水準を割って顧客に大損失をもたらすような営業を許容するわけにはいきません。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #金融庁
  • #フィデューシャリー・デューティー
  • #運用会社

おすすめの記事

【新NISA対象】ブラックロックから「iシェアーズ S&P500 トップ20 ETF」「iシェアーズ ゴールド ETF」が上場! 個人投資家にとっての魅力は…

Finasee編集部

【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
① 「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか

finasee Pro 編集部

【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉑
パフォーマンス好調な欧州株ファンドに約11年ぶり高水準の資金流入

藤原 延介

【プロが解説】「服の製造小売り」は、デジタル力による顧客ニーズ対応と、「捨てない社会」のマネタイズ化が今後の市場発展のカギ

上野 武昭

新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】

finasee Pro 編集部

【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか

みさき透

著者情報

finasee Pro 編集部
ふぃなしーぷろへんしゅうぶ
「Finasee」の姉妹メディア「Finasee PRO」は、銀行や証券会社といった金融機関でリテールビジネスに携わるプロフェッショナルに向けたオンライン・コミュニティメディアです。金融行政をめぐる最新動向をはじめ、金融機関のプロフェッショナルにとって役立つ多様なコンテンツを日々配信。投資家の皆さんにも有益な記事を選りすぐり、「Finasee」にも配信中です。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
① 「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか
新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉑
パフォーマンス好調な欧州株ファンドに約11年ぶり高水準の資金流入
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか
ゆうちょ銀・郵便局の売れ筋トップに新設の単位型ファンド、バランス型人気も続く
金融庁が「プログレスレポート2024」の公表を休止した深いワケ 「FDレポート」との違いが出せなくなった?
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
資産形成を達成した後…「次なる課題」
静銀ティーエム証券の売れ筋で際立つパフォーマンスをみせた「モノポリー戦略株式」とは?
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
資産形成を達成した後…「次なる課題」
静銀ティーエム証券の売れ筋で際立つパフォーマンスをみせた「モノポリー戦略株式」とは?
【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉑
パフォーマンス好調な欧州株ファンドに約11年ぶり高水準の資金流入
【金融風土記】宮崎県には地方創生の「優等生」も! 地域金融機関の集約が進む
金融庁が「プログレスレポート2024」の公表を休止した深いワケ 「FDレポート」との違いが出せなくなった?
不安定な市場環境で「利回り」と「信用力」の高さを併せ持つ米国地方債にチャンス=フランクリン・テンプルトン・アメリカ地方債ファンドが設定3周年

「自立と連携」を掲げて試行錯誤を重ね、確立された「銀証連携」モデルが新時代を拓く case of しずおかフィナンシャルグループ
投信ビジネスに携わる金融のプロに聞く!「自分が買いたい」ファンド【アクティブファンド編】
【文月つむぎ】投信だけでなく保険販売でもFDを徹底できるか?知っておきたい「保険業法」改正のポイント
【文月つむぎ】「プラチナNISA」という言葉がない!自民党金融調査会の最新提言を読み解く
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
いわき信組の不正を見抜けなかった金融庁、「根本的な人員不足」も背景
浪川攻の一刀両断
手数料自由化とファンドラップから見る日本と米国の証券リテール改革の相違
三菱UFJMS証券の売れ筋にみえる国内株式ファンドへの期待、物価高で苦しむ年金生活者を支えるファンドとは?
外貨関連を軸に多彩なサービスを展開顧客の信頼を勝ち取る「総資産アプローチ」case of SMBC信託銀行
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら