finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート

伊藤元重東大名誉教授に聞く(前編)
「NISA×賃上げ×年金」で読み解く日本の分配 インフレに負ける公的年金が「貯蓄から投資へ」を促す?

Enrich JAPAN(エンリッチ・ジャパン)―資産運用立国「ニッポン」の未来を探る―

finasee Pro 編集部
finasee Pro 編集部
2024.04.17
会員限定
伊藤元重東大名誉教授に聞く(前編)<br />「NISA×賃上げ×年金」で読み解く日本の分配 インフレに負ける公的年金が「貯蓄から投資へ」を促す?<br />

新NISAのスタート、日経平均株価4万円突破、バブル期並みの賃上げ率——。2024年に入って相次ぐ日本経済の地殻変動現象は、ファイナンシャル・ウェルビーイング(経済的に幸福な状態)の醸成にどのような示唆をもたらすのでしょうか。日本を代表する経済学者である伊藤元重東大名誉教授に聞きました。前編では、公的年金をめぐる意識や課題を手がかりに、日本経済の現状を分析していただきました。

――新NISAの効果をどのように評価しますか。

きわめて順調に走り出したと思います。これまで日本では投資に消極的な個人が多かったわけですが、ちょうど株式市場が上昇相場の中で新NISAがスタートし、いわゆる「貯蓄から投資へ」のシフトが進んでいるとみています。快調な滑り出しの背景には、年金だけでは老後のお金が足りないとの認識が人々に広がってきたこともあるでしょう。2019年に突如として持ち上がった「老後資金2000万円問題」の影響もあるかもしれません。年金さえしっかり受給できれば老後の生活費をまかなえるという神話は過去のものになりつつあります。

――岸田文雄政権は当初、金融所得課税の強化を掲げるなど、マーケット・フレンドリーではないと思われていました。

NISA自体は岸田政権の発足前から存在する制度ですし、「貯蓄から投資へ」も10年以上前から唱えられてきたキャッチフレーズです。個人の資産形成を促すための政策論議を積み重ねていった結果、岸田内閣のタイミングで恒久化と非課税枠拡大という形で実を結んだとみています。

「資産所得倍増プラン」は天から降ってきたわけではありません。これは私の印象ですが、岸田首相は自身が「良い」と評価する政策であれば積極的かつ柔軟に取り入れていくタイプの政治家ですので、政権の調整力でプランをまとめきったということではないでしょうか。

――新NISAをきっかけに海外資産に個人マネーが集中することで、軽度の「キャピタルフライト」が起きているとの指摘もあります。

その点はあまり憂慮する必要はないでしょう。そもそもマネーはグローバルに動くものですし、NISAの目的は投資の裾野を拡大することにあるわけですから、今の時点で投資対象となる商品を細かく限定するのは得策ではありません。資産運用のサービスというのは富士山の形のようなもので、裾野が広がらなければ標高も高くなりません。

――国内企業の賃上げ率がバブル期並みまで上昇した背景は。

いま起きている賃上げのムーブメントは3つの要因に整理できます。1つ目は、やはり物価の上昇です。海外で激しいインフレが起き、輸入物価を通じて日本国内の物価も上がってきています。国民生活に深刻な悪影響が及ぶ事態を避けるには、政府が意識的に企業に働きかけて賃金の上昇を促さざるを得なくなっています。

2つ目は、賃金と物価の連動性です。賃金が上がれば国内経済の7割を占めるサービス産業の価格にも上昇圧力がかかります。そして3つ目は、日本経済の構造問題である人手不足です。賃金が社会全体で一様に上昇するわけではありませんが、賃上げ率の高い企業や産業がその他の企業をけん引していく好循環を生むことが重要です。

――物価上昇と賃上げの負の影響は。

最も厳しい層は年金生活者でしょうね。基本的に公的年金は物価や賃金の上昇に連動する設計になっているものの、「マクロ経済スライド」の導入により年金額の増加に歯止めがかけられています。物価上昇や賃金上昇で恩恵を受ける人たちと、むしろ被害を受ける人たちの間で、ある種の格差が拡大しています。

ただ、振り返ってみると、過去20年のデフレ時代は、物価も賃金も上がらない中で雇用が厳しかった半面、国民一人ひとりの年金受給額は下がらなかったので、高齢の年金受給者にとってみれば好ましい経済環境であったといえます。社会全体の分配でみると、現役世代の勤労者よりも年金生活の高齢者のほうが有利になりやすいのがデフレ時代の特徴であり、インフレ時代に入って巻き返しが起きているとも表現できます。それが良いか悪いかはともかく、そのような傾向があることは事実ですし、NISAの話に戻れば、現役世代の所得向上のあり方にも関係してきます。

                             (後編へ続く)

――新NISAの効果をどのように評価しますか。

きわめて順調に走り出したと思います。これまで日本では投資に消極的な個人が多かったわけですが、ちょうど株式市場が上昇相場の中で新NISAがスタートし、いわゆる「貯蓄から投資へ」のシフトが進んでいるとみています。快調な滑り出しの背景には、年金だけでは老後のお金が足りないとの認識が人々に広がってきたこともあるでしょう。2019年に突如として持ち上がった「老後資金2000万円問題」の影響もあるかもしれません。年金さえしっかり受給できれば老後の生活費をまかなえるという神話は過去のものになりつつあります。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #NISA

おすすめの記事

資産運用立国の実現に向けた官民対話の新たな挑戦──「資産運用フォーラム」が描く日本市場の未来とは
③日本の金融リテラシー向上へ、将来の資産運用を支える人材を育てる

finasee Pro 編集部

資産運用立国の実現に向けた官民対話の新たな挑戦──「資産運用フォーラム」が描く日本市場の未来とは
②DX・企業価値・サステナ・オルタナの4分野で日本を動かす

finasee Pro 編集部

資産運用立国の実現に向けた官民対話の新たな挑戦──「資産運用フォーラム」が描く日本市場の未来とは
①国内外の金融50社超が参加!資産運用フォーラムが目指すもの

finasee Pro 編集部

日本初のハンセンテック指数連動ETFが東証上場―注目浴びる“中国テック株”が投資の選択肢に

Finasee編集部

10億円以上の資産家が多いのは山口県、北陸ではNISA活用が進む。県民性から読み解く日本人の投資性向とは?

Finasee編集部

著者情報

finasee Pro 編集部
ふぃなしーぷろへんしゅうぶ
「Finasee」の姉妹メディア「Finasee PRO」は、銀行や証券会社といった金融機関でリテールビジネスに携わるプロフェッショナルに向けたオンライン・コミュニティメディアです。金融行政をめぐる最新動向をはじめ、金融機関のプロフェッショナルにとって役立つ多様なコンテンツを日々配信。投資家の皆さんにも有益な記事を選りすぐり、「Finasee」にも配信中です。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
J. フロント リテイリングに聞く企業型確定拠出年金制度運営の秘訣―継続投資教育の参加率が驚異の80%超えの理由とは?
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【文月つむぎ】運用立国議連の新「緊急提言」を読み解く!NISA、税制の見直しで対応が求められる3つのポイント
SBI証券で再び米国大型テック株への関心高まる、新設「メガ10インデックス」もランクイン
企業型確定拠出年金の制度運営に中小企業ならではの距離感を活かす―新宮運送が構築した“一人ひとりに寄り添う”サポートの形
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
第16回 資産運用にまつわるさまざまな常識を疑え!【総集編】
「資産運用において疑うべき常識」を振り返る
楽天証券の売れ筋で「オルカン」がトップに。米国市場への警戒感を背景に「世界のベスト」もランクイン
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
J. フロント リテイリングに聞く企業型確定拠出年金制度運営の秘訣―継続投資教育の参加率が驚異の80%超えの理由とは?
第16回 資産運用にまつわるさまざまな常識を疑え!【総集編】
「資産運用において疑うべき常識」を振り返る
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉖
~米国投資信託最新事情
ミューチュアルファンド初の30兆ドル突破も、米国株ファンドから過去最大の資金流出
「支店長! お客さまへ良い提案をするためのコンサルティング能力はどうやって向上させればいいですか。何に関心を持つべきでしょう」
【運用会社ランキングVol.3/販売会社一般編②】販社からの評価を高める「野村」の底力と「フィデリティ」の運用力、2年連続で総合トップの「アモーヴァ」は安泰か
【運用会社ランキングVol.1】販売会社が運用会社に求めるものは、運用力か人的支援か? 2025年の評価を発表!
毎月分配型解禁見送りと運用立国の「親離れ」――地銀は新強化プラン+口座付番義務化で”地域金融出先機関”に?
【オフ座談会vol.10:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
【新連載】プロダクトガバナンス実践ガイド~製販情報連携の背景と事例
①プロダクトガバナンスが注目される背景と製販情報連携の重要性
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
【連載】こたえてください森脇さん
⑪預かり資産業務に対するマネジメント層の理解が低い
【運用会社ランキングVol.1】販売会社が運用会社に求めるものは、運用力か人的支援か? 2025年の評価を発表!
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【みさき透】高市内閣で「運用立国」から「投資立国」へのシフトが加速へ
【連載】こたえてください森脇さん
⑫元本保証でない商品の販売を嫌がる職員への働きかけ
長野市vs松本市"不仲説"を乗り越え統合の八十二銀・長野銀が、「もう取引しない」と立腹の取引先と雪解けに至るまで
【文月つむぎ】証券口座乗っ取り被害ゼロへ 金融庁の新監督指針を読み解く
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら