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ストラテジスト香月太郎氏に聞く、日銀政策転換で変わること 金利上昇で銀行営業も「投信販売から預金増加へ」?

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2024.04.02
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ストラテジスト香月太郎氏に聞く、日銀政策転換で変わること 金利上昇で銀行営業も「投信販売から預金増加へ」?

日銀によるマイナス金利解除は、個人投資家の行動や投資信託の運用・売れ筋、企業年金などアセットオーナーの運用戦略、そして金融機関の経営戦略にどのような影響を及ぼしていくのでしょうか。株式投資、債券運用などに造詣が深く、投資家、金融機関の動向にも詳しいCGPパートナーズの香月太郎氏に話を聞きました。

「心象変化」の間接的影響に注目

――日銀のマイナス金利解除が与える影響をどのようにみていますか。

「マイナス金利解除を取り上げているニュースをみていると、あたかも日銀の政策転換によって金利が間違いなく大幅に上昇しつづけるかのような報じ方も目につき、少しあおりすぎではないかという印象を受けます。冷静にみれば市場への直接的な影響は限定的であり、どちらかといえば投資家心理の変化が多方面に及ぼす間接的な影響の方が大きいでしょう」

「まず、今回のマイナス金利解除後のマーケットをみると、今のところ株は下落せず、円安に動き、大勢が思っていたのとは何もかも逆の方向に動きました。金利に関しても、短期のところが若干上がった程度です。ETFの買い入れがしばらく途絶えていて、日本株も強い状況が続く中、政策転換が市場に与える影響を最小限に抑えようと情報を周到に小出しにしてきた植田総裁の作戦通りといるでしょう」

「一方、投資家に心理的な側面、特に将来的な金利変動のシナリオの立てかたには変化が生じることになりそうです。従来、基本的にはメインシナリオとして金融緩和の継続、サブシナリオとして緩和拡大という2択程度に予想の幅が限られていました。しかし今回の政策転換によって、金利引下げのサブシナリオがほとんど消え去り、むしろひょっとしたら更に引き上げられるのではないかという見方が台頭しています」

金利上昇なら年金運営の説明責任増も

――投資家の行動はどのように変わりそうですか。
「心理的な変化の影響が特に大きいのは、債券投資や国内預金の分野でしょう。仮に金利上昇を前提とするのであれば、為替リスクを避けたい層のニーズが一定程度、国内債券や円預金へとシフトしていく可能性があるかもしれません。元々日本人の大半が投資に保守的であることを考えると金利上昇を待つために投資行動を控えるという方も増えてきそうです。米国債と比べれば利回りで見劣りするにせよ、例えば国内債券で1.0% 程度を取れるような環境になれば為替リスクを忌避して、選好する割合が一気に増えるでしょう」 

(注)香月氏作成

「年金の運用や、銀行など金融機関の自己勘定運用の分野では、デュレーション(保有債券の平均回収期間 。一般的にデュレーションが長いほど、金利上昇時に評価額が下落しやすい)を短期化するために、償還までの期間が長い債券を売却し、短い債券に入れ替える動きが出てくる可能性はあります。年金の予定利率を維持するためには、株式やヘッジ付外債の保有割合を引き上げるのも選択肢でしょう」

――政府の「資産運用立国実現プラン」に盛り込まれたアセットオーナー改革について、企業年金に対する予定利率引上げのプレッシャーではないかと解釈する人も少なくありません。金利上昇が年金運営に与える影響をどうみますか。
「現段階で保守的な運営をしている企業年金にしてみれば、仮に長期金利が上昇した場合、予定利率の引上げ圧力が母体企業を通じて生じると、利率を据え置くことのエクスキューズはいっそう難しくなるかもしれません」

「とはいえ、状況が急速に変化する中で戦略を機動的に転換することは簡単ではありません。現実的にみれば多少利回りが低くとも、いったんは現状のポートフォリオを維持して長期金利の上昇を待つ判断を下す機関投資家の方が多いだろうとみています。仮に4月に日銀が公表する展望レポートで物価の見通しが引き上げられれば、利上げ観測が再度強まり、長期金利が上昇する可能性もあります」

投信業界への影響は

――金融機関側において、投資信託を含むリテールビジネスの在り方は変わるでしょうか。
「NISA対象商品を中心にインデックス型投信を選好する現在の個人投資家の基本潮流は変わらないでしょう。アクティブ型の売れ筋にも目立った変化は起きないと思っています。バランス型についても、既存ファンドの大半は国内債券より 海外債券の組入比率が高く、基準価額の大きな変動は考えにくい状況です。投信を売買する個人投資家への影響は当面、限定的といえるでしょう」

「ただひょっとすると、金利上昇の影響を緩和するという名目で 、国債をショートする(金利上昇局面で収益を狙う)ようなファンドに一時的に資金が流入したり、店頭の品ぞろえが増えたりといった動きがあるかもしれません。販売会社としては住宅ローンとセットで提案するなど基本的に金利リスクのヘッジという文脈で営業することになるでしょうが、一部の投資家においては投機的な動きも出てくるでしょう。個人的にはそういった提案が正しいとは思いませんが 」

「加えて銀行においては、ビジネス全体における投信販売の位置づけが変化するかもしれません。投信などリスク性商品を販売するには営業担当者の教育に多大なリソースを割く必要があります。1%程度の金利を無理せず狙えるような環境になれば、投信販売から預金を増やすことへと重点がシフトしていくのではないでしょうか」

「とはいえ銀行で投信が不要になるというわけではありません。現状の制度では、NISAは1つの金融機関でしか開くことができません。NISA口座を開くと、自然とそこがメインバンクになってしまう今の仕組みが変わらない限り、銀行にとっては預金の獲得とNISA口座による囲い込みを両にらみで継続する必要があるでしょう」

 

香月太郎(かつき・たろう)氏

大手金融機関で金融商品組成、債券トレーディング業務などに長年従事。

現在は、独立系プライベートバンクCGPパートナーズで業界でも稀少な専任のストラテジストとして活躍。理論と実務を踏まえた分かりやすい説明に定評がある。

公式Youtubeチャンネル「カツキタロウの腑に落ちる資産運用の話」(https://www.youtube.com/@tkatsuki_cgp)

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著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
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