finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート
年金運用から学ぶプライベートアセット投資の手引き

第1回 プライベートアセット投資の心構え【前編】

小倉 邦彦
小倉 邦彦
『オルイン』シニアフェロー 元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー
2023.12.06
会員限定
第1回 プライベートアセット投資の心構え【前編】

ここ数年の急速なインフレ進行にともなう金利上昇を受けて、伝統的な外国債券運用がワークしない局面が続いている。為替ヘッジコストの高止まりもまた、国内投資家には頭の痛い課題だ。そうした中、安定的なインカム収益を求めて低流動性資産への投資を始めたり投資額を増やしたりする動きも加速している。 一方、日本国内では多くの企業年金が数年前からプライベートアセット投資を積極的に拡大しているが、そうした年金運用のプライベートアセット投資から得られるヒントは少なくないはずだ。 そこで2023年3月まで三井物産連合企業年金基金で年金資産運用の実務に携わり、現在は運用情報誌「オルイン」のシニアフェローとして、執筆や講演活動を行う小倉邦彦氏に、「年金運用に学ぶプライベートアセット投資の手引き」をテーマに解説いただく。

伝統的4資産の収益が低迷する中でもプライベートアセット(以下PA)は昨今、高い収益性を実現しています。筆者が2023年3月まで所属していた年金基金でも、国内不動産、インフラ、プライベートデット、プライベートエクイティ(以下PE)等の安定したリターンがヘッジ外債債券等による大きなマイナスをカバーしていたのが実態です。年金の関係者と話していても「ヘッジ外債は6%近いドル円のヘッジコストでキャリー収益がマイナスになっており、上場株もやや割高感があるので、収益の安定した低流動のPAにシフトしたい」という話をよく耳にします。

これは年金や大学基金に限らず金融法人でも同じような動きがあるように思います。不動産やPE、インフラは金融法人でも以前から積極的に投資をされていたようですが、最近では年金に比べ出遅れていたプライベートデット(以下PD)にも生命保険会社を中心に積極的に投資を勧められているようです。2023年8月18日付のBloomberg Web Newsでは「国内生保、220兆円のプライベートクレジット市場に熱視線」との見出しで国内生保がPD投資の拡大を図っていると伝えていました。今年末に募集が締め切られる予定の欧州系PD有力ファンドでは国内だけでコミットメントが700億円を超えると言われていますが、50%強は生命保険会社を主体とした金融法人が占めているようです。

2022年度の資産クラス別のリターンを見ていても、金利上昇によるキャップレートの上昇やオフィスビル需要の低迷で収益が低下傾向にある米国不動産や、ベンチャーキャピタルを除いては、PAの各資産クラスは堅調なリターン水準を維持していました。これらは果たして持続可能なものなのでしょうか。例えば、日本の私募REITは設立がリーマンショック後だったこともあり、これまで継続して安定的なリターンを実現してきていますが、年率6~7%近いトータルリターンが未来永劫持続できるものなのでしょうか?

低流動のPAは流動性を犠牲にして、いわゆる流動性プレミアムを享受することで高いリターンを得るものですが、犠牲にした流動性以外にも数多くのリスクを内包しています。市場に起因するリスク以外はマネジャーが上手くコントロールしているため普段は顕在化しにくいですが、PAはさまざまなリスクを内包しているがゆえに、高いリターンを享受できているとも言えます。本シリーズではPA投資における「心構え」を第1回で紹介し、第2回以降では主要資産クラスごとに投資における留意点をお話ししていきたいと考えています。

幸いにして筆者は、年金基金に着任する前にインフラや不動産については商社でスポンサーの立場としてさまざまな案件に接する機会があり、それなりの知見を得ることができましたが、年金での運用経験は約6年と駆け出しの域を出ない立場でもありました。運用経験の長い方からすると「そんなこと知っているよ」ということも多々あるでしょうし、経験上どうしても年金の立場からの解説になりがちですが、この点はご容赦いただければと思います。これから始める方や未だ始めて間もない方に「なるほど、そうだったのか」という感想を持ってもらえることを主眼に書いていきますので、最終回までお付き合い頂けると幸いです。

プライベートアセット投資を始める前に考えること

まずは「何のために投資をするのか?」という投資目的を明らかにする必要があると思います。大きく分けると不動産やインフラのようなインカム系の資産で安定的なインカムゲインを狙っていくのか? あるいはPEのようにリスクはあるがキャピタルゲインを主体に高いトータルリターンが期待できるものに投資し、運用ポートフォリオ全体のリターン拡大を狙うのか? という目的を明確にする必要があります。これはポートフォリオ全体の目標リターンを達成するためには、どのような資産構成にすれば良いかというところから決定されるものだと思います。ポートフォリオ全体の目標リターンという考え方は年金に独自のものかもしれません。年金は年金債務をカバーし受給者への給付に支障を来さない資産を確保するという考え方に立っており、そのためには毎年どれだけのリターンを出せばよいかという目標リターンを設定します。複数の資産による分散効果を利用し、目標リターンをより低いリスクで達成しようという考えが基本になっています。

従って、同じデット系の運用商品でもポートフォリオの目標リターンが2%台であれば、シニアローン主体でレバレッジも抑え、低リスクで円ベース3~4%程度のリターンが期待できるファンドでも十分だと思います。しかし、ポートフォリオの目標リターンがそれよりも高い場合は、同じデット系でもメザニンを一部組み入れ、ファンド自体に多少のレバレッジを効かせ、少しリスクを上げて円ベースの目標リターンを5~6%程度にかさ上げする必要があるかもしれません。もちろん、どれを選ぶかはポートフォリオ全体の中で考えていくことになると思います。

年金におけるプライベートアセット投資の実態

次にPA投資では先行していると言われている年金が、実際にどのような形でPA投資に取り組んでいるかを参考としてご紹介したいと思います。

図表1 年金の資産別構成割合 「オルイン」による2020年7~9月調査結果出所:オルイン Vol.59 2021年春号

 

PA投資で先行していると言っても年金全体ではPA投資の比率は5.8%です。ただ確定給付企業年金(DB)は厚労省の公表数値によると2023年3月末で11,928件も存在し、その規模もさまざまです。資産規模が1000億円を超える大企業による年金基金があるかと思えば、資産規模が数十億円の中堅企業による規約型などもありますが、図表1でも分かるようにPA投資は規模の大きな年金の方がその構成割合が高い傾向にあります。これは上場株式や債券といった流動性のある資産と異なり、PA投資をする場合にはポートフォリオ全体の流動性を勘案しなければならないことや、資産クラスが多様で個々のファンドごとのリスクプロファイルが大きく異なるため、専門性を要するという点にあるかと思います。

従って、資産規模1000億円以上の大規模年金では、PA投資は14.5%になっており、この中でも積極的にPA投資に取り組んでいる年金ではPA投資の比率が30~40%に達しているところもありますが、足元ではそういう年金のパフォーマンスが株式や債券のような伝統的4資産を主体とする年金のパフォーマンスを大きく上回っているのが実態です。

また、年金の特徴として不動産は私募REITが主体で上場REITへの投資は僅少であるという点が挙げられます。年金は長期投資が基本なのであまり流動性を気にしていないということ、逆に時価が大きく変動するものを避ける傾向があること、上場REITは上場株式との相関関係が強く(私募REITとの対比で)ポートフォリオの分散効果が低減されてしまう、といったポイントが背景にあります。

次に図表2では資産規模別のPA投資内訳を示しています。規模の小さい年金では不動産投資の比率が高く、1000億円以上の大規模基金ではPE、PD、インフラ、不動産といった主要資産クラスにほぼ均等に分散投資されているのが分かります。国内の私募REITは数億円単位から投資ができること、海外のインフラ資産等に比べ資産内容が分かりやすいこと、さらにオープンエンド型ファンドが主体でクローズドエンド型ファンドのようにキャッシュフローの管理に煩わされる必要がないことなどが、小規模基金でも投資可能となっている要因だと思います。

図表2 年金におけるプライベートアセット投資の内訳

出所:オルイン Vol.59 2021年春号 

 

伝統的4資産の収益が低迷する中でもプライベートアセット(以下PA)は昨今、高い収益性を実現しています。筆者が2023年3月まで所属していた年金基金でも、国内不動産、インフラ、プライベートデット、プライベートエクイティ(以下PE)等の安定したリターンがヘッジ外債債券等による大きなマイナスをカバーしていたのが実態です。年金の関係者と話していても「ヘッジ外債は6%近いドル円のヘッジコストでキャリー収益がマイナスになっており、上場株もやや割高感があるので、収益の安定した低流動のPAにシフトしたい」という話をよく耳にします。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #プライベートアセット
次の記事
第1回 プライベートアセット投資の心構え【後編】
2023.12.12

この連載の記事一覧

年金運用から学ぶプライベートアセット投資の手引き

第6回:プライベートアセット投資の心構え②~まとめとPA投資の将来像【後編】

2024.07.03

第6回:プライベートアセット投資の心構え②~まとめとPA投資の将来像【前編】

2024.06.27

第5回:資産クラス編④ プライベートエクイティ【後編】

2024.05.09

第5回:資産クラス編④ プライベートエクイティ【前編】

2024.05.08

第4回:資産クラス編③ プライベートデット【後編】

2024.04.12

第4回:資産クラス編③ プライベートデット【前編】

2024.04.11

第3回:資産クラス編② インフラ【後編】

2024.02.29

第3回:資産クラス編② インフラ【前編】

2024.02.28

第2回:資産クラス編① 不動産【後編】

2024.01.30

第2回:資産クラス編① 不動産【前編】

2024.01.26

おすすめの記事

【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
① 「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか

finasee Pro 編集部

【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉑
パフォーマンス好調な欧州株ファンドに約11年ぶり高水準の資金流入

藤原 延介

【プロが解説】「服の製造小売り」は、デジタル力による顧客ニーズ対応と、「捨てない社会」のマネタイズ化が今後の市場発展のカギ

上野 武昭

新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】

finasee Pro 編集部

【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか

みさき透

著者情報

小倉 邦彦
おぐら くにひこ
『オルイン』シニアフェロー 元 三井物産連合企業年金基金 シニアアドバイザー
1980年三井物産株式会社入社。本社、広島支店、ドイツ(デュッセルドルフ)等にて経理、財務業務を担当後、1998年~2006年 本店プロジェクト金融部室長。 2006年~2009年 米国三井物産ニューヨーク本店財務課 GM。 2009年~2011年 本店財務部企画室 室長。 2011年~2013年 三井物産フィナンシャルサービス株式会社 代表取締役社長。 2013年~2017年 三井物産都市開発株式会社CFO。 2017年5月~2022年6月 三井物産連合企業年金基金 常務理事兼運用執行理事。 2022年7月~2023年3月 同基金シニアアドバイザー。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉑
パフォーマンス好調な欧州株ファンドに約11年ぶり高水準の資金流入
新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
金融庁が「プログレスレポート2024」の公表を休止した深いワケ 「FDレポート」との違いが出せなくなった?
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
資産形成を達成した後…「次なる課題」
「自立と連携」を掲げて試行錯誤を重ね、確立された「銀証連携」モデルが新時代を拓く case of しずおかフィナンシャルグループ
【みさき透】金融庁、資産運用業の監督体制を再編、担当参事官に永山玲奈氏
ターゲットは“デジタル富裕層”―SMBCグループとSBIグループの新会社設立により「Olive」に新たな“プレミアムクラス”
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
資産形成を達成した後…「次なる課題」
静銀ティーエム証券の売れ筋で際立つパフォーマンスをみせた「モノポリー戦略株式」とは?
【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉑
パフォーマンス好調な欧州株ファンドに約11年ぶり高水準の資金流入
【金融風土記】宮崎県には地方創生の「優等生」も! 地域金融機関の集約が進む
金融庁が「プログレスレポート2024」の公表を休止した深いワケ 「FDレポート」との違いが出せなくなった?
不安定な市場環境で「利回り」と「信用力」の高さを併せ持つ米国地方債にチャンス=フランクリン・テンプルトン・アメリカ地方債ファンドが設定3周年

「自立と連携」を掲げて試行錯誤を重ね、確立された「銀証連携」モデルが新時代を拓く case of しずおかフィナンシャルグループ
投信ビジネスに携わる金融のプロに聞く!「自分が買いたい」ファンド【アクティブファンド編】
【文月つむぎ】投信だけでなく保険販売でもFDを徹底できるか?知っておきたい「保険業法」改正のポイント
【文月つむぎ】「プラチナNISA」という言葉がない!自民党金融調査会の最新提言を読み解く
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
いわき信組の不正を見抜けなかった金融庁、「根本的な人員不足」も背景
浪川攻の一刀両断
手数料自由化とファンドラップから見る日本と米国の証券リテール改革の相違
三菱UFJMS証券の売れ筋にみえる国内株式ファンドへの期待、物価高で苦しむ年金生活者を支えるファンドとは?
外貨関連を軸に多彩なサービスを展開顧客の信頼を勝ち取る「総資産アプローチ」case of SMBC信託銀行
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら