教師に残された売上金問題

由美たちはクラス総出で会計机や椅子の下はもちろん、調理台の周辺や食材を入れていた箱、テントの裏まで確認し、買い出しに使った袋や空になった段ボールもひっくり返していった。

「こっちもないよー」

「ここのごみ袋も見た?」

「今確認してる。でも、それっぽいのはないかな」

誰もが真剣に捜索していた。ほかのクラスの生徒まで協力してくれたが、それでも、黒いポーチは出てこなかった。みんなで探せば見つかるはずという希望は、次第に薄れていった。

「先生、落とし物コーナーってありましたっけ?」

「あ、それなら職員室に集まってるはず。私、ちょっと見てくるね」

由美は職員室に向かい、落とし物入れとして使っている買い物かごをあさった。子ども用の財布や渋めのクラッチバッグなど、現金が入りそうなものはいくつかあったが、肝心の黒いポーチは見つからない。肩を落として生徒たちのところに戻り、力なく首を横に振る。

「だめ。落とし物コーナーにもなかった」

「マジかあ」

その後も探し続けたが、ポーチは見つからなかった。

まもなく文化祭終了の放送が流れ、周囲の模擬店も撤収を始める。由美は途中で学年主任に事情を報告していた。今日中に見つからなければ翌朝、ほかの管理職にも報告して対応を決めることになっている。

「先生、校舎の中も探してきます」

「いや、今日はもういいよ。みんなも朝からずっと動き回って疲れたでしょ」

「でも、お金が……」

生徒たちの表情は、不安でいっぱいだった。このまま帰れと言われても納得できないのだろう。由美自身、何か解決策があるわけではない。それでも立場上、これ以上生徒たちに居残りさせるわけにはいかなかった。

「みんな今日は帰りなさい。お金のことは先生がなんとかするから。打ち上げやるんでしょ? せっかくだし行っておいで」

生徒たちがそれぞれ荷物を持ち、朝とは別人のように静かに去っていく中、中村がうつむいたままこちらに近づき、由美の前で頭を下げた。

「先生、本当にすみませんでした」

「中村さんだけの責任じゃないよ。明日また話そう」

由美は誰もいなくなったグラウンドで、静かに祈った。

どうか売上金が見つかりますように。

願うだけでは何も解決しないことを分かっていながら、由美は重い足取りで職員室へ向かった。

●大盛況となった文化祭の焼きそば屋台で、売上金を入れた黒いポーチが突然なくなり、責任を巡って生徒たちは対立。クラス総出で探しても見つからず、担任教師である由美は不安を抱えたまま1人で職員室へ戻ることになった…… 後編【「どちらでこれを?」売上金紛失騒動で荒れに荒れたクラス…職員室に現れた高齢男性の“用件”】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。