達成感から一転

夕方、生徒たちは鉄板の火を止め、テントの周りを片づけ始めた。残っている焼きそばもわずかで、文化祭も終盤に差しかかっている。生徒たちの表情には、疲れと達成感が浮かんでいた。

「かなり売れたよね」

「途中で買い足したくらいだからな。思ってたよりいったんじゃない?」

「打ち上げで豪遊しようぜ」

「二次会はカラオケな」

そんな声を聞きながら、由美も使い終わった備品をまとめていた。あとは売上を確認して学校に報告し、片づけを済ませれば終わりだ。

そう思っていたとき、会計を担当していた中村がテントの中を見回し始めた。

「先生、黒いポーチ見ませんでした?」

「ポーチ?」

「売上金を入れてたやつです。この辺にあるかと思ったんですけど」

中村が指したのは会計に使っていた机だった。周囲の生徒も手を止め、机の下や段ボールの脇をのぞき込む。しかし、それらしいものはない。最初は誰かが移動させただけだと思っていた由美も、次第に焦り始めた。

「誰か持ってない?」

「会計の机に置いてなかった?」

「ない。さっきから探してるけど」

由美は中村のそばへ寄った。

「中村さん、最後に持ってたのはいつ?」

「お昼休憩のときはありました。午後、忙しくなったとき佐藤くんにお願いして……」

名前を呼ばれた佐藤が顔を上げた。

「俺もそのあと別の仕事頼まれたから、田中さんに渡したよ」

「私もずっと持っていられなくて……山本くんたちにお願いしたと思う」

「頼まれたのは覚えてる。でも、そのあとどうしたっけ……斎藤、覚えてる?」

「え? 俺らって、一緒にいた?」

生徒たちから話を聞くほど、由美の不安は大きくなった。忙しい時間帯は全員が持ち場を離れ、そのとき必要な仕事を手当たり次第に手伝っていた。由美自身も店を回すことで精いっぱいで、売上金が誰の手にあるのか確認していなかった。

「じゃあ、最後に持ってたのは山本くん?」

「あんたどこにやったのよ」

「だから、そこが思い出せないんだってば」

「は? なんで逆ギレしてんの?」

焦りが広がるにつれ、誰もが険しい表情になっていく。

やがて山本と仲の良い男子生徒が中村へ視線を向けた。

「でもさ、会計係は中村じゃん」

「現金が入ってるのに目を離しちゃダメじゃない?」

「ちょっと無責任かもな」

「でも、私だって、人が足りないから手伝ってって言われて……」

中村の声が震えた。唇を噛んでうつむいたかと思うと、目から涙がこぼれる。すると今度は女子生徒たちが中村を泣かせたと、男子たちを責め始めた。やっぱり山本が、いや中村が、と責任を押し合うような会話が飛び交う。つい先ほどまで楽しそうに打ち上げの計画を立てていたのが、まるで嘘のようだ。

「みんなストップ。いったんやめて」

由美は普段より鋭い声を出した。生徒たちが黙るのを待ってから、1人ずつ顔を見る。

「今、誰かを責めてもポーチは出てこない。何人もの手に渡っていたなら、中村さん1人の責任でもない」

「でも先生、クラスのお金ですよ。打ち上げの足しにするはずだったのに」

「分かってる。だからこそ、まずはポーチを探そう」

そう言うと、生徒たちはようやく互いから目をそらした。由美は数人ずつに分かれて周辺を探すよう指示を出す。今は立ち止まっている場合ではない。由美自身もテントの下へ目を向け、消えた黒いポーチを探し始めた。