恵理はダイニングテーブルの上に、2つのバッグを並べていた。大きいほうには夫の着替えとタオル、頼まれていた日用品を詰める。もう1つの小さなバッグには、6歳の息子・宙人の水筒やハンカチ、念のための着替えを入れた。

夫が通勤中の事故で入院してから5日が経った。幸い命に関わるケガではなかったが、骨折のため1カ月ほど入院が必要だと言われ、恵理は連日のように病院へ通っていた。

夫を支えながら息子を育てる日々

「ママ、これ持っていっていい?」

宙人が買ったばかりのミニ昆虫図鑑を掲げる。

「いいけど、ちょっと重いんじゃない?」

「大丈夫、おばあちゃんちで読みたい」

「じゃあ、リュックに入れて自分で持てるか試してみて」

病院へ連れていけば長時間待たせることになるため、幼稚園が休みの今日は、隣町に住む義母の知子に宙人を預かってもらうことになっていた。夫の入院が決まったとき、知子のほうから申し出てくれたのだ。気の強い彼女は、気を遣う相手ではあるものの、恵理も今回ばかりはありがたく甘えることにした。義実家に着くと、玄関まで出てきた知子が宙人を迎えた。

「まあ、今日は本まで持ってきたの?」

「昆虫図鑑だよ。あとで読むの」

「はいはい。好きに過ごしなさい」

恵理は早速リュックを広げ、図鑑を取り出している宙人の前にしゃがむ。

「おばあちゃんを困らせちゃダメだからね」

「分かってるよ」

「ちゃんと言うことを聞くのよ。わがままも言わないこと」

「はあい」

「お義母さん、よろしくお願いします」

「いいから早く病院のほうに行ってあげて」

「ありがとうございます」

宙人に手を振り、恵理は夫が入院している病院へ向かった。

 

「来たよ。調子どう?」

「あ、今日は早かったね」

病室に着くと、まず持ってきた着替えを棚へしまう。使った衣類を回収し、次に必要なものをスマートフォンへメモしていった。

「毎日のように来なくてもいいんだぞ」

「そういうわけにもいかないでしょう。今は自由に動けないんだから」

「宙人は母さんのところ?」

「うん。お世話になっちゃってよかったのかな」

「母さんも孫と過ごせて喜んでるだろ」