昨年の失敗を気にしていた夫
「え? ジムって体を動かすジムのこと?」
清志は「もちろん」とうなずいたが、突然の行動に陽子は驚きを隠せなかった。
清志はシステム会社で社内SEとして働いていて、基本的に座り仕事だ。休日も特に予定がなければ家でのんびりしていることが多く、学生時代も含めて自ら運動を始めるような人ではなかった。
「どうして急にジムなんて? ダイエットをしようってこと?」
「違う違う。もうすぐ悠真の運動会があるだろ?」
悠真が通っている幼稚園では毎年運動会が9月の末に行われる。そんな話を清志にしたのを陽子は思い出した。
「もしかしてそのために?」
「そうだよ。去年はリレーでこけちゃってかっこ悪いところを見せたからな」
清志の言葉で陽子は昨年の運動会の光景がよみがえってきた。運動会では保護者参加のリレー対決が種目に入っていて、清志は参加して盛大に転んでいたのだ。大きなケガをしたわけでもなかったので陽子は完全に忘れていたが、清志は気にしていたようだ。
「運動会に向けてトレーニングをしないとなって思ったんだよ」
「別にそんなしなくてもいいと思うけど」
「いやいや、悠真だってお父さんは足速いほうがいいだろ?」
聞かれた悠真は跳ねるようにうなずいた。
「うん! パパ、頑張ってよ!」
悠真の反応に気を良くして清志は袋から他にも買ったトレーニングウェアなどを出して紹介していた。
陽子は結構な出費だとは思いつつも、運動をしてくれるのはいいことだと思い直して、それ以上は何も言わなかった。実際に購入してからはジムにも通っていたし、休日はランニングもしていた。悠真もそんな清志のことを応援していて、微笑ましいなと陽子は思っていた。
