「家庭裁判所に訴える!」

ただ、遺産分割のやり直しは原則として不可能である。当事者全員が同意するような事情があるなら別だが、誰か1人でも反対していれば無理だ。

剛生さんや悠斗さんが麻子さんに詐欺や脅迫をはたらきかけた、といった事情でもあるならそれを理由に取り消せる場合もあるだろう。だが、今回の相続にはそういった事情もない。

遺産分割協議書が残っている以上、ひっくり返すのは困難だ。

しかしながら麻子さんは不公平だと強く主張した。

「ずるい! 暴落すると知っていたら仮想通貨はもらわなかった!」

彼女が不満を持つのは理解できる。ただ、剛生さんも悠斗さんも「遺産分割のやり直しはできない」と麻子さんを諭す。

が、麻子さんは全く聞き入れず、逆上して「家庭裁判所に訴える!」と主張をエスカレートさせるのだった。

いつしか遺産分割協議書を作った私に対しても、アポなしで事務所へ来訪しては、「詐欺師! 兄や私を騙したんでしょう!」「兄たちからいくらもらったんですか!?」といった根拠のない言いがかりをつけてくるようにもなった。

家庭も崩壊寸前に…

それから少し時間が経った。先日、改めて悠斗さんと話をする機会があった。悠斗さん曰く、「麻子は精神的におかしくなってしまったのか、まともに話ができる状態ではなくなったよ」とのことだった。

彼女の家庭も崩壊寸前のようで、剛生さんや悠斗さんが麻子さんのご主人を支えていると言っていた。麻子さんにとって、相続の一件が大きな精神的負担になったのだろう。

 

今回のような話は氷山の一角である。私が経験した事例以外にも多く発生していると思われる。また、仮想通貨が今後さらに普及するなら、こうした事例はもっと増えていくだろう。

相続財産に仮想通貨が含まれていた場合、現在の値動きではなく価値が半値になったり最悪価値がゼロになることを想定して相続しなければならない。

仮想通貨は非常に専門性の高い資産であり、いかに高額で話題となっていても素人が安易に手を出すべきものではない。

もし、読者諸兄が仮想通貨を相続することがあれば、急激な値動きの可能性を考慮し、早めの他資産への変換などを心がけるべきだろう。

今回の事例のように家庭崩壊につながるようなトラブルを防ぐためにも、肝に銘じておきたい。

 

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。