活動にのめり込む大輝
5月の終わりごろから、大輝の帰りが少しずつ遅くなるようになった。最初は、医療関係の勉強会で知り合った同業者に誘われて、レインボープライドのミーティングに参加するという話だった。俊介にはいまひとつピンと来なかったが、LGBTQ+の権利拡大を求める団体らしい。
「話を聞いたら興味が出てきてさ。一度顔を出してくるよ」
そのときの俊介は、深く考えずにうなずいた。
大輝には、大輝の世界がある。自分が美大時代の友人と遊んだり、個展を巡ったりするように、大輝にも仕事以外の付き合いが必要なのだろうと思った。しかし徐々に大輝は、権利団体の活動にのめり込んでいった。
「今日、何見る?」
「え、何が?」
「何がって……」
休日の前夜は、2人で映画を観るのがお決まりだった。しかし夕食のあと、以前なら2人で作品を選んでいた時間に、大輝はノートパソコンを開く。画面にはイベントの進行表や、パレードの集合場所、当日の役割分担らしき文字が並んでいる。
「ほら、大輝が見たがってた新作、この間配信始まったよ」
「ん? ああ、ごめん。ちょっと待ってて」
大輝の返事は、決まっていつもよりワンテンポ遅れた。スマホが鳴るたび、素早く返信を打ち、また資料に目を戻す。その時間は、少しずつ長くなっていった。
「今度の集まり、俊介も来ないか」
ある休日の午後、大輝が何気なく言った。思わず俊介は洗濯物を畳む手を止めた。
「俺が?」
「うん、雰囲気を見るだけでも」
「うーん、やめとく。そういう場所でうまく話せる自信ないし」
幼稚な嫉妬心を隠すように、俊介は努めて明るく返した。すると、大輝は残念そうに首をかしげた。
「そんな気を張らなくていいんだけどな。俊介が思ってることを自由に話してくれれば」
「いやいや、無理だって。真面目に権利のこととか考えてる人たちの前で、適当なこと言えないし。俺はパスで」
「そうか」
話を終わらせるように、俊介は畳んだタオルを抱えて立ち上がった。
大輝はそれ以上誘わなかったが、活動への熱量はますます高まっていった。仕事で疲れて帰ってきた夜でも、イベントの打ち合わせについて報告する声には、力が溢れている。
「やっぱりさ、俺たち当事者が声をあげることが重要なんだよ」
「当事者?」
「そう。いつか誰かが変えてくれるだろうって、人任せにするんじゃなくて、権利は自分の手で勝ち取らないといけないと思う。市民革命じゃないけどさ」
そう言って笑う大輝を見るたび、俊介は複雑な気持ちになる。大輝が何かに真剣になるのは悪いことではない。むしろ、パートナーとしては応援するべきなのだと思う。
それでも、面白くない。
大輝の話に知らない名前が増えていく。知らないうちにカレンダーの予定が埋まっていく。隣にいるのに、大輝は少しずつ俊介の知らない場所へ移動しているようだった。
ノートパソコンの光を受けた大輝の横顔を見ながら、俊介はテレビの音量をそっと下げた。その夜見た映画のストーリーを、俊介はほとんど覚えていなかった。
