時代は変化する。2020年の「コロナショック以降」に始まったデジタル・トランスフォーメーション(DX)の大きな流れは、「マグニフィセント・セブン(M7)」と呼ばれる大スターを生み出した。それが、2024年1月にスタートした新NISAに引き継がれ、未曽有の「米国株式ファンドブーム」につながった。しかし、2025年1月に発足した米国トランプ政権は、従来とは異なる国際ルールを世界経済に適用させようとし、世界の株式市場を混乱させているようだ。2025年4月に急落した世界の株価は6月までにほぼ下落幅を回復するほどに戻ってきたが、この2025年4~6月の3カ月間に起きた変化は、これからの投信市場にどのようなシグナルを灯しているのだろうか? 投信市場の動向について幅広い視野で独自の情報発信をしているBNPパリバ・アセットマネジメントのマーケティング部 藤原延介氏と松井証券のファンドアナリスト 海老澤界氏に現状分析と今後の展望について語り合ってもらった。

「オルカン」「S&P500」時代の転換期?
―― これまで投信販売の主力であった「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(愛称:オルカン)、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」、そして「インベスコ 世界厳選株式オープン」、「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信」という4強は、引き続き人気の中心であり続けることができるのでしょうか?
【月間資金流入額トップ10】 出所:三菱アセット・ブレインズ提供のデータに基づいて編集部作成
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藤原 今年6月に「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」が新NISAのスタートした2024年1月以降で最も少ない月間資金流入額となりました。一方で、「オルカン」はさほど減速していません。米国株や日本株など単一国に投資されている方は、純粋な積立投資だけでなく、相場感を持って投資している方の比率が高いためだと見ています。「オルカン」の場合は、世界経済が長期的に成長するとの見通しから「全世界株式で積立投資を……」という投資家の割合が多いと感じます。今年前半の株価急落後に、米国株の資金フローが減速したのは、米国株への過熱感を警戒した投資家がいたためだと考えています。
【外国株式ファンドの純資産残高と純設定額の推移(過去5年間)】

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実際に、外国株式ファンドからグローバル型を除いて、特定国・地域にフォーカスをした資金フローを見ても「米国」への資金フローが急減速しています。今年1月には約1.2兆円の資金流入がありましたが、6月には2000億円程度にまで減速しました。トランプ政権の政策への不透明感などもあいまって、米国以外の国・地域を見直す動きが出ているように思います。実際、欧州株はここ3カ月連続で100億円を超える資金流入があり、インドも2カ月続けて100億円超えの資金流入がありました。
【追加型・外国株式ファンドにおける国・地域別の純設定額(グローバル株ファンド除く、2024年1月~2025年6月)】

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欧州株の中身を細かく見ると、「高配当株」「割安成長株」「DAX指数」といったファンドに資金流入が見られており、米国の「テクノロジー株」や「成長株」といった人気ファンドの運用スタイルとは少し違った傾向があると言えそうです。
――海老澤さんは、現在の投資環境をどのように考えていますか?
海老澤 少し長い話で考えると、今の投信ブームは、2019年にあった「老後2000万円問題」がきっかけだったと私は思っています。それ以降に「オルカン」や「S&P500」での積立投資が大きく伸びてきています。GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)とか、「M7」(エヌビディア、アップル、アルファベット、アマゾン、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、テスラ)のようなプラットフォーマーが一気に伸び、それが実際に生活の隅々にも浸透してわれわれもその恩恵を実感するようなところが多かったと思います。
「オルカン」と「S&P500」はどちらが良いのかというような議論が数多くされてきましたが、それは、米国に集中投資することを支持するのかしないのか、あるいは、米国にどの程度投資することが適当かという話なのではないかと思っています。それが今年に入って、少し崩れてきている。ただ、足元はちょっと迷っているのではないかというのが正直なところですね。
ただ一つ言えるのが、為替リスクに関してはちょっと考えた方がいいと思っています。米FRBが9回利上げした2022年頃は、大きくバリュエーション調整したのですが、当時は円安が続いたので、「S&P500」の日本円での価値は保たれて投資を持続することができました。その時の状況とは逆の現象が今起きています。今後、為替変動の影響がパフォーマンスに影響してくるというところは意識する必要があります。
米国一極集中から分散? 米国株式との距離感は?
――これからの米国株をどう見たらいいのでしょう?
藤原 米国株が強いように感じられるとしても、「M7」を除く米国株で見れば、同程度のパフォーマンスを記録している市場はあります。これまで極めて好調だった「M7」やナスダックにも警戒感はありますが、「M7」を全く持たないと株式相場の上昇についていけないことになりかねません。
これは「米国株」全体についても同じことが言えるでしょう。ポートフォリオ全体として考えれば、米国経済の成長を捉えられる資産配分は必要だと思います。同様に、「米国株」だけに投資しておけば大丈夫と考えるのではなく、例えば「欧州株」や「インド株」、「中国株」の成長や投資機会も捉えられるようなポートフォリオにしておきたいというのが、個人的な考えです。
海老澤 投資先として米国は外せないということは確かにあると思います。
ただ、個人的には米国一つだけに投資するのは、一つの通貨、一つの政治というところで不安がある。何も考えないのだったら「オルカン」ということには同意しますが、個人的には、新興国よりも先進国を重視してもいいと思っています。今年に入ってからの新興国の株価指数を見ても、いいところと悪いところがあって結局ゼロサムのような感じになってしまうので、「オルカン」から新興国の部分を外して、新興国は自分で構築してみるのもいいのではないかと私は思います。
忘れてはならない国内株式市場
――国内株式はどう考えますか?
藤原 資産運用の観点で、多くの金融資産を日本円で保有している場合、本当に怖いのは円安です。円安が急速に進んだ場合、その資産価値が大きく損われます。そういう意味ではある程度の外貨建て資産を保有しておく必要があるため、国内投信市場では外国株式ファンドを中心に円資産よりも外貨建て資産が好まれるというトレンドが続いてきました。それは今後も続くだろうと思っています。
ただ、投資信託か個別株かは好みによるとしても、資産全体においてある程度の日本株は保有してもいいだろうと思います。日本の株価は、長期的に見れば日本のインフレ動向を反映しやすく、インフレは日本企業の収益にも影響を与えます。つまり、インフレが日本企業の収益増加を通じて株価上昇につながり、インフレによる生活コストの上昇を軽減してくれることが見込まれるということです。
海老澤 私も同じ意見です。日本の株価についてはボックス圏で動くものだという認識を持っている人が多いのですが、もっと上昇する可能性もあります。日本株は、日本での生活におけるインフレを減じる役割に使えると思います。