指針も約款も「現金」の位置づけ明確化へ
金融庁が今回公表したのは、主要行等向けと、中小・地域金融機関向けの各監督指針改正案です。従来、これらの監督指針の中には貸金庫業務に注目した記載自体が存在しませんでしたが、大手行における巨額窃盗事件の発覚を受けて、項目を新設した改正案を策定しました。
それぞれの改正案は、「管理態勢」「マネロン・テロ資金供与対策」「事案公表」の3つの柱で構成されています。
管理態勢強化については、規約の策定・整備、入口の防犯カメラ設置や生体認証の導入といった入退室・開閉状況の管理、定期点検の実施などを求めています。規約の例としては「貸金庫入室時に複数人による確認を要する手続き」「予備鍵を本部で一括管理する」といった方策を挙げました。
マネロン・テロ資金供与対策に関しては、貸金庫利用時の約款で、高リスクの物品を格納可能な物品から除外するよう求めた上で、現金が高リスク物品に含まれると明記しました。
現状、一般的に金融機関で使用されている約款では、そもそも貸金庫に現金をしまうことができるかが明記されていません。当局は主要行向けの約款のひな形を作っている全国銀行協会に働きかけ、各行に約款の書き換えを促す考えです。
また、事案公表等については、「顧客が公表を望まない等の例外的な場合」を除いて、顧客資産の窃取・横領といった事案を原則公表するよう求めています。
当局の「フォローアップ」の中身は…
金融庁幹部は「貸金庫の利用顧客には、現金をかなり入れているケースもあると推測する。我々もハッキリとはわかっていないというのが率直なところではあるが、実際に今回の事件でも現金があったと聞いている」と説明したうえで、「(金利の復活で)預金金利がつくような状況にもあり、基本的には預金等の形で金融機関に預けてもらうのが望ましいと考えている」と述べました。
また、「現金を保管しているからといって、例えば没収など、ただちに顧客に不利益が生じることはない。無用の不安は金融犯罪の温床につながりかねないので、仮に現金を入れている顧客に『金融庁が現金を禁止したから危ない』というように煽るようなことの起こらないように」と呼びかけました。
加えて「監督指針はあくまで監督上の着眼点であり、ルールとして現金を禁止するという類のものではない」と念を押した上で、各事業者や業界団体に対し、指針を踏まえた対応を求め、金融庁として今後も貸金庫業務の実態や対応状況についてフォローアップしていく考えを示しました。
具体的に今後、各行の現場ではどのような対応を求められることになるか――。金融庁幹部は現時点での考えとして「詳細は今後詰めることになるが、貸金庫の契約をする際に利用目的などの確認をしていただきたい」と説明。一方、「開け閉めするたびに毎回中身を突き合わせる形で確認を求めることは、実務上、顧客の利便性という観点からもやり過ぎではないかと考えている」と述べました。
金融庁は4月27日午後5時までパブリックコメントを受け付け、その後、監督指針を正式確定させます。全国銀行協会は指針確定を受けて各行向けの約款ひな型を修正する見通しです。