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GPIFが次期中計案を提示、オルタナ投資については温度差も
~厚労省・社会保障審議会レポート~

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2025.03.24
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GPIFが次期中計案を提示、オルタナ投資については温度差も<br />~厚労省・社会保障審議会レポート~

厚生労働省の社会保障審議会は2月25日、資金運用部会の第27回会合を都内で開き、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が提示した次期中期計画案について審議しました。現行計画で国内外債券・株式の伝統4資産を均等配分しているポートフォリオの変更箇所は現時点で「黒塗り」でしたが、実質利回り目標の引き上げ、オルタナティブ投資やインパクト投資の意義づけ見直しなど一定の方向性を示し、新計画策定に向け詰めの議論を行いました。今回は、その議論の詳細をお届けします。

 

実質利回り目標を0.2ポイント引き上げ

GPIFは5年に1度、基本ポートフォリオ(資産構成)を含めて運用方針について見直し、中期計画として公表しています。今年は切り替えのタイミングにあたり、4月の新計画スタートに向け、部会で大詰めの議論が進められています。

 

すでに厚労省側は、実質的な運用利回り目標について現行の1.7%から1.9%に引き上げる案を提示していました。これを踏まえ今回の会合ではGPIF側が次期中期計画案を提示。利回り目標は厚労省案の通り、1.9%としました。

 

市場では日銀の追加利上げ観測が高まる中でGPIFが国内債券の保有比率を引き上げるかが注目点となっていますが、現時点で、基本ポートフォリオの具体的な資産構成については黒塗りとしています。

 

現行計画では、GPIFが運用する各資産について、それぞれのベンチマーク収益率を年度ごとに確保するよう努める規定がありました。新しい計画案では、各資産のベンチマーク収益率を基本ポートフォリオの割合で加重平均した「複合ベンチマーク収益率」という考え方を持ち出し、中期期間全体でこの収益率を確保する規定を設けています。

各資産を別々にみたときにベンチマーク収益率を達成していなくても、複合ベンチマーク収益率さえ全体として確保していれば目標をクリアしたとみなされるので、実質的に運用の自由度が高まるとみられています。

インパクト投資の項目新設

また、今回の計画案では、オルタナティブ投資とインパクト投資についても記載が拡充されました。オルタナティブ投資に関しては、「運用の効率性を向上させつつ超過収益を獲得する観点から行う」との一文を追加。また、既存の「ESGを考慮した投資」の項目と別立てで、「インパクトを考慮した投資」について独立項目を追加。長期的な収益確保を図る観点から「投資先企業の事業内容がもたらす社会・環境的効果(インパクト)を考慮して投資を行うことについて検討し、必要な取り組みを行う」としています。

 

この他、GPIFの業務運営を支える「人材の確保・育成・定着等」を独立した章として新設。報酬体系について、必要に応じて成果連動型を組み込むことや、民間企業の報酬水準との比較を通じた見直しなどを検討するとしています。また、AIによる文書作成を含めデジタル化を推進して業務を効率化する方針も盛り込みました。

 

有識者委員側からは、人材確保やデジタル化推進を含む計画案の方向性について基本的に賛同する趣旨の意見が相次ぎました。一方、オルタナティブ投資の扱いについては委員の間で温度差もみられました。

 

経済団体代表の委員は、GPIFによるオルタナティブ投資の実績が資産全体の1%にとどまり、現行計画で示した目標上限(5%)に及んでいない点に言及。「GPIFは国内に比べ海外投資に偏っているように思う。GPIFとして、特に国内のPEファンドなどへの支持を打ち出すことにより、国内の企業の成長に結果的に資するような形で投資をお願いしたい」と要望しました。

 

一方、別の委員は「オルタナティブ投資の内外比率について外部からもいろいろな指摘が聞こえてきている」とした上で、「被保険者の皆さんの利益を優先する判断の中で、可能であれば国内にお金を回すことは望ましい行為ではあると思うが、優先すべきは被保険者の利益であり、適切な投資対象があれば国内にお金を回すということだと思う。何も無理やりにオルタナティブ投資で内外50%ずつといった目標は一切私たちも考えてないし、法人も考えてないと思う」とくぎをさしました。

 

理事長「超過収益獲得に向け運用を高度化」

この日はGPIFの宮園雅敬理事長も出席。第4期中期目標期間を振り返って「基本ポートフォリオに即した運用やリスク管理の高度化、管理運用業務を支えるシステム等の体制整備、スチュワードシップ活動やESGを考慮した投資に鋭意、取り組んできた」と総括。その上で第5期の中期計画案について「運用資産が250兆円を超える規模に膨らんでいる状況を踏まえ、中期目標を達成するための基本ポートフォリオに即した管理運営や、超過収益の獲得に向けた運用の高度化、多様化およびリスク管理をよりいっそう進化、強化するための取り組みを盛り込む」と述べました。

 

その上で、「アセットオーナープリンシプルを踏まえスチュワードシップ活動をより進化させるための取り組みを推進し、サステナビリティ投資に関する基本方針のもとでESGやインパクトを考慮した投資について必要な取り組みを行う」と表明。「人材の確保・育成・定着、業務のデジタル化、調査研究の充実など業務運営体制の充実強化に資する取り組みを進める」と語りました。

 

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著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
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