――日経平均株価は7月に最高値を更新したものの、8月には一転して歴史的な急落に見舞われるやいなや、今度は急反発して株価が持ち直しつつあります。この背景をどのようにご覧になりますか。
日本株急落の要因は2段階に分けられます。はじめに、日銀が7月31日に政策金利を0.25%程度へ引き上げると決定した影響です。市場関係者の間では追加利上げが9月になるとの見方が強かったことから、前倒しで7月末というタイミングがサプライズとなりました。植田和男総裁は金融政策決定会合後の記者会見で、日本の経済・物価が見通しにおおむね沿って推移しており、順調であれば引き続き政策金利を引き上げると述べました。この発言も日米金利差の縮小による円高と輸出企業の収益悪化を連想させ、日本株の下落に拍車をかけました。
2つ目の要因は、8月2日に発表された米雇用統計の内容が市場の想定を大きく下回り、米国経済が本格的な後退に入るのではないかとの不安が市場で増幅したことです。とはいえ、雇用統計は後から修正が入る場合が多く、やや信頼性に欠ける面があります。確かに7月の雇用統計の数値は好ましくなかったものの、その後に発表されたCPIなどの結果によって実体経済の堅調さが確認されました。
日本株の急落を主導した主体はCTAのような短期筋でした。その一方で、年金や金融機関といったロングの投資家や、あるいは海外の政府系ファンドはほとんど日本株を売却しておらず、むしろ時価が下がったところで買いを入れてポジション調整しており、日本株が適正な水準に落ち着く要因になったとみています。
今回の急落をリーマン・ショックになぞらえる向きも見受けられましたが、ボラティリティと流動性という観点から評価すれば、リーマン・ショックとは大きく異なります。リーマン・ショックの当時はリスク性資産を保有していること自体が危険であるとの認識が広がり、ポートフォリオの現金比率が急速に高まりました。今般はそのような事態は全く起きていません。それからボラティリティに関しても、VIX指数などが一時的に跳ね上がったものの、ほぼ元の水準に戻っています。
――今後の利上げシナリオをどのように展望しますか。
秋には衆院選が見込まれますので、次の利上げは12月か、来年1月ごろとみています。そして翌2025年度に2回ほど利上げして、中立金利とされる1%の水準に近づけていくと推測します。
日銀と市場のコミュニケーションはさらに難しくなっていくでしょう。植田総裁はマーケットへの目配りに力点を置いていると見受けられます。8月の日本株急落の直後に内田真一副総裁が市場を落ち着かせるようなコメントを出しましたが、今後はより重層的な対話が求められていくでしょう。
――今回の相場急落で個人投資家はどのように行動しましたか。
今回の急落局面で、当社が提供しているDC関連商品の残高が大きく減少しました。DCプランで外国株ファンドに投資している顧客を中心に、株価の急落に慌ててDC商品を売却する動きが目立ちました。
株式は安値のときに買って値上がり益を狙うのが基本ですので、急落で損を確定するのは長期投資の観点では得策ではありません。そういう意味では、新NISAがスタートしてから半年あまりで株価の急落と急回復を経験したことは、投資を始めたばかりの方にとっても良好なレッスンになったのではと前向きにとらえています。
相場の変調を受け、SNSなどでは新NISAに対する様々な情報や認識が流布しています。改めて正しい情報を伝える必要性を痛感します。運用会社である当社としても、日本株が急落した翌日の8月6日に、販売会社向けZoom説明会を臨時で開催したところ、参加希望者が1000名を超えました。当社の投信営業本部が主催し、当社エコノミストがマーケットの状況を解説しました。今後も販売会社やその先の個人投資家に必要な信頼性のある情報をスピーディに提供していきます。