――山口フィナンシャルグループ(YMFG)の運用状況について教えてください。
新家 数年前までキャピタルリターン中心の運用を行っていた時期もありましたが、現在ではキャリー獲得中心の運用となっています。2022年度~24年度で進行中の中期経営計画では、ポートフォリオを再構築して安定的な収益を目指すというコンセプトを掲げており、その実現のためにさまざまな取り組みを行っています。
収益の安定性のためには、リスクをいかに管理できるかの視点が必須になるわけですが、今のところ中計の進捗はおおむね良好な結果だといえます(図)。後述するように、野村アセットマネジメント(野村AM)を含めた外部の知見も活用しながら、ポートフォリオ再構築にあたってきた結果といえるでしょう。
(図)YMFGの有価証券運用
YMFGでは山口銀行およびもみじ銀行において運用を行っています。異なるポートフォリオを保有しておくことで、リスクを分散させる効果や災害時のバックアップ機能、各地域で人材を採用できることなどのメリットを享受できるからです。いずれの運用も大きな方針としてインカム重視は変わりませんが、各行のリスク許容度や運用体制の違いに応じて、具体的な投資対象は異なります。
もみじ銀行は安定性を重視し、山口銀行はそれに加えて成長も取り込むというコンセプトで運用を行っています。山口銀行の運用部門は東京に拠点があり、運用のフロントに携わるのは6名です。キャピタルゲイン獲得も目指すという目標から、海外資産なども含めた資産に投資しています。
村岡 もみじ銀行は地元広島で運用を行っており、有価証券運用に携わるフロントの人員は合計3名と少数精鋭体制としています。「金利ある世界」への移行により、国内資産中心でもある程度収益が得られると判断し、本年度から外国株式や外国債券などの海外資産はグループ銀行の山口銀行に任せて、新規の投資対象から除外しました。
ただし、マルチアセット運用を通じての間接的な海外資産への投資は継続しています。これにより、自行で直接投資しない分野についても、外部のマネジャーに運用を委託する形で対応できるようにしています。このように、2行で異なるポートフォリオ・アプローチを取ることで、グループ全体として分散の取れたポートフォリオの構築と効率的な組織体制の確立を目指しています。
中長期で安定した収益獲得を目指し ポートフォリオ運用への転換を図る
――外部の専門家の活用に関して、野村AMとの連携について教えてください。
新家 ゼロ金利が長期間続く中で、安定的な収益をどのように確保するかが課題となっていました。一時は機動的な売買によってキャピタル収益を積み上げる戦略を取っていましたが、2022年の海外での急激な利上げなどにより、評価損が発生してしまいました。
この経験から、持続可能性のある運用収益の必要性を強く感じ、中長期的な視点からキャリー収益重視の戦略に転換することを検討していました。ちょうどその時期に、野村AMからポートフォリオ運営に関する協業の提案があったことがきっかけとなりました。当時はポートフォリオの再構築を進めている最中でしたから、非常に良いタイミングだったと感じています。
村岡 野村AMとの連携を始めて1年近く経過しましたが、これまでの取り組みは大きく分けると2段階に分かれます。まずはポートフォリオの構築やリスク・リターンの評価・分析方法など、ポートフォリオ運用における基本的な考え方や手法について、これまで属人的に行っていた業務を論理的に学び直し整理することで、内製化を進めました。
新家 現在は第2段階に入っており、各行でポートフォリオも異なることからそれぞれに沿った内容でアドバイスをもらっています。山口銀行の場合は、マルチアセットの投資方針やどのようなファンドを組み入れていくかなど、より具体的な意見をもらいつつ、新たな資産クラス・戦略の検討も進めています。
村岡 定期的に広島にも足を運んでもらっています。運用部のメンバーに対して対面で3~4時間ほどの勉強会を開催していただいたり、Excelを使った分析を個別に指導をしていただいたりしています。
――外部の専門家を活用する際の注意点があれば教えていただけますか。
村岡 外部プロフェッショナルの存在を目的化しないことでしょう。「信頼」と「信用」という言葉がありますが、信頼はしても、無条件に信用するということにはならないようにしなければいけないと考えています。
外部の方々は頼れる存在ですが、だからといって私たち自身がアンテナを張らなくてもよいということにはなりません。私たちもしっかりとアンテナを高く張り続けて情報を収集・整理する必要があります。それらを咀嚼した上で、外部の専門家とも意見交換をしながら、より良いポートフォリオ運営を行っていきたいと考えています。
――YMFGの中で、有価証券運用はどのような役割を期待されているのでしょうか。
新家 地域金融機関ですので、預貸金がベースであることは変わらないと考えています。その中で有価証券部門に求められているのは、安定した収益獲得に加え、リスクのコントロールでしょう。流動性の確保や、デュレーションのコントロールなども含めて、有価証券部門が機動的に対応できるものを担っていく必要があると考えています。
特に最近は規制にも変化があり、流動性規制に対応するために有価証券をある程度保有しなければならないといった面もあります。銀行全体を見ながら、市場環境や規制にも適応していく必要がありますが、こうした情報の精査やキャッチアップに関しては専門家の知見も重要で、さまざまなところから情報を仕入れることができるのは外部を活用するメリットでもあると感じています。