――まずは御社の会社概要からお聞かせください。
当社の創業は2007年で、転職や就職のために社員口コミを投稿・閲覧できる情報プラットフォーム「OpenWork」を運営する会社です。会員数は日本最大級の約600万人(2023年11月末時点)で、年間で80万人程度増え続けています。
口コミは1年以上その企業で働いているか、働いていた人が投稿できる仕組みで、他の口コミを読むには有料会員になるか、自身が口コミを投稿する必要があります。比率では後者のほうが高く、投稿された口コミ総数は1600万件(2023年11月末)に達し、毎年約200万件ずつ増加しています
――口コミデータの概要や特徴を教えていただけますか。
OpenWorkには風通しの良さや法令順守意識など8項目の定量評価と、企業文化や働きがい・成長など8項目の定性評価、年収や残業時間などの3つの実数値が設定されています(図)。この各項目が口コミに当たり、登録者には各項目の評価を行ってもらいます。
主なユーザーは20代後半から30代前半、平均年収は約500万~ 700万円と若手ハイキャリア層が多く登録しています。職種は営業系、事務系が多いですが、最近はDX系人材からの投稿も増えています。
企業の切り口で見ると、少なくとも1件の口コミが投稿されている企業は、現在6万社以上あります。業界や業種に偏りは見られませんが、日系・外資系を問わず大手企業、または上場を遂げたメガベンチャーなどには多くの口コミが集まっています。
転職・就職サイトの口コミというと、えてして転職者によるネガティブなコメントが多いと思われがちです。しかし、現役従業員と退職者のコメントの比率はおよそ1:1で、内容もポジティブ・ネガティブの割合は同程度で、中立コメントがもっとも多くなっています。
口コミの投稿には500字以上という条件を付けており、中立的なコメントでは人事評価制度やコミュニケーションのスタイル、勤務体系などについて具体的な事実を淡々と語るケースが多いです。
――とはいえ、匿名ではさまざまな口コミが混在していそうですね。
サービス開始当初は「Web上の匿名掲示板と変わらない」と揶揄されることもあったため、口コミの質については強いこだわりを持っています。まず社内に口コミの品質管理チームを置いており、意味のない文字列などを自動ではじいた後に、1件ずつ目視で口コミをチェックしています。
また、弁護士など外部の専門家の意見を取り入れながらガイドラインを設定し、それに反する内容は公開しない方針です。実際には約7%の口コミが「お蔵入り」になっており、これにはいたずらや誹謗中傷、印象操作と判断されるものが含まれます。
加えて、2018年からは口コミデータを使って外部機関とも積極的に共同研究を行うことによって、第三者の視点も入れるようにしています。2023年には、国際決済銀行が発行する論文で当社データを用いて企業のクレジットリスクにどのような影響を及ぼすのか検証した研究が発表されています。他にも、現在進行形で研究中のものが複数あります。
契機は運用会社からの問い合わせ 企業と投資家をつなぐ役割に期待
――御社はいつから、運用会社にデータを提供するようになったのですか。
きっかけは、2016年に海外のある運用会社から、当社の口コミデータに興味があるという連絡を受けたことです。その翌年には国内の研究者からも声が掛かったことで、共同研究がスタートしました。この研究では、当社口コミデータから算出した「組織文化スコア」と、企業財務及び株価パフォーマンスに一部相関があることが明らかになり、2018年に証券アナリストジャーナル誌で最優秀賞を受賞しています。その結果、国内外のマネジャーから幅広く関心を寄せていただくようになりました。
もう1つ、2021年に発表された他論文の研究内容について、少しだけ紹介すると、若手に裁量権があるとコメントされるような「働きがい」スコアが改善傾向にある企業は2~3年後の企業の成長性が高くなる傾向にあったり、「働きやすさ」スコアが改善傾向にある企業であれば収益性の改善につながりやすいことが明らかになっています。また、このようなスコアの改善は、株価パフォーマンスにもプラスの影響があることが明らかになりました。
こうしたデータの使い方は、運用会社によってさまざまです。個人的にはESG投資の観点でS(社会)やG(ガバナンス)の評価に有用だと考えていますし、上記の研究論文で数年先の企業価値に影響を与えることが示されたことからも、長期保有を前提としたファンドにも採用していただいています。
一方、比較的短期の売買を行うファンドでは、リスク分析のツールとして使用されるケースが多い印象です。例えば法令遵守の意識の低さや女性の働きにくさなどの観点から、潜在的なリスクが評価されているようです。
――それ以外に、口コミデータにはどんな活用法が考えられるでしょうか。
企業に対して人的資本の情報開示が義務化されたこともあって、経営者やIRチームからも当社のデータに対する関心が高まっています。そこで今、企業の働きがいや働きやすさなどを他社比較や時系列で分析できるよう準備を進めているところです。
また、口コミを見た投資家が企業に対し、評価が低いことについて改善を求めた事例もあります。当社のデータを媒介にして投資家と経営者との対話に深みが増し、スコアの改善がさらなる業績の上昇をもたらすといった、好循環が生まれる可能性を示唆しているのではないでしょうか。この動きが広がれば、日本経済全体の活性化にも寄与すると考えています。