新しいNISA制度の開始が目前に迫り、資産運用の機運が今までになく高まっている。国際情勢の目まぐるしい変化により相場環境の不透明感が増している中でも、キャピタル・グループは長期投資の普及・定着に重点を置く姿勢を崩さない。「長期積立」の代名詞とも評されるキャピタル・グループは、日本の投資文化をどのように変えていくのか、同グループ日本法人キャピタル・インターナショナル代表取締役社長の小泉徹也氏に、自身の30年にわたる資産運用ビジネスでのキャリアの振り返りも含めてインタビューした。
少額でも成長につながる投資の力を
長期積立で最大限に引き出す
「長期的な視点に立って投資先を見極め、リターンをお客さまにお返しし、人生や老後の生活を豊かにしていくことに貢献するという私たちの役割や、いかなる市場環境においても決して変わることがありません」。小泉氏はこう語る。
2024年1月に予定されるNISA制度刷新など国の政策的な後押しもあり、足元では「貯蓄から投資へ」の機運が今までになく高まっている。長年にわたり日本や米国、アジア圏における資産運用業界の変遷と発展を目の当たりにしてきた小泉氏は、「資産運用立国に向けた政策が、この国の資産形成のマーケットをいっそう拡大させることでしょう。たとえ一人ひとりの金額は少額であっても、多くの国民が長期にわたって積立投資を継続し、資金が資本市場に提供されれば、企業においてサービスを向上させる力となります。成長した企業は雇用を生み、この国全体が成長するという好循環が生み出されるでしょう」と分析する。
各国中央銀行の金融政策の修正や中東情報の悪化、ウクライナ危機の長期化などにより、市場の不透明感も増している。しかし小泉氏は「『先行きが不透明』とか『今までで一番の危機だ』といった言葉は、投資の世界では毎年のように耳にするものです」と、動じない。「過去にも市場ではさまざまなイベントが生じましたが、長期的に積立投資を継続すれば、分散効果によって資産を増やすことができるという認識を、確実に広めていくことこそが大切です」と語る。
NISA、iDecoの活用拡大を通じ
社会全体が豊かになる好循環を創る
キャピタル・グループの米国における運用資産の7割以上は、401(k)プランなど長期的な性質の資金が占めている。小泉氏は、「キャピタルといえば積み立て、長期投資といえばキャピタルというイメージが、米国を含めて世界的に定着しています」と語る。
新しいNISAや確定拠出年金制度のさらなる普及によって、日本でも米国並みに長期投資の文化が根付くことに小泉氏は期待を寄せる。「米国での成功体験の蓄積によって磨き上げられた私たちのトレーニング手法を、日本のアドバイザーの方々、販売担当の方々にご提供し、長期積立投資の必要性について投資家の間で着実に理解を広げていく。それが、日本のためにキャピタル・グループができる役割の一つと考えています」と話す。
「特に確定拠出年金(DC)については、いまでこそ利用者が大企業に偏っていますが、今後は中堅・中小企業にも活用が広がることで、より多くの国民が長期投資の恩恵を享受することができるでしょう」と指摘する。「日本のDC制度における投信の割合は、長らく2割程度でしたが、足元では半分近くまで拡大してきました。時間をかけながらも着実に変化が生じつつあり、今後さらに活用を広げていく余地があるといえます」。
米国の一般労働者の投資姿勢に感銘
長期投資の「伝道師」志す原点に
小泉氏は1990年代に生命保険会社に入社。米国法人に出向し、企業向け401(k)プランなどのセールスを担当した。
「米国中西部の企業に、従業員教育のために赴いたときのことをよく覚えています」と振り返る。「シートやバンパーなどの自動車部品を作っている従業員の方々のほとんどが、投資による成功体験をすでに得ていることに驚きました。こういうことが今後、日本でも起こらないといけないのだと、強く感銘を受けた出来事でした」と印象を語った。
2004年に大手外資系運用会社に転じて要職を歴任した後、21年に現職についた。現在の目標は「私たちのご提供する資産運用のサービスが、社会のインフラとなることです」と熱く語る。
「例えば水をインフラとして考えてみると、人々は無意識のうちに水を飲んでいます。水を飲むのと同じくらい投資をごく当たり前の営みにしたい」と説明する。そして、「投資は本来、長期に徹する限り市場の浮き沈みを気にする必要はない」と言い切る。
投資家からの感謝の言葉を糧に
資産形成ビジネスを追求し続ける
資産運用の仕事に携わって30年近く経って、ある投資家から「あなたたちがいたから、自分たちの子供を学校に通わせ、卒業させることができた。本当にありがとう」と感謝の言葉をいただいたという。「『ありがとう』という言葉に触れたとき、資産運用の仕事に携わってよかったと強く実感します。投資を30年、40年続けたからといってそこで終わりにする必要はなく、次の世代へと資産をつないでいくこともできるのです。資産形成というのは、決して終わりがない取り組みと言えるかもしれません」と語る。
座右の銘は、「ネバー・ギブアップ」。その不屈の精神力は、学生時代から今もなお継続している乗馬によって培われた。「乗馬と資産運用ビジネスには通じるところがあります。いずれも諦めることなく、どのようにすればもっとうまくいくかを真剣に考え、最善だと確信できる取り組みを継続していくことが肝心なのです」と熱弁する。
最後に、「数十年単位で資産をお預かりするのが運用会社の仕事である以上、私たちの経営スタンスも当然、長期的な視点に立つ必要があります」と小泉氏。日本において長期投資の文化を根付かせることで、「投資が当たり前のこととなる日を目指し、私たちは今後も長い目で積み立てることの大切さを説き続けます」と力を込めた。