自分たちの行動を振り返る生徒

翌朝、校内のあちこちにまだ文化祭の名残が残っていた。

壁には手書きのポスターが貼られ、後ろの机には片づけきれなかった備品が積まれている。だが昨日までの浮き立つような雰囲気はなく、由美のクラスの生徒たちはどこか落ち着きがない。売上金がどうなるのか、誰もが気にしているのだろう。中村も自分の席で悲壮な表情のままうつむいていた。

「おはよう」

由美は教壇に立つと、余計な前置きをせずに口を開いた。

「昨日の売上金ですが、なんと見つかりました」

「え、本当ですか?」

「よかった……!」

一斉に安堵の声が上がり、教室の空気が動いた。由美自身、ようやく生徒たちに伝えられたことにほっとする。

「昨日、うちの文化祭に来てた一般のお客さんが、自分のバッグと間違えて売上金のポーチを持って帰っちゃったの。家に帰ってから気づいたみたいで、学校まで届けに来てくれました」

「盗まれたんじゃなかったんだ……」

「中身の売上金も無事だったんですか?」

「うん、大丈夫。ちゃんと全部残ってたよ」

あちこちから喜び合う声が漏れたが、少しして数人の生徒が気まずそうに中村と山本へ視線を巡らせる。由美は何も言わず、その様子を見守った。

「中村、昨日はごめん」

「俺も。中村のせいにして悪かった」

「山本も。まじでごめん」

中村たちは一瞬驚いた顔をしたあと、小さく首を振った。

「私も人に預けたあと、ちゃんと確認してなかったから」

「それなら俺も同じだよ。預かって、そのまま別の人に渡したし」

佐藤が言うと、田中たちもそれぞれ自分の行動を振り返り始めた。

結局、誰か1人のせいでポーチが紛失したわけではない。昨日はあまりにも忙しく、みんなが目の前の仕事を優先するうちに、管理する人間が曖昧になってしまったのだ。つまり由美にも責任がなかったわけではない。

「先生も反省してる。店を回すことばかり気にして、お金の管理までちゃんと見られてなかった。ごめんね」

「先生も昨日、めちゃくちゃ忙しかったじゃないですか」

「それでも先生だからね。次にお金を扱うときは、誰が持つか、途中で交代するときはどうするか、事前にルールを決めよう。それでこの話は終わり」

長々と説教をしなかったのは、生徒たちがすでに十分反省していることが分かったからだ。

「結局、焼きそばって何食売れたんだろ」

「途中の買い出し、めちゃくちゃ走ったよな」

「先生もずっと走ってたじゃん。足は遅かったけど」

「余計なお世話よ」

笑い声が弾け、由美もつられて吹き出した。やがて生徒たちは席を立ち、文化祭の飾りを1つずつ外し始めた。朝日が差し込む教室には、いつまでも昨日の思い出話が絶えなかった。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。