債券の含み損、過去の不良債権とは違う 国債ならば満期で償還
――国内金利が上昇し地銀の経営環境の改善が進む一方、保有債券の含み損を懸念する声もある。地銀の現状をどう考えるか。
「足元の状況は収益が高まり財務の健全性も含めて安定的であるとみている。一方、中長期的には地域の人口減少や高齢化といった構造的な課題が解決しているわけではないので、収益が良好で資本の積み上げができる時期にいろいろな手を打ってほしい」
「金利が上がることで債券の含み損を心配する議論はあるが、中身が国債であり、早目に損切りをしてより利回りのよい債券に入れ替えをするのか、損切はせずに満期を待つのかは経営判断だろう」
「国債は持ち続ければ最終的に償還される。その点、地価下落が響き担保で貸出金をカバーできなくなった過去の不良債権問題とは状況が違う」
――構造的な課題に対応する手としては例えばどんなことが考えられるか。
「それは経営者に考えてもらうことだが、我われは選択肢を増やす観点から規制緩和を進めている。例えば、人材マッチングや地方創生のための子会社などだ。さらに、仮に経営統合を選択肢の1つとした場合、国(預金保険機構)による資金交付制度がある。これはシステム共同化の費用にも活用できる。他にも国(同)の資本参加制度もある。我われは経営判断のメニューを最大限に備えていくつもりだ」
地域の投資銀行、街おこしなど幅広い機能を担う
――内閣官房が公表した「成長戦略を促進するための金融戦略」では地銀の「投資銀行機能」への期待が示されている。
「ここで書かれている『投資銀行機能』とは、M&Aや事業のマッチングのような業務や取引先のデジタル化をサポートするような業務から地域の街おこし的なものや地域の活性化をデザインすることも含めて考えている。いずれも営業基盤である地域経済の成長を重視するものだ」
――そこで地銀の証券子会社が活躍する余地はあるか。
「投資銀行の業務には銀行本体で手掛けるものも子会社、例えば証券子会社でやるものもあるだろう。ただし、『金融戦略』で期待されている投資銀行の機能と現状の証券子会社がマッチしているかは様ざまだと思う」
「少なくとも、リテール向け金融商品の販売が中心のところが街おこしなどの機能を担えるかといえば、難しいかもしれない。証券子会社の活用を否定するものではないが、役割と実情を考えて判断する必要がある」
――投資銀行機能の範囲をそれだけ広く捉えると地銀の人材の多様化が求められる。採用が厳しいなか、難しい面もあるのでは。
「地銀で働こうと思う人の中には地域のために働きたいという思いを持つ人が多い。加えて、専門的な人材を中途採用する地銀も増えている。それらの人材を受け入れるため、給与体系を見直している地銀もある」
――地域の投資銀行機能の幅が広がれば、地銀で働くことで夢をかなえる人が増えそうだ。
「組織が大きく専門化が進むメガバンクや大手の証券会社で働くよりも地銀の方がより幅広い経験を積めるかもしれない」
一般家計にはシンプルなアドバイスを、オーナー一族のサポートに地銀の可能性
――家計の資産形成促進には運用の高度化と並んで運用アドバイスの高度化も必要では。
「一般的な家計の資産形成を支援する目的で資産運用ビジネスを考えた場合、必要なアドバイスは何かと立ち止まって考えないといけない。NISAは『長期・積み立て・分散』投資に適したシンプルな金融商品を中心にした制度として作られてきた。(NISAがこれだけ広く支持されているということは)資産形成層にはシンプルな商品だけで十分かもしれない」
「ひと昔前の投信販売の現場で求められていたのは『今のマーケットを理解してそれを顧客に語れること』といわれた。しかし、資産形成層向けの重要なアドバイスは『長期・積み立て・分散』投資の意義を理解してもらうことだ。そのことを踏まえると顧客に伝えるべきメッセージはより本質的なものになる」
「つまり、ある顧客がどんな人生設計を持ち家計のキャッシュフローがどうなっているか。その上で、金融資産のポートフォリオはどうすべきかなどについて顧客と一緒に考えることが本質的なアドバイスにつながると思う」
「当然、リタイアメント層や高齢期に入ったりするとアドバイスの内容は変わるが、マーケットによって大きく変わるものではないだろう。一般家計のアドバイスではこう考えている」
――最近ではオーナー系企業の資産運用ビジネスに積極的な地銀も見られる。
「オーナーが自分の企業の余裕資金で不動産や債券を買うことはあり、その一環で資産運用することも経営者の判断だろう。上場企業であればあくまで株主との関係で許されるかどうかだ」
「それとは別にオーナー一族の資産全体の管理でアドバイスしたり一族の資産を次世代に継承できようにサポートしたりする担い手として、地銀に期待する声を聞くこともある」
「これまでの法人の取引でオーナーの信頼を得ていて、地銀にそれだけのノウハウやスキルがあれば地銀のビジネスとして可能性があるだろう。アドバイスの高度化をいうならば、こうした面での高度化が待たれるのではないか。生成AIに聞けば答えてくれるようなマーケットを語ることとは違うだろう」
証券子会社の存在意義の確認し、グループでの位置付けを明確に
――地銀の資産運用ビジネスではシステム費用の負担が大きいが、銀行と証券子会社でのシステムの二重投資に問題はないか。
「まず、証券子会社の設立は義務ではない。あくまで、各行の経営判断で作られたものだ。本体の銀行で投信を販売し、子会社でも同じものを扱うとなれば二重投資の意義を整理しておく必要があるだろう」
「本体と子会社の両者がやることに何らかの目的があれば続ければよいし、二重投資が負担と考えているのであれば顧客に迷惑をかけないかたちでやめればよいと思う」
「証券子会社そのものが悪いわけではない。それをどう活用して顧客にいかに付加価値のあるサービスを提供するかが問題の本質だ。グループ全体でどんなサービスを提供するかを考えたうえで、証券会社という『器』が適しているならば証券子会社も否定されるものではない」
投信積み立て、預金の粘着性につながる面も――資産形成で顧客と世代を超えた取引を
――金利上昇で預金の獲得が優先され、投信などの提案が停滞する動きもある。資産運用立国を推進するにあたり預金獲得と投信販売の関係をどう考えるべきか。
「冒頭で触れたように地銀の中長期的な課題として人口の高齢化がある。それに伴って相続が発生し、預金が子どもなどの住む大都市圏に移動するという懸念はよく聞く。さらに、ネット銀行などが台頭し幅広い世代から資金を集めている」
「実際、日銀の『金融システムレポート』を見ても、国内の預金に占める地域金融機関のシェアは下がり気味だ。こうした中にあって預金の粘着性をどう確保するのかに多くの地銀の経営者は手をこまねいていることはないと思う」
「それには給与の振込口座やクレジットカードの決済口座を確保することもそうだが、例えば投信積み立てなどの引き落とし口座を開いてもらうことも顧客からの支持につながるという考えもあるだろう。アドバイスを受けるなどして世代を超えて付き合いがある銀行とは相続後も顧客が利用し続けることにつながるのかもしれない」
「預金の粘着性では投信販売だけが答えではないし、全てのケースで投信販売と預金の粘着性に相関関係があるともいわないが、単に預金と投信がバーターと考えるのではなく、世代を超えて顧客との取引を維持する工夫として資産形成ビジネスも大事な戦略の一つにはなり得るだろう」
地銀の役割と看板に尊さ、我が国の持続的な成長に向け共に歩みたい
――最後に、地銀の関係者にメッセージを。
「我が国の多くの中小企業をメインバンクとして支えているのが地銀であるのは事実だ。地銀は地域の経済に幅広くかかわっている。街の飲食店や商店など人の営みを維持するインフラ、地域の所得を確保する製造業を中心とした中小企業を地銀は支えている」
「だからこそ地元で信頼され預金が集まっている。こうした地銀の役割と看板は本当に尊いものだ。リテールビジネスもこうした信頼に応えるものにしてもらいたい」
「我われはそうした思いで地銀の機能が発揮されるのを後押ししたいと願っている。地銀の皆さんと共に我が国の持続的な成長に向けて歩んでいければ幸いだ」

