金融庁が7月24日に公表した「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート 2026」――高市政権下で初策定となった今回の内容の中で特に目を引くのは、機関投資家向けビジネスに関する詳細な分析です。客観的データの独特の“見せ方”には、政府が掲げる「強い経済」の実現に向けて国内成長分野へのリスクマネーを供給するため、企業年金などアセットオーナーと金融機関の連携・強力を促したい狙いが見え隠れします。
振り返ると、プログレスレポートの歴史はおおまかにみて3つの世代に分けることができます。
2020年の初版に始まる「第1世代」は、アクティブ投信の手数料水準やESG投信の情報開示、仕組債の営業慣行など、主に個人投資家向けビジネスの課題にフォーカスしていました。唯一の「第2世代」といえる異色作の23年版は、基準価額の二重計算問題に加え、新興運用業者の競争環境整備、アセットオーナー改革などの論点を打ち出し、その年の末に政府が策定した「資産運用立国実現プラン」への布石となりました。
2年間の“休刊”を挟み、石破政権下で作成された25年版(「第3世代」の1本目)では、オルタナティブ資産を通じた国内投資を促すニュアンスが強まりました。今回のプログレスレポートは、前回の基本線を受け継ぎつつ、国内投資促進策をより具体的かつ強力に推進しようとする高市政権のカラーを押し出す内容となっています。
それでは、今回の機関投資家向けビジネスに関する調査のポイントをみてみましょう。調査対象である大手 20 社(日系大手11 社、外資系 9 社)における資産運用サービス全体でみると、運用受託残高の65%、営業収益の47%を機関投資家向けが占めています。
国内機関投資家向けサービスにおける収益の内訳をみると、「企業年金」と、財団・社団法人・学校法人を含む「金融法人など」が85%を占めます。公的アセットオーナーよりも民間アセットオーナーの方が、収益面では存在感が比較的大きいことが見て取れます。
機関投資家の種類による手数料率(収益/残高)の違いにも踏み込んでいます。調査結果によると、公的アセットオーナーの手数料率は0.02%にとどまるのに対し、「企業年金」は0.27%、「金融法人など」は0.12%に。一桁分の差が開いている一因として、受託残高に占めるアクティブ運用の比率の違いがあるとの考えを示しています。
アセットクラス別にみると、調査対象となった日系大手金融グループの機関投資家向けサービスでは、受託残高の約5割、営業収益の6割が外国資産運用関連となっています。これに対してレポートでは、以下のような考察を加えています。
「収益の柱は外国オルタナと外国株式アクティブであるが、いずれも主に海外資産運用会社への外部委託運用が中心である。国内資産の運用力向上とともに、外国資産の運用に関する中期的な方針(インハウス運用と外部委託運用の使い分け等)をどう描くかが経営戦略上の重要なポイントとなってきている」
現に“稼ぎ頭”となっている外国資産分野を強化することはもちろん、「国内資産の運用」の伸びしろを意識するよう促す書きぶりです。
また、中小型株式アクティブファンドについては、業界内で「情報の非対称性が存在し、独自調査および投資の優位性を確保できる」という認識がある一方、肝心の企業調査のリソースが不足しているといった課題があると指摘しています。AI活用による1次スクリーニングの効率化や、「優れた企業や成長する目利きができる人材を質・量ともに確保」するといった取り組みを通じて企業調査を高度化するよう呼びかけています。
レポート冒頭では、「各グループの経営戦略や強みは区々であり、機関投資家向けサービスの質の向上及び受益者に付加価値をもたらすための収益基盤の確立に向けた取組に唯一解があるわけでもない」と念を押しています。
しかしデータの並べ方や章立ての構成、取り上げられた取組事例を素直に読めば、「企業年金などアセットオーナー向けにオルタナ商品や中小型株商品を強化せよ」という当局側のメッセージは明らかであるように思えます。読み手の解釈を誘導しつつもハッキリと「推奨」はしない……この独特の筆運びは、一時期注目を集めたESG投信に対して当局が使った玉虫色の論調を思い出させます。結局のところオルタナや中小型株にリソースをどれほど投入するべきかについては、国内外の風向きを念頭に置きつつ、各事業者において丁寧に議論を進める必要があるようです。
