プログレスレポートは事業者支援、事業性融資の推進、金融機関自身の業務運営高度化という3つの論点にフォーカスしています。
事業者支援については、企業の創業期、成長期、成熟期、衰退期のそれぞれのステージに応じ、金融機関によるM&A・事業承継支援や人材紹介、企業のDX支援などの取り組みについて、改正監督指針などを踏まえて金融庁として後押しする姿勢を改めて打ち出しています。
特に創業期の企業支援については「地域経済を育てるという社会経済的な意義のみならず、次の貸出先を育てるという観点で地域銀行自身のビジネスにとっても意義のある取り組みである」と記載。一方、「支援による明確な収益(リターン)の認識が難しいことから、支援のインセンティブが働きにくいと考えられ、収益環境が厳しい中、人的リソースが十分に配分されていない可能性がある」とも指摘しています。
そこで金融庁は2025年4月から、事業者支援のリターンとコストの関係性を定量的に分析する委託調査(「地域金融機関の事業者支援にかかる経済的効果の定量化に関する委託調査」)を実施。12の地域金融機関の協力を得て調べたところ、事業者支援が事業者、金融機関の双方にもたらす影響についてそれぞれ次のような分析結果が得られたといいます。
(1)取引先企業にもたらされる経済的効果
・返済条件の緩和だけでは取引先企業の経営指標は必ずしも改善しない。
・一方、返済条件の緩和に加え、経営改善支援を行った場合には、実施後概ね3年までは売上高や利益が増加する傾向が見られる。
・支援の実施から4年又は5年が経過すると効果が減っていく。
その上で、「事業者支援を実施した後も、単に支援を継続するのではなく、企業が直面する課題を的確に把握したうえで、適時適切なアプローチの見直しの必要性が示唆される」としています。
(2)金融機関にもたらされる経済的効果
・抜本支援等については、取引先企業の債務者区分の改善による信用コストの削減効果が示唆された。
・また、経営改善支援を正常先に実施した場合は、融資残高の増加による金融機関の収益改善が確認され、要注意先に実施した場合は、実質破綻先以下への下方遷移の防止を通じて、信用コストの増加を回避できる可能性が示された。
事業性融資に関しては、5月の事業性融資推進法施行で導入された企業価値担保権制度について、実務上の課題を整理して金融機関側の取り組みを後押しする姿勢を強調。事業性融資は事業の成長のために金融機関側も「一定のリスクを取るもの」だと認めた上で、「一定の試行錯誤が想定されるものの、失敗を過度に恐れることなく挑戦し、その結果を踏まえ、何が有効で何が課題となるのかを振り返り、改善を積み重ねながら、新たな挑戦を続けていくことが重要」と呼びかけています。
業務運営の高度化については、事業者を支援する金融機関側にも人材確保の制約がある中で「付加価値の高い金融仲介」を実現するため、顧客向けサービスにおけるAI活用を含めたDX、内部監査共同化などの取り組みを後押しするとしています。
日本成長戦略を踏まえたアップデート
2019年以降、定期的に公表してきたプログレスレポートですが、高市政権下での公表は初。従来の基本軸を受け継ぎつつ、政府として近く正式に決定する新たな「日本成長戦略」に合わせて内容をアップデートした形です。
6月末に政府が公表した日本成長戦略の案では、高市政権が掲げる「強い経済」を実現するために「金融を通じた潜在力の解放」が重要と指摘。その手段の一つとして「地域金融力の強化」を打ち出し、「地域金融機関が、地域経済の「要」として地域企業の価値向上と地域課題の解決に貢献できるよう、投資銀行機能、地域への貢献力、メインバンク機能等から成る地域金融力を強化する」との方向性を示しました。
具体的には、金融機関の経営改善支援や事業性融資等に関する専門性向上の後押し、「ローカル・ゼブラ企業」への成長支援の推進、金融機関による中小企業のM&Aや事業承継等の支援に関する環境整備などを進めるとしていました。
今回のレポートは政府の新戦略を踏まえ、銀行の健全性や「顧客本位の業務運営」の実施状況をチェックする「守りの官庁」としての役割から一歩を踏み出し、産業振興の旗振り役として地域経済を牽引する金融機関を後押しする “経産省化”とも言える顕著なアプローチの変化が見受けられます。今後、金融庁や中小企業庁が連携して都道府県ごとに策定する予定の「地域未来金融アクションプラン」において、政府が目指す産業振興に向けて金融機関が求められる役割がさらに具体化される見通しです。
