かやば太郎氏 自民党の高市新総裁が就任し、金融業界には衝撃が走っていますね。
本石次郎氏 世の中では日銀の金融政策への影響と、国内株式市場への影響が注目を集めていますが、業界としては、官邸と金融庁の関係性がどのように変化するかも、気になるところですね。
財研ナオコ氏 もともと金融庁は生来の専門性の高さから、霞が関に数ある役所の中では、政治の影響を比較的受けにくい立場にあった。しかし「資産運用立国」を主要政策に掲げる岸田政権の到来で状況は一変。石破政権も岸田路線を受け継ぎ、岸田氏率いる「資産運用立国議連」が政官民の橋渡し的な役割を買って出たことで、4年間にわたって金融庁が「岸田カラー」に染まっていた、といういきさつがある。
本石氏 総裁選の決選投票まで業界内外には、岸田氏に比較的近い小泉氏や林氏が首相になり、石破政権が維持してきた資産運用立国路線、つまり岸田路線を継承してくれるものとの期待がありましたよね。
かやば氏 高市政権の「爆誕」によって、運用立国政策はあっけなく終焉を迎えることになるのでしょうか。
財研氏 それが、そうとも言えないようだ。少なくとも金融庁が手掛ける範囲の政策については、懸念されていたほど極端な変化は起こらないとの見方が強まってきている。
本石氏 麻生副総裁は、もちろん御しやすい存在ではないにせよ、安倍政権下で財務大臣兼金融担当大臣を長く務め、金融庁にとってコミュニケーションに慣れている相手だと言えます。
かやば氏 鈴木俊一元大臣が幹事長に就いたことも金融庁にとっては好都合かもしれませんね。
財研氏 結局のところ高市氏も、得意分野の安全保障政策に比べれば金融分野にそれほど強い関心を持っているわけではなく、そのことは石破氏と同じというわけか。フリーハンドとは言わないまでも、金融庁にとっては岸田氏の「院政」にあった時代よりも、かえって政策運営の自由度が高まるかもしれない。
本石氏 立国政策は、岸田政権下ではNISAなど投資マネーの「出し手」にフォーカスしていました。一方で、石破政権下では成長分野など「受け手」にマネーが届くよう、お金の流路の整備が進みました。
財研氏 誰が国のトップに就いたとしても、税優遇や補助金・交付金で財政を傷めることなく、主要政策として掲げる分野に資金供給しやすい、いわば好都合な仕組みが出来上がっているわけだ。
かやば氏 とはいえ、新たに就任する財務大臣が、岸田氏にない独自色を付け加えて存在感をアピールしようとする可能性はありますね。
本石氏 それは否定できないでしょうけど、仮に財務省出身で金融経済に造詣の深い人物が大臣に就いたとしても、岸田氏とその周辺が作り上げた運用立国政策の骨組みを一から組み立て直すことは、とても現実的とは思えません。石破氏が運用立国政策に「投資立国」という独自スローガンの衣を上書きしたように、表面的な言葉遣いの修正にとどまるかもしれませんよ。
財研氏 金融庁は目下、岸田議連の働きかけで始めたいくつかの重大プロジェクトを抱えている。その行方はどうなるかな。
本石氏 NISA再拡充や、金融庁組織改編については、岸田氏周辺の強力な後押しが減退するとしても、金融庁側が粛々と、調整作業を継続すると見られています。特に組織改編について、保険監督機能の抜本的な強化を望む庁内の声が強い。
財研氏 スピード感には影響が出るかもしれないが、方向性はあまり変わらなさそうだ。
かやば氏 相対的に政治状況の感応度が高いのは、年内に策定を予定している「地域金融力強化プラン」に関する議論の方かもしれませんね。金融審内の会合では既に合併促進策の延長・拡充が焦点になりつつあるものの、地銀再編という大問題は、金融庁という一つの役所だけでは明らかに力不足です。当事者である地銀、税制調査会、各地選出議員、財務省を含め関係者間が足並みを揃えられるかどうかは、しばらく流動化していた政局がどこに着地点を見出すかにかかっているでしょう。
財研氏 今日の座談会の時点では閣僚の顔ぶれなど不確定要素も多いが、近年の株高でようやく個人投資家が築き上げ始めた「成功体験」が、万が一にも新政権への期待値の低下によって吹き飛ばされてしまうような事態にならないよう、新政権に丁寧な舵取りを期待したいところだ。