アセットオーナーシップ改革とGPIFのオルタナティブ投資
岸田文雄前首相が率いる資産運用立国議員連盟が4月23日に政府に提出した提言書。NISAの新枠創設に注目が集まった一方、機関投資家やアセットオーナーに関する提言や、DCの制度に関する厚生労働省への注文も盛り込まれています。
この中で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や共済組合などに対しては、受益者の利益のために、「特定のアセットクラスに偏ることなく、国内のPE・VCを含め、オルタナティブ資産への投資を引き上げていくべきである」と改めて提言しています。
また、昨年政府が策定したアセットオーナー・プリンシプルのさらなる受け入れ促進も打ち出しています。特に、学校法人(国立大学法人、公立大学法人を含む)に対しては海外の基金運用の事例を参考に、文部科学省・総務省が資産運用の実態を把握し、「アセットオーナー・プリンシプルの検討状況を年末を目途に整理すべき」だと迫っています。また、科学技術振興機構が運営する大学ファンド(通称「10兆円ファンド」)による支援対象となる「国際卓越研究大学」の認可について、アセットオーナー・プリンシプルの受け入れを要件に盛り込むことを求めています。
加えて、スタートアップへの成長資金供給を加速させる観点から、「政府は、国内VCへの投資の障壁となっているPE(恒久的施設)課税特例について、グローバル標準に向けて緩和するとともに透明化を図るべきである」としました。
建前上、政府として機関投資家に促しているのは広いくくりとしてのオルタナティブ投資全体であり、国内のPEやVCはその選択肢に過ぎないという位置づけです。ただ岸田政権以来、政府全体としてスタートアップや戦略分野への資金供給に注力していることから、プリンシプル創設などの各種施策を機関投資家へのプレッシャーと見なす向きもあります。厚労省設置の会議体では国内投資への誘導策に対する慎重論が根強く、有識者間で意見の乖離もみられます(関連記事「GPIFが次期中計案を提示、オルタナ投資については温度差も ~厚労省・社会保障審議会レポート~」)。
提言書の提出と同じ日に、岸田政権下に内閣官房が設置した「新しい資本主義実現会議」が第33回会合を実施。スタートアップ分野への資金供給力を官民で強化する施策の一環として、「国内外の機関投資家の資金がベンチャーキャピタルに円滑に供給される」ための働きかけ、機関投資家と企業の対話促進に向けた取引所の対応のあり方などについて事務局側が論点を示しました。石破茂首相は会合で、前政権が作成した「スタートアップ育成5カ年計画」を強化するとともに、「高い成長が期待されるディープテック・スタートアップへの官民の資金供給を強化するなど、その成長の加速を後押しする」と述べました。
内閣府の規制改革推進会議でも、金融庁幹部らが参加し、機関投資家を含め国内成長分野への資金供給を促進する環境整備について集中的に議論が進められています。21日に開かれたスタートアップ・イノベーション促進ワーキング・グループの非上場株式の流動性を高めるため、第一種金商業の新枠を設ける方向性について同庁幹部が説明しました。
「インフレ抵抗力」のため厚労省にも要望
議連の提言書ではこの他、企業年金(DBおよびDC)の運用状況などに関する情報を、他の企業と比較可能な形で「見える化」することを目指し、厚労省が情報集約と公表を進めることについて、デジタル庁との連携も視野に、早期実現を改めて要求しています。DBについても、アセットオーナー・プリンシプルのさらなる受け入れを推進すべきだと強調。また、加入者の退職後の生活におけるインフレ抵抗力確保のため、「DBの運用のあり方を含め、厚労省は好事例を整理・公表すべきである」としています。
また、提言書に盛り込んだ施策を実現するため、「内閣官房において『資産運用立国実現プラン2.0』を作成・公表すべきである」とも迫っています。石破氏がスローガンとして掲げる「投資立国」の具体像が固まりきっていない状況下、議連が要求する「プラン2.0」の策定が実現すれば、現政権が独自色を打ち出すハードルはいっそう高まることになりそうです。