finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート

立教大学教授 三谷進氏に聞く―約100年の歴史を誇る米国の投信市場から、日本の投信市場が学び、超えていくべきポイントは何か

Enrich JAPAN(エンリッチ・ジャパン)―資産運用立国「ニッポン」の未来を探る―

finasee Pro 編集部
finasee Pro 編集部
2023.11.28
会員限定
立教大学教授 三谷進氏に聞く―約100年の歴史を誇る米国の投信市場から、日本の投信市場が学び、超えていくべきポイントは何か<br />

日本でインベストメントチェーンの高度化を実現するには、何が必要なのか識者にうかがうシリーズ。今回は約100年の歴史があり、世界一の純資産残高を誇る「米国の投信市場」*から何を学ぶかをテーマに、立教大学 経済学部教授 三谷進氏から提言をいただいた。日本の投信市場が学び、超えていくべきポイントは何なのだろうか。
* 2023年第 1 四半期時点では、世界の投資信託残高約63兆ドルのうち、米国の残高は約30兆ドルに及ぶ(投資信託協会『投資信託の世界統計』より)。

大恐慌の失敗を経て、1940年代に基盤が固まった米国の投信市場

――米国では投信に約100年の歴史があります。なぜ米国でここまで発展したのか。歴史的に大きな出来事は何だったのでしょうか。

投信が誕生したのは1860年代の英国です。当時、大英帝国として世界中に進出するなかで、本国から海外への投資も拡大していきました。ただ、多くの個人には、海外についての知識はありません。そこで専門家に資金を預け、専門家が現地の状況などを分析しながら資金を分散して投資する。投資家の財産保全を重視しながら規模を拡大していった――これが投信の始まりです。

ところで、「投資信託」は米国では「投資会社」と呼ばれ、会社形態をとりますが、この英国で生み出された「信託=トラスト」という考え方は、委託者から預かった大事な資産を受託者がきちんと保全するという意味合いがあり、歴史的に、受託者の責任として、預かった資産を慎重に管理していかなければならないという考え方が重視されてきました。投資信託の本質に、このような「トラスト」の理念があることはぜひ覚えておいていただきたいです。

――そして、米国に上陸したのですね。

米国に移入したのは1920年代です。このころの米国の投信は会社形態のクローズド・エンド型で、かつレバレッジの効いた証券が人気でした。そこに1929年、大恐慌が起きます。レバレッジが“あだ”となり、多くの個人投資家が大損害を受けました。

ただ、ここからが米国のすごいところだと思いますが、なぜこうした大惨事が起きたのかを議会で徹底して調査・分析を行い、それらを基に法規制が整備されていきました。

当時、「ブルースカイ法」という州ごとのルールはあったものの、連邦全体での規制が必要だとなり、1933年から1934年にかけて、「証券法」や「証券取引所法」が相次いで制定され、株式市場を監視・取り締まるためのSEC(証券取引委員会)も1934年に設立されました。

仕上げに「投資会社法」が1940年に成立します。この投資会社法は、マーケットの在り方を大きく規制した法律で、現行の「法規制によって投信市場を支えていく」構造がここで出来上がったのです。

この構造のもと、戦後を経て、60~70年代でMMFやCMAの登場といった商品の進化、70年代に従業員退職所得保障法、いわゆるエリサ法や、IRA(個人退職勘定)が創設されるなど、年金・退職金に関連する制度も整備され、今日に至るまで発展してきました。

――米国というと、「自由」を尊重するイメージが浮かびますが、戦前からさまざまな規制が存在していたのですね。

自由競争のためには、ゲームがうまく機能するように、場をどう作るのかが重要です。またルールを定めておしまい、ではなく監視・監督も必要でしょう。

さらにそのためには調査・情報も欠かせないはずです。その点、米国は情報開示も徹底しています。私は以前、米国議会の証券法制に関する調査資料を研究するために、上院議員専用の米議会図書館に何週間か通ったことがありますが、米国では、さまざまな情報の閲覧やオープンな利用を非常に重視し、日本とは決定的に違うと実感しました。

――特に70年代からでしょうか、ごく普通の労働者が投信の進化に「ついていった」のもポイントな気がします。

家計の資産形成手段として、投信が広く受け入れられたのは米国の株式市場全体が長期的に大きく上昇し続けたのが大きな要因でしょう。

1980年代に1000ドル台だったダウ平均株価が、2000年には約1万ドルになり、さらに2020年代には3万5000ドルを超えたりしたわけですから、短期的には上下の価格変動はあっても、「長期的に、株式あるいは投信に投資しておけば確実に資産が増える、合理的な資産形成手段である」という社会的な信認が国民全体に広がりました。まさに株式市場に対する「信頼=トラスト」が重要な意味を持ったわけです。

日本ではバブル崩壊以降、投資から距離を置く個人が多い一方、米国では金融危機が繰り返し発生しても、株価の持続的な成長を支えるさまざまな経済政策や、新しい企業の誕生と成長を促すエコシステムが形成されていたことが、株式市場の社会的信用を高めていたと思います。

大恐慌の失敗を経て、1940年代に基盤が固まった米国の投信市場

――米国では投信に約100年の歴史があります。なぜ米国でここまで発展したのか。歴史的に大きな出来事は何だったのでしょうか。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
次のページ 「経路依存性」を引きずる日本…根本的に変わるのに必要なものは
1 2

関連キーワード

  • #公募投信
  • #NISA

おすすめの記事

資産運用立国の実現に向けた官民対話の新たな挑戦──「資産運用フォーラム」が描く日本市場の未来とは
③日本の金融リテラシー向上へ、将来の資産運用を支える人材を育てる

finasee Pro 編集部

資産運用立国の実現に向けた官民対話の新たな挑戦──「資産運用フォーラム」が描く日本市場の未来とは
②DX・企業価値・サステナ・オルタナの4分野で日本を動かす

finasee Pro 編集部

資産運用立国の実現に向けた官民対話の新たな挑戦──「資産運用フォーラム」が描く日本市場の未来とは
①国内外の金融50社超が参加!資産運用フォーラムが目指すもの

finasee Pro 編集部

日本初のハンセンテック指数連動ETFが東証上場―注目浴びる“中国テック株”が投資の選択肢に

Finasee編集部

10億円以上の資産家が多いのは山口県、北陸ではNISA活用が進む。県民性から読み解く日本人の投資性向とは?

Finasee編集部

著者情報

finasee Pro 編集部
ふぃなしーぷろへんしゅうぶ
「Finasee」の姉妹メディア「Finasee PRO」は、銀行や証券会社といった金融機関でリテールビジネスに携わるプロフェッショナルに向けたオンライン・コミュニティメディアです。金融行政をめぐる最新動向をはじめ、金融機関のプロフェッショナルにとって役立つ多様なコンテンツを日々配信。投資家の皆さんにも有益な記事を選りすぐり、「Finasee」にも配信中です。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
みずほ銀行で一段と盛り上がる「米国株ファンド」、安定感抜群の「ピクテ・プレミアム・アセット・アロケーション」
佐々木城夛の「バタフライ・エフェクト」
第16回 米価高騰の実態は? 飲食・製造・不動産…多セクターに広がる負担
三井住友銀行の売れ筋でインデックスファンドの群れから抜け出したファンドとは?
金融庁「地域金融力」強調の狙いは地銀再編の再ブーストか?金融審WG初会合の注目点
大和証券の売れ筋に見える投資家の力量、パフォーマンスが低迷してもトップ10をキープできるファンドとは? 
暗号資産の"金商法適用"が既定路線に!有識者からは「正気の沙汰か」「ギャンブルだ」と批判も…金融審WG第2回会合で何が起きたのか
ファンドモニタリングは、どの指標を参照すればいいか
(1)インデックスファンドはトラッキングエラーに注目
楽天証券ランキングの「S&P500」至上主義に危うさ、実はもっと好成績のファンドがある!?
地域金融機関44行が参加 バランスシート経営の強化へ向けたコンソーシアムが始動
松井証券の売れ筋に現れた次代のスター候補銘柄、「オルカン」を大きく上回るパフォーマンスで注目のファンドとは?
金融庁「地域金融力」強調の狙いは地銀再編の再ブーストか?金融審WG初会合の注目点
【文月つむぎ】NISA拡充策の議論が本格化、押さえておきたい3つのポイント
大和証券の売れ筋に見える投資家の力量、パフォーマンスが低迷してもトップ10をキープできるファンドとは? 
みずほ銀行で一段と盛り上がる「米国株ファンド」、安定感抜群の「ピクテ・プレミアム・アセット・アロケーション」
「分配金」重視姿勢は根強いものの予想分配金提示型でトータルリターンを評価の流れ、野村證券の売れ筋にみる変化
地域金融機関44行が参加 バランスシート経営の強化へ向けたコンソーシアムが始動
暗号資産の"金商法適用"が既定路線に!有識者からは「正気の沙汰か」「ギャンブルだ」と批判も…金融審WG第2回会合で何が起きたのか
佐々木城夛の「バタフライ・エフェクト」
第16回 米価高騰の実態は? 飲食・製造・不動産…多セクターに広がる負担
松井証券の売れ筋に現れた次代のスター候補銘柄、「オルカン」を大きく上回るパフォーマンスで注目のファンドとは?
「ゴールベース資産管理」の実践を通じストックビジネスへの転換を加速させていく case of 足利銀行
特別対談/みずほ証券 浜本吉郎代表取締役社長×楽天証券 楠雄治代表取締役社長
提携から3年、価値観の相違に衝突する場面も
顧客が心地よく使えるシームレスなサービスを
信頼たる資産運用アドバイザーには理由(わけ)がある “進化”した米国の資産運用ビジネスから日本が学ぶべき点は何か? 【米国RIAの真実】
「ゴールベース資産管理」の実践を通じストックビジネスへの転換を加速させていく case of 足利銀行
金融庁「地域金融力」強調の狙いは地銀再編の再ブーストか?金融審WG初会合の注目点
地域金融機関44行が参加 バランスシート経営の強化へ向けたコンソーシアムが始動
金融庁の大規模改編案は、下火気味の”プラチナNISA構想”の二の舞になるのか?【オフ座談会vol.7:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
暗号資産の"金商法適用"が既定路線に!有識者からは「正気の沙汰か」「ギャンブルだ」と批判も…金融審WG第2回会合で何が起きたのか
【プロはこう見る!投資信託の動向】
2025年4月の株価急落は変化のトリガー、米国株式への強烈な資金フローの向かう先とは?
【文月つむぎ】NISA拡充策の議論が本格化、押さえておきたい3つのポイント
【文月つむぎ】投資初心者を狙う「フィンフルエンサー」の脅威に備えよ 法規制があいまいな「グレーゾーン助言」の実態
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら