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ゴールベースアプローチの真髄に迫る!

日本におけるゴールベースアプローチの現状ー米国から学ぶ「顧客本位ともうかる仕組み」の両立

山本 智太郎
山本 智太郎
株式会社QUICK 金融ソリューション事業本部 資産運用研究所 企画研究部 主席研究員 
2025.03.21
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日本におけるゴールベースアプローチの現状ー米国から学ぶ「顧客本位ともうかる仕組み」の両立

日本では「ゴールベースアプローチ」の言葉が独り歩き、本来の意義や役割とは

「リソース不足で時間をかけた提案は難しい」「そもそも顧客にはゴールがない」「有償のアドバイスはなかなか受け入れてもらえない」。ゴールベースアプローチ(GBA)に関して、金融機関の営業現場からは、取り組みに腐心する様子がうかがえる声が聞かれます。これは「GBA」という言葉だけが独り歩きしていて、GBAのビジネス的発展の経緯や導入の必要性が浸透していないためと推測されます。

GBAは米国のラップビジネスとともに発展した手法です。米国のラップビジネスも最初は日本の一般的なファンドラップがそうであるように、顧客のリスク許容度に応じたポートフォリオとリバランスの提供からスタートしました。その後現在の形態になったのは2000年以降です。その過程で最も影響を与えたのが急速なフィデューシャリー・デューティー規制(FD)の強化です。ここに従来のファイナンシャル・アドバイザー(FA)のアドバイスがGBAに変化していった要因を見ることができます。

かつて米国の証券リテールビジネスは日本と同様にコミッションベースで、コミッションゆえの回転売買誘発により投資家に不利益を与えているケースが多くありました。これらを抑止するためにFDが強化されたのと同時に、継続した手数料等の低下などコミッションビジネスの成長力がなくなり、新たな収益源になる預かり資産ビジネス(フィーベース)、特に投資助言・一任報酬が別途追加して得られるラップビジネスが拡大していきました。

ところが預かった資金のポートフォリオ運営だけで継続的に報酬が得られるため、アフターフォローなどがおざなりにされていました。投資家の最善の利益が置き去りにされた結果、フィービジネスに関してもFDが強化されました。また従来の投資アドバイスに当たるポートフォリオ運用やリバランス等もコモディティー化し、競合他社を差別化することが困難になったため、改めてフィービジネスにおける収益の源泉が議論され、FDへ対応しながら発展したのがGBAです。

「顧客の最善の利益の追求」。これはFDの中核ですが、これを実際に実現するには、顧客の最善の利益のために行動し、それに反する利益相反行為を排除する必要があります。GBAの「顧客との会話を通じて顧客が実現したいファイナンシャル・プランを目標に落とし込み、実現するための方法を提示し、顧客のゴールの実現まで管理・伴走する」という考え方は、FDと整合させるために作り出されたものです。

言い換えると、GBAは「顧客のニーズに合わせたよりパーソナライズされた提案と、継続したアフターフォローによって、FDと整合させながら顧客との利益相反を排除できる効率的な方法である」と同時に、「顧客との長期的な関係を構築することで他社と差別化を図り継続的にフィーを受け取り、もうけるためのビジネスモデル」と言えます。

今、求められる「顧客の最善の利益を追求しつつ、もうかる仕組み」の確立

一方でGBAはFAの業務が大幅に増えるため、増員など人件費等の拡大を招きます。米国ではビジネスの成長と顧客満足度の向上を同時に実現しながらFDを満たすために、FAの対応を顧客層に応じ差別化する(全ての顧客に同等のGBAではなく、ビジネスニーズに応じ、例えばマス層・資産形成層にはロボアド誘導など)、FAのGBAを支援するシステムツールを導入する、などFAの生産性を向上させながらGBAによるフィービジネスが展開されています。

場合によってはコモディティー化した機能(ポートフォリオ作成など)はアウトソースし、会社規模に合わせさまざまな効率化も図られています。またFDに対応しながらGBAによるフィービジネスを成長させるため、顧客と利益相反しない、かつGBAの推進ドライバーになるようにFAの報酬体系が設定されており、これら体制、システムによる効率化、報酬制度が組み合わさりGBAが実行されています。

日本も米国と同様に、継続的な手数料や投資信託の信託報酬低下などにより、新たな収益源として預かり資産ビジネスを目指す動きが本格化しています。特に追加の報酬が得られる投資一任契約を伴うファンドラップなどが注目されています。

日本のFDに当たる「顧客本位の業務運営の確保」のより一層の推進に当たり、2023年11月に金融商品取引法等の一部が改正され、「金融サービスの提供等に係る業務を行う者は、次号各号に掲げる業務又はこれに付随し、若しくは関連する業務であって顧客の保護を確保することが必要と認められるものとして政令で定めるものを行うときは、顧客等の最善の利益を勘案しつつ、顧客等に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない」と規定されました。

つまり日本でも「顧客の最善の利益の追求」が法律として義務化されたのです。これは金融審議会 市場ワーキング・グループでも以前から欧米のFDが研究され、日本も遅ればせながら受託者責任の強化に進む方向性を明確に打ち出したものです(金融庁 金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」〈第16回〉事務局説明資料参照)。

今後、日本でもFDに対応しながらもうかる仕組みを確立する必要があります。米国で発展したGBAはその一つの解決策となり得るものです。ただし、GBAの実現にはFAの生産性を向上させるシステムや体制的な対応と、顧客と利益相反せずGBAを推進するエンジンとなるFAの報酬制度が不可欠です。

最後に米国でFAの方にヒアリングした際の印象的なコメントをお伝えします。

「お客さまとゴールを共有することで、お客さまの資産が増えれば、自分ももうかる。お客さまとベクトルが同じ、お客さまと利益相反しないので胸を張ってお薦めできます」

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著者情報

山本 智太郎
やまもと ともたろう
株式会社QUICK 金融ソリューション事業本部 資産運用研究所 企画研究部 主席研究員 
1988年現日興アセットマネジメント入社。トレーダー、新商品開発、ファンド評価、OMS導入などに携わる。その後、現SMBC日興証券にて投資信託専門のネット販売チャネルの立ち上げに参加。2010年よりQUICKにて現職。投資信託の企画・管理・販売の現場で培った経験を基に、販売会社における投資信託やラップ等の分析、販売プロセス構築などのサポートに従事。
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