――プランの実現度を現時点でどのように評価しますか。
プランの開始から1年しか経っていませんので、その政策効果を評価するには、まだ早いでしょう。ただ、昨年8月に企業年金や大学ファンドなどを対象とする「アセットオーナー・プリンシプル」を策定し、12月にはiDeCoの拠出限度額と加入可能年齢の引き上げを決めたことで、プラン実現に向けた環境整備が昨年末までに一段落したと考えています。
個々の政策について政府が実施し、その達成度(KPI等を使って)を確認したうえで、更なる政策の必要性を検討していくという流れが一般的です。こうした政府による個々の政策の実施プロセスに加え、資産運用立国実現プランは、最初に目指す将来像を示し、それに関わる販売会社や運用会社、アセットオーナーといった関係者すべてに改革を求め、その進展状況に合わせ、政府が政策を追加していくというダイナミックなプロセスが加わります。昨年末の段階で政策の大きな骨格は措置されたので、次のステージとして、金融機関をはじめ民間の方々がどのように展開していくかを注視する局面に入ったと思います。
――新NISAについては、口座を複数の金融機関で開設できるようにするなど、制度の一部見直しを求める意見が挙がります。
NISAについてはさまざまな要望をいただいておりますが、NISAの趣旨、進捗状況や実現可能性を踏まえ、慎重に検討していく必要があります。
必ず着手しなければならないのは、NISA口座の開設から10年後等に金融機関が行うよう定められている「所在地確認」の撤廃です。現行では金融機関が全ての口座保有者の氏名・住所を確認するために書類の郵送等を行い、その確認ができなければNISA口座での新規取引を凍結する仕組みになっています。これはユーザーにとっても金融機関にとっても大きな負担をかけると思います。とはいえ、NISA口座を保有する資格のない人による取引を防ぐ必要もありますので、現状の所在地確認に替わる措置を検討しているところです。
複数の金融機関でNISA口座の開設を認めるのは、金融機関の競争を促しますので、一般論としては悪くないことです。しかし、それにかかるコストがあまりに大きく、かえってユーザーの負担が増えてしまうのは望ましくありません。特に「つみたて投資枠」のような低コスト設計の制度で、追加の費用を払ってまで複数口座を開設するニーズがあるかどうかでしょう。そのあたりのバランスを見極めていくことになります。
――米国株式や全世界株式を投資対象とした低コストのインデックスファンドに資金が集中しています。信託報酬の引き下げが激化して運用会社の収益が悪化する要因になりませんか。
NISA全体でみれば、現物の日本株が4割を占めています。一部のインデックス投信に資金が集中している状況は、あくまでも投資信託に限った話です。そもそもNISAは、あくまで、国民の資産形成を支援することが目的であり、運用会社の間で競争原理が働いた結果、良質な金融商品が国民に提供されることを前提としています。公平な競争の結果として生じている状況に、政府として何か評価を下すようなことはありません。個別商品の状況に介入するのではなく、例えば、金融経済教育や良質なアドバイザーによるサポートを充実させることで、資産形成に関する国民のリテラシーを高めていきたいと考えています。
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――昨年8月にJ-FLEC(金融経済教育推進機構)が本格始動し、認定アドバイザーの活動もスタートしました。そうしたなか、NISAに限定したアドバイザー制度の新設を求める動きもあります。
18歳以上の国民のうち、金融経済教育を「受けたことがある」と答えた割合は7%にとどまります。政府が掲げる目標は20%ですので、この目標の達成のためには今後1400万人ほどに対し金融経済教育を届けていく必要があります。J-FLECの認定アドバイザーは昨年12月に1000人を超えましたが、J-FLECが直接行う事業だけでは20%の目標達成が難しいのは明らかです。そこで金融機関や一般企業の職域、年金基金、学校といった領域でも金融経済教育を拡充していただき、J-FLECがその中核を担うことによって、関係者の連携を深めてまいります。
足元ではNISAの口座数が2500万件を超え、金融経済教育の一部をなす資産形成のための教育は大きなニーズが見込まれます。認定アドバイザーは、何か新たな助言サービスを行うことを規制したり禁止したりすることを狙っておらず、この制度により、既存の助言サービスに関する規制に変更を行うものではありません。J-FLECが認定アドバイザーを使って行う個別相談事業は、個別の商品を推奨することを想定していないものです。
――投資信託の販売を担う金融機関の皆さまへメッセージを。
資産運用立国の根本的なコンセプトは、国民が中長期的に投資の果実を実感していただけるような好循環をつくりだすところにあります。直近の相場やNISA口座の状況に気を取られがちですが、何より重要なのは、「ライフプランに応じた資産形成の選択肢として長期投資が日常的に考慮される」という国民意識を定着させることです。
国民の皆さまは貯蓄から投資へと動き出していらっしゃいます。ですから、その国民を決して裏切ってはなりません。これは我々の自戒であり、金融機関の皆さまへの切なる要望でもあります。