講演のオファー「普通なら後任者にまかせるが…」
フォーラムには国立大学法人や大学基金の運用担当者らが出席。大学に資金支援を行うための財源として国が10兆円規模で運営する「大学ファンド」の運用担当者が、同ファンドの運用状況や運用体制についてプレゼンしたほか、大学基金運用の専門家らが登壇し、環境変化の中での運用の現状や課題について意見を交わしました。
井藤長官は「資産運用立国実現プランを通じた資産運用業・アセットオーナーシップ改革」をテーマに講演しました。冒頭では、講演のオファーを受けたタイミングが長官就任前の企画市場局長時代だったと説明しました。井藤氏は「実は(オファーを受けた時点で)長官になることは認識していた。普通であれば後任の局長に『(代わりに講演を)やれよ』と引き継ぐが、私自身5年間(主計官時代に)文部科学予算に携わり、JST(科学技術振興機構)には非常に思い入れも深いので、ぜひ私自身がやらせていただこうと思った」と、登壇の経緯を明かしました。
政府の新しい資本主義実現会議が夏のうちに最終版を取りまとめる「アセットオーナー・プリンシプル」については、「大学ファンド、各国立大学法人、学校法人、企業年金、保険会社が含まれるアセットオーナーは、金融資本市場を通じて企業・経済の成長の果実を受益者にもたらす重要な役割を担っている。このために幅広いアセットオーナーに共通して求められるガバナンス、リスク管理等についての原則を定めた」と策定の目的を説明。すでにパブリックコメントを実施した文案を構成する、運用目標の設定などに関する5つの原則について話しました。
「プリンシプルは迷惑だ」との批判には…
そのうえで井藤氏は、「アセットオーナープリンシプルを作る過程で一部、『こんなのは迷惑だ』というような話もいろいろ聞こえてくることがあった。多分、迷惑だと思われるような方はきっちり、このレベルはクリアしているということなので問題ないと思う。ごく当たり前なことを書いているので、こういうところが押さえられていないな、大丈夫かなというふうにと考えて(そのために使って)いただければ」と述べました。
「もちろんプリンシプル(法的拘束力のない行動規範)なので、従わなかったからといって我々金融庁との間で何か問題があるということではない。ただ受益者に対して、ちゃんと責任、説明できるかについてはなるべく意識してもらえれば」と期待を示しました。
さらに井藤氏は、先日金融庁がFDレポートの中でリテール向け販売に関する課題を指摘した仕組預金や仕組債についても言及しました。「なかにはより金融収入を増やす観点から、預金や国債といった元本確保型のものの延長上にある感覚で、利回りが得られる仕組預金や仕組債を活用するケースもあると聞いている。『安全だ』と思う人も世の中には結構いるみたいだが、とんでもない間違いで、運用として合理的でないものがある」と指摘しました。
「仮に資金があって、それをさらに寝かしておくのはもったいないと、よりよい研究、教育環境を作るためにリスク性商品に投資する際、受益者の最善の利益を追求するために備えておくべきことが原則(プリンシプル)には含まれている。プリンシプルを使用しつつ、自ら資産運用に取り組むための十分な備えがあるかどうかという点はぜひ点検していただければ」と述べました。
また、8月に本格始動した金融経済教育推進機構(J-FLEC)の取り組みについても紹介。「学生などが最近、投資詐欺等トラブルに巻き込まれるような話が非常に多い。投資に携わる人からすると、何でこんなものを買うのかなと思うかもしれないが、自分の若い頃を振り返ってみるとなかなか難しく、有益な金融商品か投資詐欺なのかは、金融に慣れ親しんでなければわからないところもある」と述べました。「もちろん金融トラブルに巻き込まれないというのはイロハのイとして、さらにより良い投資判断を行っていただけるよう、ベースとなる金融知識をつけていただきたいということで官民一体となって中立的な立場から金融経済教育を推進すべくJ-FLECを設立した。本格稼働のあかつきにはこの機構を中心に、学校や企業を含め幅広く金融経済教育を受けていただく機会が提供されるよう、金融庁としても後押ししていく」と語りました。