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みずほ銀行のプライベートバンキングビジネス(2)
メガバンクグループの中で存在感と影響力を発揮するための課題

宮本 弘之
宮本 弘之
豊橋技術科学大学総合教育院教授
2024.08.06
会員限定
みずほ銀行のプライベートバンキングビジネス(2)<br />メガバンクグループの中で存在感と影響力を発揮するための課題

本稿は、みずほ銀行のプライベートバンキングビジネス(以下、「PBビジネス」)について、同行ウェルスアドバイザリー部の川崎洋嗣部長へのインタビュー(2024年6月3日実施)を踏まえ、第三者である筆者が、これまでの取組みや現状をまとめたものである。(1)では、同行及びグループのPBビジネスの歴史と特徴について述べた。(2)では、同行のPBビジネスの現状と今後を展望する。

みずほ銀行のプライベートバンキング業務の現状

みずほ銀行では、リテール・事業法人部門傘下のウェルスアドバイザリー部が、世帯総資産30億円以上の超富裕層を担当している。ウェルスアドバイザリー部には、顧客を直接担当するウェルスアドバイザーが30名、営業部店を支援するウェルスアドバイザーが20名、スタッフや管理職などが25名、合計75名が在籍している(2024年6月時点)。部内の組織は、総資産100億円以上の顧客を担当するアドバイザリーチームと、総資産30億~100億円の顧客を支店の担当者とともに対応する支援チームに分かれる。

ウェルスアドバイザー(アドバイザリーチーム、支援チーム)は、年齢構成的には50代以上が4割になっており、プライベートバンキング業務の経験年数では10年以上の人数も3割程度存在する。

川崎氏は、ウェルスアドバイザーの年齢構成について、「ロングタームリレーションの戦略を進めると、プライベートバンカーの高齢化の問題も出てきます。今後、銀行の人事制度との調整が必要だと考えており、60歳、65歳になってもプライベートバンカーとして最前線で働けるような環境を作っていきたいと思います。銀行にとっても、お客様を長く担当したプライベートバンカーが55歳や60歳でやめてしまうことは損失が大きいと思います。また、アドバイザリーチームは、1人当たり30ファミリー位の担当が限界なため、30代~40代のメンバーを増やして、教育して、ビジネスとして大きくしていきながら、プライベートバンカーの若返りも図っていきたいと思っています。」と話す。

総資産30億~100億円の超富裕層に対してウェルスアドバイザーは、これまでは案件単位で営業部店をサポートする役割であったが、今後は一部の顧客に対しては総資産100億円以上の超富裕層と同じように、ウェルスアドバイザーが顧客を直接担当する態勢に移行している途中という。このため、支援チームを増員し、年度内に現状の20名体制から倍増させていく方向で検討しているとのことである。

どのような組織にも共通することだが、ビジネスが拡大することで年齢や業務経験年数のバランスを保ち、組織の活性化が図られるという点で、みずほ銀行のウェルスアドバイザリー部は好循環に入りつつあるように見える。

                みずほ銀行の川崎洋嗣氏

PBビジネスが花開くかどうかの分岐点

川崎氏は、日本のPBビジネスの現状をどのように見ているだろうか。

プライベートバンキング業務に長く関わってきた川崎氏から見て、「富裕層ビジネスの市民権は得られた」という感触があるようだ。

川崎氏は、1991年に旧富士銀行に入行し、支店を1ケ店経験した後、投資顧問会社や信託銀行に出向し、あたかもプライベートバンカーに必要な知識や経験を蓄えるようなキャリアパスを踏んできた。みずほ銀行のプライベートバンキング部門においても、企画・商品開発からプライベートバンカーの営業責任者、さらには支店長も4ケ店務めた。プライベートバンキング業務を知り尽くす川崎氏は十数年前と比較して二つの変化を指摘する。ひとつ目は、銀行内での富裕層の位置づけの変化である。みずほ銀行に限らずどの銀行でも、富裕層や超富裕層に特別な待遇をすることは、一般の顧客に対する差別ではないかという見られ方が強かったが、今では大手銀行が軒並み、「富裕層戦略の強化」を前面に打ち出すようになってきている。川崎氏が「富裕層ビジネスの市民権は得られた」と語るのは、銀行内での富裕層ビジネスの位置づけが明確に変わった手応えを感じているからであろう。

二つ目は、銀行員のキャリアに対する意識の変化である。川崎氏は、「以前はプライベートバンキング部門に来ると在籍期間が長くなってしまい、銀行員のキャリアにマイナスになると受け止められていた風潮がありました。今は、やっている仕事や業務をしっかり身につけて、その仕事を長くやっていきたいという気持ちの行員が増えてきたと思います。ウェルスアドバイザリー部に公募で手を挙げる行員も増えています。」と話す。PBビジネスにおけるロングタームリレーション戦略と銀行員のキャリア意識が整合するようになってきたと考えられる。

しかし、このような変化を実感するからこそ、今が分岐点だと川崎氏は感じているようだ。「国内の金融ビジネスにおいてウェルスマネジメントをどのように定義するかを考えるときだと思います。金融のリテールビジネスがドラスティックに変わってきた中で、相対的にウェルスマネジメントビジネスの重要性が認識されていますが、これが本物になるかどうかの分岐点にいると思います。」

この点に関しては筆者も同感である。労働集約的なマスリテールビジネスのあり方に限界が感じられ、デジタル化に舵を切らざるをえなくなっているのに対し、富裕層の増加や資産価格の上昇による追い風を受けたPBビジネスは順風満帆に見えるが、日本の経済・社会に対して成し遂げたものは未だほとんどないのではないだろうか。

メガバンクグループの中でのPBビジネスの存在価値

では、メガバンクグループの中でPBビジネスはどのような役割を果たすべきだろうか。

ビジネスの規模では、リテールビジネスや法人ビジネスの足元にも及ばない。欧米では、不安定な投資銀行ビジネスに対して、利益変動の少ないウェルスマネジメント部門を強化した金融機関が脚光を浴びているが、日本のPBビジネスがその域に達するには、まだ長い時間がかかる。

この点に関して川崎氏は、「銀行のリテールビジネスは1件当たりの収益は法人ビジネスよりもはるかに小さいですが、景気の波の影響を受けにくく安定した収益が期待できます。それに対して、法人ビジネスはボラティリティは高いものの、億円単位の収益が狙えます。プライベートバンキングビジネスはその中間にあるのですが、法人ビジネスからの収益に頼り過ぎず、個人の資産運用やコンサルティングによる収益にもしっかり取り組み、法人収益と両輪で進めた方が良いと思います。」と述べている。

銀行の中でPBビジネスの存在感を高めるための手っ取り早い方法は、法人部門と連携して収益をあげることであり、プライベートバンカーが主導して法人ビジネスを獲得すればよい、と考えがちかもしれないが、法人部門との距離感を誤ると、顧客からも見透かされ、プライベートバンカーとしての本来の役割を見失ってしまう恐れが出てくるだろう。また、法人ビジネスからの収益に頼るプライベートバンカーは、結局、法人部門の戦略や方針にしばられ、プライベートバンカーとしての成長にも悪影響を与える恐れがある。

一方で、PB部門がニッチな存在である限り、どんなに質の高いサービスを提供していても、メガバンクグループの中での存在価値は高まらないだろう。リテール部門との関係においても、組織として完全に分断された関係ではなく、PB部門の影響を受けてリテール部門が成長するという構図が必要になる。そのために、PB部門は、自立と連携のバランスをうまくとれるようにならないといけない。

この点に関して川崎氏は、「ウェルスマネジメントビジネスが、メガバンクのビジネスの中でガラパゴスのように分離して成長するのではなく、マスリテールビジネスと相互に良い影響を与えながら成長していくことが大事だと思います。超富裕層向けに培った総合コンサルティングのノウハウを、資産の規模こそ異なれど、富裕層やマスリテールのアッパー層を担う担当者に伝播していくことが求められており、当部でも取り組んでいます。お客様へのサービスにおいても、銀行の人材においても両者のつながりが重要です。」と述べている。

みずほプライベートウェルスマネジメントの設立から長い時間をかけてみずほフィナンシャルグループが歩んできたPBビジネスへの取組みは、必ずしも平坦な道のりではなかったかもしれない。しかし、そのレガシーを活かすことができれば、メガバンクグループという大きな舞台にPBビジネスの花を咲かせることができるだろう。今後のみずほ銀行のPBビジネスの歩みに注目したい。

 

本稿は、みずほ銀行のプライベートバンキングビジネス(以下、「PBビジネス」)について、同行ウェルスアドバイザリー部の川崎洋嗣部長へのインタビュー(2024年6月3日実施)を踏まえ、第三者である筆者が、これまでの取組みや現状をまとめたものである。(1)では、同行及びグループのPBビジネスの歴史と特徴について述べた。(2)では、同行のPBビジネスの現状と今後を展望する。

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著者情報

宮本 弘之
みやもと ひろゆき
豊橋技術科学大学総合教育院教授
豊橋技術科学大学総合教育院教授。株式会社野村総合研究所に32年勤める。仕事の傍ら経済学の博士号を取得し、現職。家計の金融行動について、ミクロ経済学や行動ファイナンスの観点から実証的に研究。実務経験を活かし、大学では経済学、ファイナンスなどを教える。
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