事業主の監督官庁は厚労省
今泉氏は厚労省や同省設置の専門部会での議論の内容に関しては、あくまでも所掌外であるとしたうえで、金融サービス提供法の改正により年金分野を含む幅広い業態に適用される「最善利益義務」が新設されたことに触れました。厚労省の専門部会の公表資料を引用しつつ「DBや、DCの事業主に対する監督が変わるのではないか、あるいは違う所管省庁になるのかといったご指摘を伺うことがありますが、これまでと変わらず、DBとDCの事業主についてはあくまでも引き続き厚生労働省が、厚生労働省の権限に基づいて監督を行うことになります」と説明しました。
また、金融機関側の監督に関して「DBの運用の委託先、受託金融機関については当然、金融機関として金融庁の所管になります。また、DCの運営管理機関は、金融庁が厚労省と共管をしています。今般規定される(最善利益)義務は新たな内容というより、企業年金に限っていえば現行の忠実義務による対応の定着・底上げを図るために法律で明記するということになっています」と述べました。
アセットオーナー改革の狙いは"予定利率引上げプレッシャー"にあらず
資産運用立国実現プランに盛り込まれたアセットオーナーシップ改革をめぐり、企業年金の業界内では予定利率の引き上げに向けプレッシャーをかける趣旨ではないかとの観測もあります。
今泉氏はこうした議論について「DBにおける予定利率と掛け金とのバランスについては個々の労使合意で行われるべきものだと思っており、少なくとも私たち金融行政の立場から求めていくものでは全くありません」と念押し。「春闘で賃上げが進む中、あるいは物価が上昇局面になっていく中で『人への投資』への注目が集まり、趨勢的に下がってきた退職給付の水準をどうしていくのかが議論になることが考えられます。そのとき、掛け金を増やすのか、運用でそこを埋め合わせしようするのかという両方の選択肢があり、仮に運用のほうを取った場合、それを助けるインフラ、土壌を作っておかなければいけないという観点で、私たちは金融機関へのモニタリングをしていきます」と語りました。
付加価値に見合ったフィーの水準とは?
つづいて、金融機関が受け取る適正なフィーの水準の考え方についても言及しました。手数料は需要と供給側のニーズのマッチングの中で本来決まっていくべきだとの前提のうえで「仮に手数料だけで全く投資するには値しないような商品であれば、そういうものを売ること自体には社会的な存在価値がなく、やめたほうがいいでしょう」と指摘。「他方、私たち金融行政の観点からすれば金融機関が持続可能であることは当然必要であり、大事なことは付加価値に見合ったフィーが支払われるということです」と付け加えました。
そしてDCを例に挙げ、「運営管理機関の事務費を徹底的に引き下げるとすると、金融機関側では、その後に運用商品からしか収益が上げられないことになると考えられます。一見すると企業側は自分たちが払う事務費が下がってハッピーで、金融機関は何とか『トントン』になって生き残れるが、加入者の方が一方的に損することになりかねません」と指摘。「付加価値に見合った対価を払う関係性でないと、金融機関側が経済的に生き残るために別のところで取り戻すことになれば、その歪みは弱い立場の人のところに行きかねません」と呼びかけました。