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伊藤元重東大名誉教授に聞く(後編)
ピケティ・ブームから10年 新NISAをきっかけに「日本型分配」の議論を深めよ

Enrich JAPAN(エンリッチ・ジャパン)―資産運用立国「ニッポン」の未来を探る―

finasee Pro 編集部
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2024.04.18
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伊藤元重東大名誉教授に聞く(後編)<br />ピケティ・ブームから10年 新NISAをきっかけに「日本型分配」の議論を深めよ

新NISAのスタート、日経平均株価4万円突破、バブル期並みの賃上げ率——。2024年に入って相次ぐ日本経済の地殻変動現象は、ファイナンシャル・ウェルビーイング(経済的に幸福な状態)の醸成にどのような示唆をもたらすのでしょうか。日本を代表する経済学者である伊藤元重東大名誉教授に聞きました。後編では、経済学者トマ・ピケティの『21世紀の資本』が世界的ベストセラーとなって10年がたったことを踏まえ、改めてピケティの研究が日本の資産形成や財政の論議に与える影響についてうかがいました。

――ピケティの「r(資本収益率)>g(経済成長率)」の不等式が広く知られるようになりました。

ピケティは数百年にわたるデータを調べ上げ、富の分配が偏る根本原因が「金利が経済成長率よりも高い」という不変の構造にあると明快に言い切りました。2000年代の後半から世界的に経済成長率が下がったことで、富裕層と貧困層の格差や労働分配率の低さなどがあらわになったという背景もあり、ピケティの著作が人々の大きな関心の対象となりました。

ピケティの議論は、英国やフランスなど欧州のデータを基礎にしており、ごく一部の資産階級に不動産や債権が集中し、それが格差を生み続けているというストーリーを展開しています。ですから、日本のように太平洋戦争や戦後改革などで資産が国内に広く分散した国にピケティの議論をそのまま当てはめるのは好ましくはありません。そうはいいながらも、やはり一般の国民、いわゆる労働者も株や投信、不動産関連の資産を一定額持つことで、より高い資産機会を得られるようにすることは重要なテーマです。この点では日本がこれまで消極的すぎたために、日本の一般のサラリーマン世帯を米国の同じような世帯と比べると、生涯所得や資産所得で大きく見劣りするのはまぎれもない事実です。そこを是正するという意味ではピケティの議論が一つの参考になります。

――日本の置かれている状況はそれほど特殊なのですか。

例えばロンドンの主要な土地を所有しているのは、ごく一部のファミリー(一族)です。しかし日本の場合は、60歳以上の方であれば、数千万円の資産をお持ちの方が数多くいらっしゃいます。そういう意味で見ると、分配といっても西欧の分配と日本の分配ではかなり違った様相を呈しています。それは決して、日本において分配の問題が重要ではないという意味ではありません。日本の場合は、資産を比較的多く持っている高齢者と、経済の低迷に苦しんできた世代の間の格差こそ問題です。日本は日本なりに新しい分配のあり方を考えていくべきしょう。新しいNISAがスタートした今が、日本型の分配のあり方を考えるには非常にいいタイミングなのかもしれません。

長生き時代ですので、現役時代の所得をどのようにしっかり維持し、人によっては元気であれば少し長く働くとか、これまでの仕事で培ったノウハウを生かしつつリスキリングによって新しいスキルを磨いていくか、といった論点が欠かせません。

――日本の資産形成を促すために強化すべき点は。

家計のファイナンシャル・プランナーのしくみでしょうね。米国では当たり前のように、ファイナンシャル・プランナーに運用を任せ、多少はリスクを取りながらも家計の資産を増やしていくことで老後の資金を稼ぐことが行われています。それがやはり日本には欠けている。私の米国の知り合いでも先日、97歳のご夫妻が亡くなったのですが、本当に普通のサラリーマン世帯であっても、老後に海外旅行を頻繁に楽しんでいらっしゃいました。どうしてそのようなことが可能かというと、やはり何十年と付き合っているファイナンシャル・プランナーがいて、その人がしっかり資産を管理してきたそうです。日本でもライフサイクルの中でどういうふうに資産形成するか、という観点が不可欠です。

――ピケティの「r>g」は今後、どのように読まれていくしょうか。

金利と成長率を突き合わせたというのは非常に重要なポイントです。今まで日本はデフレで生きてきました。現時点では金利よりも成長率のほうが高い状態ですが、今後は金利が上がってくると、ピケティが指摘した格差拡大の問題に加え、政府の財政の問題も深刻さが増してゆくことになります。成長で得られる税収の上積みよりも、金利上昇で国債費の負担がさらに増えていくわけですから。

日本でも新型コロナ以前は、十分かどうかはともかく、プライマリー・バランスは縮小するなど財政健全化の流れがありました。しかしコロナによって財政出動がかさんでからは、財政健全化の機運もしぼんでいます。国民の意識のなかでも増税を容認する空気はありません。日本においてピケティの「r>g」は、財政負担のシンボルという色彩を帯びることで、税負担のあり方をめぐる国民的議論を喚起していく不等式になるかもしれませんね。

――ピケティの「r(資本収益率)>g(経済成長率)」の不等式が広く知られるようになりました。

ピケティは数百年にわたるデータを調べ上げ、富の分配が偏る根本原因が「金利が経済成長率よりも高い」という不変の構造にあると明快に言い切りました。2000年代の後半から世界的に経済成長率が下がったことで、富裕層と貧困層の格差や労働分配率の低さなどがあらわになったという背景もあり、ピケティの著作が人々の大きな関心の対象となりました。

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