外国株式への注目度の高さが浮き彫りに
2024年2月現在、NISAの成長投資枠の対象となる投資信託(ETFを除く)は1800本以上にのぼっている。果たして各運用会社は、成長投資枠の中でどんなプロダクトに新たな採用のチャンスや提案の余地があると感じているのだろうか。
資産クラスごとに「非常に注目している」(3ポイント)、「まあ注目している」(2ポイント)、「どちらともいえない」(1ポイント)、「注目していない(無回答含む)」(0ポイント)で選択してもらい、カッコ内のポイント数を積み上げたものが下のグラフだ。
最も注目度が高かった資産クラスは「世界株式」で「米国株式」「先進国株式」が続く格好となり、外国株式関連が上位を独占した。特に世界株式に関しては、回答に協力いただいた13社のうち10社が「非常に注目している」と回答するなど、関心の高さがうかがえる結果となった。足元のいわゆる“オルカンブーム”を映した結果と言えるかもしれない。またエクイティ投資との親和性の高い「成長投資枠」ということもあって、新興国株式や国内株式に対しても多くの運用会社が注目していると回答した。
その一方で、外国債券やバランス型に対する注目度も高く、外国債券(先進国等安定型)とバランス型は全体で4番目に高いスコアで並んだ。本来、株式との分散効果の機能を持つ債券にも一定の割合をアロケーションすべきとの問題意識や、足元の海外の金利水準と今後の金融政策の転換を睨んで、今後投資妙味が高まっていくとの見方も背景にあるのではないだろうか。
運用会社が思う
販売会社の新NISAプロダクトのラインアップ
また、このアンケートでは、販売会社の新NISAプロダクトのラインアップに対しての感想やメッセージについても聞いたところ、以下の通り各社から多数のコメントが寄せられた。(コメントは社名五十音順)
「当社は成長投資枠の商品に優れたパフォーマンスの商品や、サステナビリティ関連ファンドなどラインナップを豊富に取り揃えております。さらなるラインナップ拡充のための議論も、販売会社様と進めていきたいと考えております」(アセットマネジメントOne)
「株式、債券、マルチアセットはそれぞれの良さがあり、世界的にも歴史的にもそれぞれの資産クラスの特徴を生かした商品が開発されている。日本の新NISAにおいては株式運用の商品が先行して市場をけん引すると思うが、債券、マルチアセットのファンドも追随していくと考える。今後も投資家に付加価値を提供できるファンドを日本市場に届け、長期的な視点で販売会社様と一緒に育てていきたい」(HSBCアセットマネジメント)
「NISAの恒久化によって主に、①非課税のメリットを最大限に享受できる高成長が期待できる資産であること ②一過性のテーマではなく長期の成長テーマであること ③ポートフォリオとしての分散効果が期待できること、の3点が投資のポイントになると考えます。そうした観点で、弊社では成長投資枠に向けて、netWIN GSテクノロジー株式ファンドをはじめとしたWINシリーズ、集中銘柄投資戦略、また預金からの第一歩となりうるグローバル債券戦略にも注力して参ります。成長投資枠では対面販売による価値あるアドバイスの実施が重要になると考えますので、お客様との対話の材料やポートフォリオへの組入意義といった情報提供に重点を置き、対面、デジタル双方での販売支援を一層強化してまいります」(ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント)
「新NISAをきっかけの1つとして、新しく投資を始められる方々も多く、商品選びや投資の続け方や、運用状況の見直しなどのアドバイスやサポートを必要とされる方も多いと理解しております。窓販の重要性は益々増してくると考えており、弊社としては商品の開発や運用はもちろんのこと、長期で資産運用に取り組んでいただくことに役立つ様々なサポートにも全力で取り組み、販売会社の皆様とともに、投資のすそ野を広げる活動にも注力していきたいと考えています。また昨年はつみたて投資枠のラインナップ拡充が優先されたこともあり、成長投資枠についてはこれから採用が本格化していくと期待しています。成長投資枠では良好なトラックレコードを持つアクティブファンドをご採用いただき、新NISAで投資を始めた投資家の皆様がアクティブ運用の活用も含めた本格的な資産形成へステップアップできるよう、推進活動をご一緒させていただきたいと考えています」(日興アセットマネジメント)
「販売会社のプロダクトラインアップに対してのメッセージ等は特にございません。成長投資枠では当社の強みでもある長期優良実績ファンドを中心に、つみたて投資枠では投資未経験者にも親しみやくシンプルな商品性で、業界最低水準の信託報酬を目指す『はじめてのNISA』シリーズ等を中心に、当社として提案・推進することで、販売会社のラインアップ構築を確りとサポートしたいと考えます」(野村アセットマネジメント)
「これまで新NISA対応ファンドとして、成長投資枠で約1800本、つみたて投資枠で約260本のファンドが届出されている。本数ベースでアクティブ・ファンドが占める割合は、成長投資枠で74%、つみたて投資枠で84%となっている。しかし、新NISAがスタートしてここまでの1か月を振り返ると、資金流入はパッシブ優勢の展開となっているようだ。徹底した企業調査に基づくアクティブ運用を強みとするフィデリティは、長期運用実績を持つ良質なアクティブ運用戦略の推進に注力している。フィデリティは、米国のDC市場やIRA市場においてトップシェアを持ち、また英国ISA市場においても様々なソリューションを提供してきた実績がある。フィデリティの『運用力』と、英米市場における長期資産形成ビジネスで培った『ソリューション力』を活かし、日本における新NISA市場の発展に貢献していきたい」(フィデリティ投信)
「・長期投資に資するアクティブファンドをぜひラインナップに加えていただきたい。
・三井住友DSアセットマネジメントでは、プロの目利き力を発揮できる株式ファンドをグローバル、米国、新興国、日本とバラエティに富んだ投資対象地域で取りそろえている。販売会社さま毎のラインナップをぜひ当社のアクティブファンドで強化いただきたい。
・下値抵抗力のある商品としては、バランスファンドと債券ファンド。特に分散の効いたバランスファンドは引き続き資産形成においてはコアになる。しかし、これまでコアファンドとして信頼があった低リスクバランスファンドではなく、長期投資には中リスク帯が望ましい。低リスク=債券多め&株少なめ だと大きな下落からのリバーサルを享受できず、再浮上が難しくなり、これまで受益者様のフォローも苦労されたのではないか。長期投資なら株式比率高めの中リスクが有効だと考えている」(三井住友DSアセットマネジメント)
「残高の多いファンドを中心に多くのファンドを並べる傾向にあるようだが、やや機械的な印象がある。長期で顧客の資産形成にコミットするために、販売金融機関として、売れ筋で選ぶのではなく、本当に良いと思っている運用商品を揃え、それを販売員がきちんと説明した上で提案できるようなスタイルが望ましいのではないか。
NISAがポートフォリオ提案を促進することを期待する。その場合、各資産クラスにインデックスファンド1本+アクティブファンド数本を並べる、というラインナップが理想的と考える。現在はパッシブファンドが主流だが、より強固なポートフォリオを構築したい場合はアクティブファンドが重要。ただし、ポートフォリオでアクティブファンドを組み入れる場合はマネージャー分散が望ましい。将来的に、資産分散、時間分散に加えてマネージャー分散という段階まで提案方法が進化することを期待する」(社名非開示)
「新NISA成長投資枠の商品では、外債カテゴリーの動向が気になります。外株カテゴリーと比較しても該当商品が少なく、毎月分配型の商品は対象外となることから、投資家に外債カテゴリーや外債カテゴリーの中でも(毎月ではない決算回数)分配型商品にニーズがあるのか?どの程度売れるのかに注目しております」(社名非開示)
「ラインナップは揃ってきている印象を持っている。限られた非課税枠であることから販売会社には提案力が求められる。NISA枠も分散投資していくことが基本であり、単一国の株式や特定のテーマ株式への偏重は避けなければならない」(社名非開示)
「これまで以上に質の高い商品を揃え、投資家自身の判断で納得した投資が行える環境を提供していくことが重要と考えます。市場指数に連動したインデックスファンド以外にも、洗練された運用哲学や運用プロセスにより優れたパフォーマンスを生み出しているアクティブ運用商品の品揃えも充実させる必要があると考えます」(社名非開示)
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さらに新NISA関連の今後の展望についても、各社からさまざまなフリーコメントが寄せられた。
「販売会社様からつみたて投資枠しか使えていないという声が届いております。新NISAは成長投資枠の活用やラインナップがキーになってくると考えております」(アセットマネジメントOne)
「新NISAは日本の個人投資家にとって大きな転機となると考えており、資産運用業界にとっても追い風になる。海外からも大変注目を集めており、2024年が今後の投信市場の転機となると考える。弊社としては、新NISAを好機とらえ、商品開発および投資家教育に注力をしていく」(HSBCアセットマネジメント)
「『貯蓄から投資へ』の流れを推進するため、今回のNISA制度の拡充は変革をもたらし得ると期待しています。大切なのは投資初心者が最初の一歩をスムーズに踏み出せるよう、業界全体でサポートを充実させることと考えます。運用会社として弊社では、2022年より初心者に訴求しやすいグローバル債券の持ち切り運用であるワンロード・シリーズを設定し、シリーズ合計で約1,663億円の募集となるなどニーズの高さを実感しています。この3月にはNISA成長投資枠で類似コンセプトのGSグローバル社債ターゲット追加型2024-03を設定するに至り、安定志向の投資家の選択肢の1つになることを期待しています。長期投資に向けた個人投資家の資産形成を後押しすることは、運用を担う我々の重要な使命の1つであり、資産運用ビジネス全体の持続的成長のためにも、商品や各種情報発信を通じ、皆さまに信頼いただけるパートナーであり続けたいと考えています」(ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント)
「弊社では、新NISAをより有効に活用するカギは、マーケットに居続けることだと考えています。そのためには特定の投資に偏りすぎることなく、バランスよく投資していくことも重要だと考えています。私ども運用会社は、幅広い商品の提供を通じて新NISAの発展に貢献するというのが第一義であり、近年人気の株式インデックスファンドのみならず、優良なトラックレコードを持つ株式アクティブファンドや市場金利の低下で魅力が増す債券ファンドなども積極的にご紹介していきたいと考えています。具体的には、設定から8年半が経ち優良な実績がつみあがってきている『グローバル・ロボティクス株式ファンド』は、テーマファンドとは異なる本格的なアクティブファンドの強みを発揮しております。また、長いデュレーションでこれからの投資環境でパフォーマンスが期待出来る『米国超長期プライム社債ファンド』も、幅広い投資家の債券の魅力をお届けできる商品と考えております」(日興アセットマネジメント)
「新NISAの今後の普及に伴い、投資家の方々が販売会社である金融機関に求めるサービスレベルもこれまでと異なるものになってくると想定しています。当社商品の取扱い会社は証券会社、銀行、郵政、ネット証券等多岐にわたっており、それぞれのチャネルおよび投資家属性(年齢、保有資産等)によっても求められるサポート内容は、これまで以上に多様化すると考えます。こうしたことを踏まえて、当社のサポートもそれぞれの販売チャネルのニーズを的確にとらえ、スピード感とクオリティを意識したものにしていきたいと思っています」(野村アセットマネジメント)
「新NISA市場の今後の展開を考える際、1989年にスタートした英国ISAの先行事例が参考になる。様々な制度変更を経て、英国ISA市場は約130兆円の市場へと発展した。日本のNISA市場規模が現在約30兆円であり、英国ISA市場の規模は一つの目安になるかもしれない。しかしその英国において近年「アドバイス・ギャップ」が問題となっている。富裕層にしか投資に関するアドバイスが行き届かないという問題だ。日本においても新NISAがきっかけで投資家の裾野が広がっているが、十分なアドバイスやガイダンスを受けられず、リスク許容度に見合わない投資や短期売買など、非合理的な投資行動をとってしまう投資家が出てくるかもしれない。経済環境や市場環境も大きく変化していく。良質なアクティブ・ファンドの提供のみならず、英米での先行事例はじめ、様々な投資啓蒙に関するコンテンツも発信していきたい」(フィデリティ投信)
「・三井住友DSアセットマネジメントはアクティブファンドで勝負する。インデックスを上回るパフォーマンスを上げる商品の提供が運用会社の使命だと考えてい
る。NISA制度が恒久化されて時間を味方につけた投資に追い風が吹くからこそ、じっくりとアクティブファンドの魅力を実感していただける商品を届けていく。
・日本が資産運用立国になれるか正念場だからこそ、アセットクラスを厳しく絞らずに長期的目線で真に投資家の資産形成を実現する商品を届けていきたい」(三井住友DSアセットマネジメント)
「現在のNISA商品の適用条件は厳しすぎると感じる。資産形成層に投資を促すという目的からリスクを取りすぎることはよくないが、デリバティブの使用にはヘッジ目的以外にも様々な目的があり、それらは必ずしもリスクを増幅させるものではないと考える。NISA制度の浸透とともに、適用条件を見直すことを期待したい」(社名非開示)
「新NISA制度で政府が掲げるキーワード「長期」「分散」「積立」が投資家に浸透し、これまでのように新ファンドが設定されれば、その商品に乗り換えていくという投資行動から、昔からある本当に実力のある商品が選ばれていくと考えています。長期で運用を継続している商品においては、長期のトラックレコードを保持することを強味の一つとして販売計画を練っていきたいと考えています」(社名非開示)
「新NISAが投資家の裾野を広げている。初めて投資をする方も多いことが予想され、運用会社はタイムリーな情報提供や丁寧なフォローアップが求められる」(社名非開示)
「新NISAは、預貯金に集中していた日本の金融資産が投資に向かう大きなきっかけとなっています。投資家の裾野を拡げるために、運用会社の果たす役割も大きくなり、これまで以上に投資家から信頼される存在となる必要があります。本来的な役割である運用力をより一層強化し、優れたパフォーマンスを継続できるアクティブ運用商品を提供することや、積立型商品等を適正なコストで提供し、長期投資が行いやすい環境作りをすることがこれまで以上に重要になると考えます。
PBR(株価収益率)が1倍を下回る企業に対して経営改善を求める動きなどがみられ、投資家がより株式市場にアクセスしやすくなる改革が進むと思われ、更なる新NISAの投資枠拡大にも期待したい」(社名非開示)
新NISAのスタートから約2カ月。富裕層や投資経験者、さらに投資未経験層まで、幅広い投資家層から関心を集め、資産運用立国の実現に向けて大きな一歩を踏み出した格好だ。足元、日本株の史上最高値更新など、好調なマーケットというプラス要因もあるが、今後、景気サイクルを乗り越えながら中長期で投資が広く国民に定着していくには課題も少なくない。販売を担う金融機関と運用を担うアセットマネジャーとの一層の密な対話が求められていると言えるだろう。
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●アンケート協力運用会社一覧
アセットマネジメントOne、HSBCアセットマネジメント、ゴールドマンサックス・アセット・マネジメント、JPモルガン・アセット・マネジメント、シュローダー・インベストメント・マネジメント、日興アセットマネジメント、ニッセイアセットマネジメント、野村アセットマネジメント、BNYメロン・インベストメント・マネジメント・ジャパン、ピクテ・ジャパン、フィデリティ投信、明治安田アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメント(社名五十音順)