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多様なチャネルを駆使して顧客ニーズをつかみ取る
見えてきた課題への取り組みがカギに
case of 三井住友フィナンシャルグループ

ついに始動! 新NISA リテールビジネスの次の時代をどう切り拓くか?

Ma-Do編集部
Ma-Do編集部
2024.03.05
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多様なチャネルを駆使して顧客ニーズをつかみ取る<br />見えてきた課題への取り組みがカギに<br />case of  三井住友フィナンシャルグループ

各社が繰り広げる新NISAの顧客獲得競争において、好調を見せる三井住友フィナンシャルグループ。同社がリテール領域で打ち続けてきた施策が、実を結んだ結果と言えるだろう。「Olive」の目覚ましい飛躍など、現状をどう捉え、今ごとのように展開するのか。キーパーソン2人に聞いた。
取材・文/金融ジャーナリスト浪川 攻

新NISAを見据えた多様な戦略が驚きの結果を生み出す

熱を帯びる新NISAの顧客獲得競争。そのなかで絶好調と言える好ダッシュぶりを見せているのが三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)だ。同グループはデジタルライゼーションも活用した多様なチャネル戦略、人材の育成、提携戦略等々、リテール領域で布石を打ち続けてきた。その効果が現出している。

ウェルスマネジメント統括部長を務める執行役員の加藤聡彦氏が明らかにしたのは、新NISAビジネスに関する驚くべき数字である。2024年1月時点で、口座開設ピッチは前年比4倍、買付額のピッチは同比5倍ーー。「良好な株式相場の状況が顧客層のセンチメントに与えた影響はあります」と言うが、手応えを十分に得たという話しぶりだ。

同グループには、三井住友銀行、SMBC日興証券という対面チャネルと並んで、三井住友銀行と三井住友カード両社で提供するデジタル口座「Olive」があり、Oliveはネット証券トップであるSBI証券とも仲介提携でつながっている。

NISAビジネスがネット証券のモデルに親和性が高いことはすでに立証済みだ。そこにデジタルチャネルのOliveが結びついている。このチャネルのパワーが絶大であることは想定できた。しかし、それにしても、新NISAが始まって間もない時点での爆発力はすさまじい。「Oliveを除く対面チャネルベースでも前年比3倍超のペース」と加藤氏は語る。

単にチャネルが多様化しているだけではない。顧客セグメントが念頭に置かれている。基本的な考え方として、富裕層は銀行・証券それぞれの対面チャネルという位置付けだ。資産形成層と言えるマス層、マスアフルエンス層は銀行でのOliveと連携した仲介、あるいはOliveを通じたSBI証券というルートで対応する。

ネットに精通した若い世代はOliveへと直接向かっていくが、顧客はさまざまだ。デジタルチャネルが良いという富裕層もいれば、マス層にもデジタルに抵抗感を抱く人もいる。そこで、デジタルに抵抗感がある人には軽量小型店舗(ストア)で提供しているデジタルサポートを通じてSBI証券を使ってもらえるように誘導するが、それでも「ネット証券は苦手」という人には銀行窓販で対応する。

要するに、顧客セグメントを設定していても、それはあくまでも基本的な枠組み。具体的な運営は顧客本位に基づき柔軟にやっている。

商品絞り込みの「対面チャネル」
若年層は「Olive」で囲い込みを

対面チャネルに関して特筆すべき点は商品ラインアップである。結論を急ぐと、提案ファンドを極力絞り込んだ。つみたて投資枠では4本、成長投資枠では中心的な商品として11本。提案ファンドを厳選する動きは他社に合っても、これほどの絞り込みはない。

「対面チャネルに相談に訪れる方の多くはNISA制度の説明から必要となります。それにかなりの時間を費やした挙句に、数多くのファンドからどれを選び出すのかというのは大変なストレスを生みます。結局、選定できずに専用口座を設けただけで終わるというケースは少なくありません。これを回避し、無事に資産運用を開始していただくことを考えました」。

確かに、数多いラインアップから1本のファンドを選び出すという作業がストレスを生むことは従来型NISAでも見られたし、米国でも401(k)プランで同様の事態が起きている。

そこで、同グループは米国株式、世界株式、国内株式、バランス型というカテゴリー別にファンドを精査、外部の評価機関によるデューデリジェンスも活用してファンドを絞り込んだ。もちろん、顧客がラインアップ以外のファンドを選定すればそれに応えるが、初心者の顧客に過度なストレスを負わせないという発想は、きわめて顧客フレンドリーである。

銀行、証券会社の対面チャネルでNISA口座を開設し資産運用を開始している大半の人たちは、従来、三井住友銀行に預金口座を有している。そのうち、「NISAで投信ではなく株式投資」という顧客に対しては、銀行はSMBC日興証券を紹介する。もちろん、投信であれば銀行窓口でも対応する。これによって、既存顧客との接点の拡大、いわゆるクロスセルによる深堀が進むことになる。

これに対して、デジタル・プラットフォームのOliveでは、20~40歳代の世代を中心として新規顧客が流れ込んでいる。それも大量流入である。三井住友カード運用ビジネス推進部の小林奈美江部長はこう説明する。

「例えば、三井住友カードが発行するクレジットカードで投資信託が買える投信積立サービス『三井住友カード つみたて投資』では、2024年2月に積立設定件数が100万件、積立設定額が400億円を突破いたしました」。

これはすでに2023年後半から予兆的に起きていた。Oliveを通じた運用事業の開始以来、NISA口座は増えていたが、新NISAの口座開設が始まるや、増加率は2倍超に跳ね上がっていた。その意味では、1月の状況は想定できたとはいえ、勢いの強さを改めて実感している。

こちらのチャネルの際立った特徴は顧客行動にある。「特に20歳代や30歳代の方は証券会社のホームページで情報を得るのではなくて、YouTubeやSNSから全ての投資情報を得て、投資を学んでいます」。

従って、対面チャネルのように、NISA制度を資産運用のイロハから説明する必要はなく、銘柄選定もすでに終わっていて、口座開設からファンド買付までのプロセスがストレートスルー的に進んでいく。

特徴はそれだけではない。Oliveモデルはポイントによる経済圏を形成している。資産運用もその例外ではない。ショッピング利用で得たポイントで投信を購入できるし、また、Oliveを介してSBI証券に口座を開けば、SBI証券でVポイントが得られる。極端な話をすれば、口座開設で得たポイントで投信を購入することもできるのである。

新NISAの開始で生じた変化のひとつには積立金額(毎月)の増かがあると言う。2023年までの従来制度ではつみたてNISAでの投資枠が年間40万円だったため、フル活用しても毎月の積立額は3万3333円が上限だった。しかし、新NISAのつみたて投資枠では年間120万円に拡大した。それを如実に反映して、カード決済による月間の積立金額が切り上がってきた。

ちなみに、120万円を12カ月で割れば1カ月当たり10万円が積立額の上限となる。ところが、実際には、カード各社はカード決済による積立、いわゆるクレカ積立の上限を毎月5万円としている。結果として、実際の積立額は切り上がったと言っても5万円までの動きにとどまっている。

これはなぜか。金融商品取引法がクレカ積立について、「同一人に対する信用供与が10万円を超えないようにすること」としているからだ。一時点における信用供与(カード決済)が10万円までという規定は、カードビジネス上では当月までの未決済分と当月分を合算した額が10万円を超えないという判断をせざるをえなくなる。従って、各社は5万円を上限として事業運営に落ち着いている。

ところが今、足元では金融庁ではこの規定の見直し作業に入っている。この規定の改正によって、早ければ春にも新NISA制度の枠組みである年間投資枠120万円を意識した月間10万円までカード決済が可能になる。その場合、Oliveチャネルの積立額が新たな上限に向かって、さらに切り上がることが予想できる。勢いは一段と増すわけである。

長期投資を促す情報提供に課題
重要なのは販社の持続的提案

このように口座数、引き落とし金額ともに高い伸びが期待できるチャネルなのだが、それだけに課題もある。小林氏はこう語る。

「顧客が単一ファンドで投資をしているケースが多い状況です。投資金額が大きくなるにつれて、より銘柄分散が必要になります。それをデジタルチャネルでいかに提供していくのか。また、マーケットに依拠しているため、株式相場が大きく下げた局面では保有銘柄に評価損失が生じかねません。その際、長期投資であり、狼狽売りはすべきではないというストッパー機能をいかに果たすのか。これをデジタルチャネルで提供していく手法をすでに検討し始めています」。

対面チャネルの運営にも課題はみえている。「資産運用の目的(ゴール)をあらかじめ設定し、それを顧客と我々が共有するゴールベースアプローチの徹底や、長期投資に適した残高フィーサービス(資産残高連動報酬)への移行などです。とにかく、新NISA制度をサステナブルなものにするように、我々、販売会社がきちんとした提案方法を持続しなければなりません」(加藤氏)。

SMBCグループの多角的なチャネル戦略は、コールセンター、ネット、店舗、IFA、銀行という多様なチャネルを有機的に結合させて構築した米国リテール証券の覇者、チャールズ・シュワブのモデルへと昇華する条件でもある。加藤氏、小林氏が語る課題の解決の道もそこに到達するルートのように思える。新NISAはやはり、モデル革命の起爆剤なのだ。

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