マーケットインの制度設計
古澤氏 たしかに必然的にというのはそうですね。これまでは、プロダクトアウトというのか、プロダクトが先にあって、それを顧客に販売する、販売代理ということだったと思うので、それに応じたルール作りだった面がある。しかし、幅広い担い手が様々な機能を有する金融商品を扱うようになってきて、シンプルにプロダクトを見てルールを考えていくだけではすまなくなったわけです。
保険商品といっても色々な機能を持っています。運用商品にも様々なリスクがあり、そもそもの運用の目的も様々です。例えば、日経225の株式の長期分散のETFを販売する場合と、レバレッジのかかったものを販売する場合、さらにデリバティブ的な要素も入った商品を販売する場合とでは、規制のあり方も大きく違ってくるわけですね。
だから、行政当局も、誰が販売しているかではなくて、どういう機能を果たしているかで見ていくということです。そうすると、従来のような銀行、証券、保険ということではなくなってくるし、そもそも販売の窓口自体が、例えば銀行の窓口でも銀行商品以外の別のものも販売しているということになっている。そういう場合における販売の規律を考える上では、まさに根幹にフィデューシャリーがあって、それに基づきお客さまのライフステージに合わせた商品提供なのかというところを見て、販売はどうあるべきか、ディスクロージャーはどうあるべきかなどを、考えていく。保険の商品の中に別の要素が含まれていれば、それに応じてアドオンしていく、そういうかたちになってくると思うのです。
プロダクトアウトからマーケットインということを後ほどお話していきますが、顧客本位という観点で同一機能に同一ルールでの対応をしていくにあたり、「顧客の最善の利益」を判断軸に物事を考えていくことになると思います。
最近の金融庁の法案でいうと、誠実対応義務のところにまで顧客の最善の利益という言葉がかかってきています。前回の連載で取り上げられた今般の改正法案の意味について、ここまで話をしてきて、あらためてそのように思いました。
【取材を終えて】金融構造とともに変化する起点 ~ あなたは、誰のために、仕事をしていますか?
これまでのような業態で規定された金融機関という会社がまずありきではなく、インベストメント・チェーンの中で様々な金融機能を様々な存在が担い手として、それぞれの顧客に応じた商品やサービスを考え提供していく。
下の図表は、10年近く前に、筆者が金融庁や金融機関との対話の中で作成したものである。
金融庁が毎年度の監督基本方針や検査基本方針を策定し、2015年から金融行政方針として一体化されていく中で、行政当局としての自らの存在を含めた金融業界のあり方を転換していく姿勢を問い始めた。
それまでは、ややもすれば、図表の左から、「①金融庁⇒②規制・監督⇒③金融機関⇒④顧客・社会」という順で、金融業界関係者としては考えがちであった。それを、金融庁自身が、真逆に「①顧客・社会⇒②金融機関⇒③規制・監督⇒④金融庁」と考えていこうと提起し始めた。
当時、筆者は、「顧客・社会のニーズを起点として、金融機関がそれをくみとり、望まれる商品・サービスを提供していく。それにあたり、規制・監督で間尺に合わないところがあれば、金融機関が金融庁に改善や改革を提起し、金融庁はそれに応える創意工夫をしていくということである。また、金融庁としても、受け身で待つということではなく、顧客へ直接ヒアリングをすることやアンケート調査等で、独自にダイレクトでコンタクトしていく行動を増やそうとしている」と、話していた。金融構造の転換と、FDを考える起点として、あらためてそれを思い出した。