――DXと一口に言ってもその範囲は多岐にわたり、抱えている課題もさまざまだと思いますが、どのように整理できるのでしょうか。
まずは、そもそもDXとは何かがポイントです。実はDXというのは人材改革であり、従来型の人材をデジタル人材に変えていく改革だと私は捉えています。では、そのデジタル人材とはどんな人なのか。そこが明確に定義されていない中で、言葉のみが先行してしまっているように感じています。
例えば当社の場合はSMACS、つまりSocial、Mobile、Analytics、Cloud、Securityという5つの領域の技術を駆使してビジネスやサービス、チャネル、顧客体験を変革していける人をデジタル人材と位置づけています。当然、技術自体を分かっていなければならないし、その技術を使えばこんなに業務を効率化できる、こんな商品やサービスを実現できるといった思考を持ち、実際に推進できる人材。そうした人材を育成することこそが、DXの本質だと言ってもいいでしょう。
DXの推進を妨げているのはIT人材の不足と組織の壁
――なるほど、DXイコール人材の問題なわけですね。
特に金融機関にとってはこのデジタル人材の育成が最大の課題になっています。現在の金融はデータそのものであり、テクノロジーによって成り立っている業界であると言っても過言ではありません。しかし、金融機関の中でシステム部門の立場は相対的に弱かったと思います。業務やビジネスを企画・検討するのは企画部門やユーザー部門で、そこで決まった内容やスケジュール、予算を受けてシステム部門が業務を実現するという「上流・下流」のような構造です。
しかし、先にお話しした通り、金融はデジタルそのものです。だからこそ、システム部門がテクノロジーを活用すればどんなことができるか、どのように既存の業務やサービスを変えられるか提案し、ユーザー部門がそこに顧客視点を持ち込むなど一体となることで、大きな変革を実現できると考えます。もともとアジャイルという考え方も、そこから生まれました。要は、「立場」「立ち位置」を変えられるかどうかということです。
実は、第三次オンラインシステムの1980年代はテクノロジーの最高峰が銀行であり、システムインテグレーター(SIer)やコンサルティング会社でも最高の人材が銀行の業務に従事していたと思います。しかし、今は必ずしもそうではなく、むしろ古い技術を使い続ける、なかなか変化しない組織だという印象すら持たれています。優秀な人材をいかに呼び寄せられるかが大きな課題になっているのです。
さらに、地域金融機関は基幹系システムなどの共有化を進めてきたため、自行のシステム部門が弱くなってしまっているという課題もあります。システムに関してはSIerに任せ、人材を営業や業務にシフトさせてきたため、DXと言われても、質・量・経験を含めて人材が足りない状況になっているように思います。
また、人材に加えて組織の壁もあります。DXのXはトランスフォーメーション、つまり変革を意味し、組織横断で行ってこその変革です。しかし、多くの銀行は組織単位で予算が組まれ、部門内の優先順位もある。組織横断で実現しなければならないDXは、構造的に難しい側面があるように見えます。
――そうした金融機関の多くの課題を貴社は解決されてきましたが、その強みはどこにあるのでしょう。
先ほどSMACSというお話をしましたが、この5つの領域についても実は必要とされるスキルはさらに30くらいに分かれ、その30に対して最低でもそれぞれ30人、できれば100人くらいいなければ、お客さまの取り組みを継続的に支援することはできません。つまり、最低でも約1000人、理想を言えば3000人くらいのデジタル人材がいなければ、スキルを研磨し続けられないのです。当然のことながら、最新の技術を常にキャッチアップしていかなければなりません。
その点、アクセンチュアには日本だけでも2万人近い人材がいて、常に新たな領域にも取り組んでいます。こうした豊富な人材こそが、当社の最大の強みと言えるでしょう。
――コンサルタントと言えば顧客のブレインというイメージもありますが、具体的にはどんな形でサポートするケースが多いのでしょうか。
私たちはお客さまに「伴走」します。一緒にビジネスプランも立てれば、要件定義やシステムの設計、構築、デザイン、その後の運用や業務支援、マーケティング支援まで行うケースもあります。お客さまと一体になり、一緒にリスクを取りながら実践していくというビジネスモデルです。
いわゆるコンサルティング会社が重要視するのが「アウトプット(報告書など)」であるのに対し、私たちは「アウトカム(成果)」を最も重視し、そこにコミットしています。成果が出るまで一緒にやりたい、そのためにはどうすればいいのか、常に悩み続けている集団なのです。