finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート

世界経済の不透明性が高まる今、長期的な視点が求められる――MFSインベストメント・マネジメントCEO テッド・マロニー氏に聞く

オルイン編集部
オルイン編集部
2025.08.04
会員限定
世界経済の不透明性が高まる今、長期的な視点が求められる――MFSインベストメント・マネジメントCEO テッド・マロニー氏に聞く

4月のトランプ関税導入騒ぎで株価が急落し、さらに足元では日本の長期金利が17年ぶりの高水準に上昇している。「ABUSA(米国以外ならどこでも)」という造語も登場するなか、世界のマーケットは今後、どうなっていくのか。米国に本社を置くグローバルな長期運用会社、MFSインベストメント・マネジメントCEOのテッド・マロニー氏に、話を聞いた。

 

MFSインベストメント・マネジメント
CEO
テッド・マロニー

長期的な視点でマーケットをみる重要性

――今年前半のマーケットを振り返り、印象的なことはありましたか。

マーケットのボラティリティがさまざまな方向で高まったという印象を強く受けています。昨年末から今年の年初にかけては、地政学リスクの高まりで株価は調整したものの、マクロを好感して2月にかけて反発しました。

しかし、その後はトランプ大統領が矢継ぎ早に打ち出した政策に対する懸念や、とりわけトランプ関税の影響により、株価は大きく下落しました。

このような株価急落を目の当たりにした時、多くの投資家は我先にとポジションを縮小し、損失が拡大するのをできるだけ抑えようとします。しかし長期投資家にとって、このようなマーケットの急落はむしろ歓迎すべき投資機会です。長期的視点に立てば、株式や債券が持つ本源的な価値が大きく変わるようなことはないので、マーケットが急落すれば、本源的な価値を安い価格で買えるチャンスにつながるからです。

もうひとつ、マーケットを見るうえで留意しておくべきは世界主要国のインフレ率の推移です。新型コロナウイルスの感染拡大を機に、世界主要国の中央銀行が実施した大幅な緩和政策により、インフレになりやすい環境が醸成されています。金融政策はマクロ経済に大きな影響を及ぼすので、今後、各国中央銀行がどのような金融政策をとってくるのかには注目するべきでしょう。

インフレに大きな影響を及ぼす労働コストにも注意が必要です。生産拠点の国内回帰を進めるなど米国で内向きな政策が続いているため、国境を越えた労働コストの裁定が働きにくくなっています。このことは、インフレの要因として働くと考えられます。

――マクロ経済をどのように見通せばよいのでしょうか。

経済統計はその性質によって、「ハードデータ」と「ソフトデータ」に分けることができます。

ハードデータはGDP成長率や物価指数、鉱工業指数など、経済活動の結果を集計したデータです。対して、ソフトデータは調査機関が行うアンケートの結果を用いて、景況感など経済活動の方向感を把握するデータです。

昨今の米国での動きを見ると、GDP成長率は堅調ですが、投資行動に関する調査結果は軟調です。つまり、ハードデータとソフトデータの間の乖離が広がっているのですが、これは早晩、収斂していくでしょう。それは、GDP成長率などハードデータが軟調になることで引き起こされるものとみています。

ただ、株式でも債券でもそうなのですが、実際に投資する際にはマクロデータの分析よりも、個別銘柄レベルでの分析、具体的に言えば、それぞれのバリュエーションをしっかり吟味することが大事です。というのもバリュエーションは往々にして本源的な価値を反映できていないことがあるので、それを分析したうえで、取るべきリスクか、取るべきではないリスクかを判断するべきだと考えています。

――今年後半から来年にかけてのマクロ環境の見通しを教えていただけますか。

われわれは長期投資家ですから、目先の短期的な見通しには囚われたくないと常に考えています。恐らく米国の成長率はやや鈍化し、インフレ率はやや高くなると見てはいますが、長期的視点を忘れず、有望な投資機会が存在しているマーケットにベットしていきます。

国によって投資機会が期待できるところ、期待できないところはありますが、ポートフォリオの観点としては、米国よりも他の国・地域にシフトさせていくことになるでしょう。現状、米国は多額の財政赤字を抱えていますし、ドルにとって逆風になりそうな課題をいくつも抱えているからです。

また、米国の株式市場は、「マグニフィセント7」に見られるように、少数の銘柄に対する集中度が異様なまでに高まっています。この傾向はいささか危険であり、米国株式への投資比率を、対ベンチマークで多少、引き下げる方向で見直す必要があると考えています。

米国株式に代わる新たな投資先

――投資資金をシフトさせるとしたら、どんな資産・地域が有望ですか。

世界を見渡せば、常に価値がある投資先は見つけられます。米国の成長率はやや低下しているものの、総悲観ではありません。堅牢なビジネスモデルを持ち、強固なサプライチェーンを構築し、インフレ下においても価値を保持できる企業は存在しており、それは有望な投資先になります。

環境変化によって、現在のクオリティカンパニーがその座から降ろされるケースがあるように、逆の現象もまた起こり得ます。つまりアンダーバリュー銘柄が買われるということです。国別で見れば、米国に対して欧州や日本はアンダーバリューであり、投資妙味が高まっていると言えるでしょう。

日本はコーポレートガバナンスが良くなっていますし、何よりもインフレが常態化してデフレ経済から脱却できました。また、欧州では防衛費増額により防衛関連産業への投資が活発化しそうです。これらの理由から、米国以外の国・地域の投資妙味が高いといえるでしょう。

――一方で、債券投資の魅力はどこにあるのでしょうか。

債券マーケットは国・地域に関わらず総じてクレジットスプレッドが縮小しています。これは投資上のリスクにつながりますが、この状況がいつまでも続くとは思っていません。過去数年、債券市場にはほとんどクレジットサイクルがありませんでしたが、今後はそれが生じて、クレジットスプレッドが拡大するでしょう。

ただ、それは一様に起こるのではなく、銘柄ごとに個別の動きをすると思われ、そこに投資機会があると考えています。

基本的に、債券市場においてはサブアセットクラスが多く、それらを個別に評価するのは極めて困難です。それだけに、債券運用はそれを専門に行っているプロに任せることが、リターンの改善につながると思います。

今はかなりクレジットスプレッドが縮小したマーケットですが、数年前にも同じような環境がありました。その時は全体ではデュレーションを中立にしたうえで、欧州ロング、米国ショートのポジションを取ることによって成果が得られました。

このポジションは今後スプレッドが変わっていくことを投資機会として捉えたものでしたが、同様にスプレッドがタイトになっている現在にも通用するのではないかと考えています。

――1924年に初のミューチュアルファンドが誕生した米国は、100年超の「投資信託」の歴史を有しています。新NISAのスタート以降、貯蓄から投資へのこれまでにない大きな変化に直面している日本の投資家が米国から学ぶべき点は何でしょうか。

米国の資産運用業界には長い歴史がありますが、それでもまだまだ米国も他の国に学ばなければならない点がたくさんあります。長期のタイムホライズンで投資する投資家である以上、大事なのは長期的視点を持つことです。

―――新NISAのスタート以降、全世界株式や米国株式のインデックスファンドがブームになっています。いわゆる「プレーンバニラ」の株式インデックス以外の資産・運用手法に分散を図る意義についてどのような意見をお持ちですか。

全世界株式にしてもS&P500にしても、今ほど分散されていない時期は無かったと思います。特定の銘柄への集中度が高まった結果、現在まで(※2025年7月10日取材)は高いパフォーマンスを実現してきました。

ただ、このようにあまりにも集中度が高まったインデックスに投資し続けることは、いかがなものでしょうか。過去半世紀あまりを振り返ると、同じように集中度が高まった時期が2回ありました。1970年代前半の「ニフティ・フィフティ相場」(ハイテク株など一部の成長企業“50銘柄”が市場を牽引した相場)と、2000年の「ITバブル」です。この2回とも特定の少数銘柄への買いが集中し、その後は株価が暴落しています。長期的に値上がりしてきたものに今から投資するのは危険であり、その意味でもさまざまな資産クラスに分散投資することの重要性が高まっています。

 

MFSインベストメント・マネジメント
CEO
テッド・マロニー

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1
前の記事
新刊『海外投資家はなぜ、日本に投資するのか』の著者に聞く、日本株のさらなる可能性
ワイズマン廣田綾子氏
2025.05.13

おすすめの記事

SBI証券で「NASDAQ」系急浮上、年初来で20%上昇ファンドも! ハイテク株はこのまま逃げ切れる!?

finasee Pro 編集部

【文月つむぎ】"フィーベース信仰"に一石? IFA団体が世に問う「顧客本位の新常識」とは

文月つむぎ

【みさき透】金融庁、FDレポートで外株の回転売買に警鐘 「2、3の事例はアウト」か

みさき透

【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉒
外国株式ファンドの資金流入減速とトレンド変化の兆し

藤原 延介

【プロが解説】私たちの生活を根本から変える⁉ “ポストスマートフォン”との呼び声高い、次世代ウェアラブル「ARグラス」のある未来とは

末山 仁

著者情報

オルイン編集部
おるいんへんしゅうぶ
「オルイン」は、企業や金融機関で業務として資産運用に携わるプロフェッショナル向けの専門誌です。株式・債券といった伝統資産はもちろん、ヘッジファンドやプライベートエクイティ、不動産といったオルタナティブもカバーする、国内随一の年金・機関投資家向け「運用情報誌」として2006年に創刊。以来、日本の年金基金や金融法人、公益法人といった機関投資家の運用プロフェッショナルに対し、その時々のタイムリーな話題を客観的かつ独自の視点でわかりやすくお伝えしています。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
【文月つむぎ】"フィーベース信仰"に一石? IFA団体が世に問う「顧客本位の新常識」とは
【みさき透】金融庁、FDレポートで外株の回転売買に警鐘 「2、3の事例はアウト」か
第12回運用資産に関わる常識を疑え!(その1)
銀行預金ではインフレに負けるから投資すべき?
「顧客意向」を盾に取る釈明に「喝」!?新FDレポートの見逃せない5つのポイント
SBI証券で「NASDAQ」系急浮上、年初来で20%上昇ファンドも! ハイテク株はこのまま逃げ切れる!?
世界経済の不透明性が高まる今、長期的な視点が求められる――MFSインベストメント・マネジメントCEO テッド・マロニー氏に聞く
日本における「ターゲット・デート・ファンド」の成長余地
佐々木城夛の「バタフライ・エフェクト」
第15回 住宅ローン金利の上昇はどのセクターにどんな効果を及ぼすか
浜銀TT証券の売れ筋トップは「ピクテ・ゴールド」、ランクダウンのインド株ファンドは?
【連載】こたえてください森脇さん
③マーケットに動きがない、アフターフォローとして何を聞くべき?
【みさき透】金融庁、FDレポートで外株の回転売買に警鐘 「2、3の事例はアウト」か
浜銀TT証券の売れ筋トップは「ピクテ・ゴールド」、ランクダウンのインド株ファンドは?
佐々木城夛の「バタフライ・エフェクト」
第15回 住宅ローン金利の上昇はどのセクターにどんな効果を及ぼすか
【連載】こたえてください森脇さん
③マーケットに動きがない、アフターフォローとして何を聞くべき?
新プログレスレポートにおける霞が関文学の「象徴主義化」とプリンシプルの「ステルス化」
第12回運用資産に関わる常識を疑え!(その1)
銀行預金ではインフレに負けるから投資すべき?
アセマネOneセミナーレポート
トランプショック後のマーケット環境見据え
有力視される分散投資と株式投資
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉒
外国株式ファンドの資金流入減速とトレンド変化の兆し
「顧客意向」を盾に取る釈明に「喝」!?新FDレポートの見逃せない5つのポイント
世界経済の不透明性が高まる今、長期的な視点が求められる――MFSインベストメント・マネジメントCEO テッド・マロニー氏に聞く
新プログレスレポートの気になるポイント3選……資産運用立国「ポンチ絵」はどう変わったか?
「支店長! 業績を上げるためにFP資格は必要ですか」
第12回運用資産に関わる常識を疑え!(その1)
銀行預金ではインフレに負けるから投資すべき?
「顧客意向」を盾に取る釈明に「喝」!?新FDレポートの見逃せない5つのポイント
松井証券の売れ筋にみる優れた世界厳選株式ファンドとは? ピクテと三菱UFJの「純金ファンド」の違いは?
広島銀行の売れ筋トップ10から「S&P500」が消える。人気を高めているファンドの特徴とは?
野村證券の売れ筋にみえる積極的なリスクテイク姿勢、売れ筋ランキングをかけ上がったファンドとは?
日本資産運用基盤の大原氏が思い描く「ETFホワイトレーベル」の先の未来とは?
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
③ 金融行政に本部が過剰反応?対面金融機関の役割とは
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
アフターフォローはなぜ定着しないのか
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら