統合作業全般の専門人材確保を求める
改正監督指針では、M&A支援に関する監督上の着眼点を明確化。事業者に対するコンサルティング機能の発揮に向け、(1)事業者のニーズを十分に踏まえながら、PMI(M&A後の事業統合作業)を含むM&A支援に積極的に取り組むこと、(2)そのための専門人材の育成・確保を含む健全かつ適切な業務運営体制の整備を図るよう求めています。
中小企業のM&Aを進めるうえでは、売り手側の企業の経営者保証がハードルになるケースが少なくありません。これを踏まえてさらに改正指針では、株主構成が大きく変わることを金融機関側が把握した場合に、どうすれば経営者保証の解除の可能性が高まるかなどを説明することも金融機関に求めます。改正指針は10月に正式適用されます。
全国の金融機関が音頭をとって各地域でM&Aを活発化し、日本経済全体として経済の効率性を高める――こうした筋書きを実現しようと、金融庁だけでなく政府全体として働きかけを加速させています。
監督指針改正に合わせ、金融庁や中小企業庁など関係省庁の連名で、「金融機関におけるM&A支援の促進等について」を公表しました。円滑な事業承継や企業の成長の手段としてM&Aの重要性が増すなか、金融事業者が「顧客企業に対するコンサルティング機能のさらなる強化の一環として、M&A後の事業統合作業を含めたM&A支援により積極的に取り組むことへの期待が高まっている」と指摘。そのうえで経営者保証に関連し、「既存の債務については経営者保証が残っている場合が多く、M&A・事業承継における支障となりうるとの声もある」と説明しました。株主の交代などで経営体制に大きな変更が生じる場合に、「既存の保証契約についても、保障継続の必要性について検討し、事業者に説明等を行うことが重要」との認識を示しています。
また、最終契約(株式譲渡契約等)締結にむけた交渉やリスク事項の説明等の支援を行うに当たり、M&A成立後のトラブルを回避する観点から、「中小M&Aガイドライン」も踏まえ適切に対応するよう促しています。同ガイドラインは、経済産業省と中小企業庁が作成。今月確定した改定版では、M&A市場の健全な拡大を目的として、仲介業者の手数料透明化などを盛り込んでいます。
脱-経営者保証依存の制度整備も進む
今年6月には事業性融資推進法が成立し、不動産など有形担保と別に、顧客基盤など事業全体の収益性を担保として融資を受けられる「企業価値担保権」制度が誕生しました。これにより、中小企業の資金調達の選択肢が拡大しました。金融庁は経営者保証に依存しない融資慣行の拡大を目指し、経営者保証の徴求基準見直しや既存契約の見直しなどを含め、地銀や系統金融機関から報告をベースにした事例集も公表しています。
金融庁幹部は「M&Aは『くっつけておしまい』ではなく、くっつけた後に会社と会社がしっかり統合するところを含めて金融機関が積極的にサポートしてほしいという期待がある」と説明。「M&A支援をする専門人材を各金融機関の中で育成するのが難しい場合には外部と連携することを含め、健全かつ適切な業務運営体制の整備を図っていただきたい」と呼びかけています。