アクティブ、オルタナティブ比率は段階的に引き上げへ
7月30日に開かれた「大学ファンド 大学基金運用フォーラム」(内閣府、文部科学省、国立研究開発法人科学技術振興機構《JST》主催)。JSTの運用担当幹部らが登壇し、出席した国立大学法人や大学基金の運用担当者らを前に、大学ファンドの基本理念や運用手法について解説しました。
大学ファンドの運用は、「参照ポートフォリオ」(レファレンスポートフォリオ)、「基本ポートフォリオ」、そして実際のポートフォリオという3段階で成り立っています。まず参照ポートフォリオは株式65%、債券35%で固定。そのうえで、この参照ポートフォリオとリスク量が同程度になるように「基本ポートフォリオ」を構築します。基本ポートフォリオは現時点で非公開ですが、JSTの喜田昌和代表理事は「私たちにとって北極星のような位置づけ」と説明します。実際のポートフォリオは、将来的に基本ポートフォリオと同一になるよう構築。現時点では自己資本が限定的なので基本ポートフォリオよりリスク量が低水準にとどまっているものの、今後、段階的にリスク量を引き上げていく方針といいます
大学ファンドは、アクティブ運用を積極的に活用する方向性を打ち出していますが、現時点でポートフォリオ全体に占めるアクティブ運用の比率は限定的です。喜田氏は「パッシブ運用が見当たらない社債を優先してアクティブ運用としているので、現時点でアクティブ運用は社債が中心となっている。グローバル株式については、株式のマネジャーはかなり多いので、私たちとして厳格に選ぶ必要があり、スタート時点ではまずはパッシブでスタートしている。ただ、グローバル株式についても今後、アクティブ比率を上げていく」と語りました。
状況に応じリスク早期引き上げも視野
また、オルタナティブ運用については「現時点で時価総額約3000億程度であり『投資してよし』というコミットメント(1.2兆円)の額に対して4分の1程度にとどまっている。PEなどにコミットするとマネジャーの投資期間がだいたい3~5年くらいになるので、標準進捗として1年で20%分ずつ積み上げていくとしても、コミットメントよりも残高が少ない状況はしばらく継続することになる。逆にいうと、オルタナティブの残高も今後数千億円ずつ増えていくことになるかと思う」と説明しました。リスク水準引き上げのスケジュール感については、「今年度は大統領選があるし利下げも期待されるということで、米国政権動向によって変動も出て来るだろうが、場合によってはリスクテイクを早めに取ることも考えながら着実に運用していく」と述べました。
リターン最大化とオルタナティブ投資
政府が7月に公表したアセットオーナープリンシプルの文案では、受益者等の最善利益を勘案した運用目標を設定するよう促しています。そのうえで、「ここでいう運用目標には、アセットオーナーによっては、目標リターンを定めた上でそれを最小のリスクで目指すという考え方だけでなく、許容できるリスク量の範囲内でリターンの最大化を目指すと いう考え方も含まれる」と注釈しています。
大学ファンドも、許容リスク量の範囲内でリターンの最大化を目指すという方向性を掲げています。JSTの資金運用本部副本部長・杉本直也氏は「リターンとリスクはトレードオフの関係にあり、同じリスクであればリターンが高い方が当然うれしい。同じリターンを目指すのであればより少ないリスクで達成したい。これは同時には達成できないが、大学ファンドは与えられたミッションとして、同じ許容リスクの範囲内でリターンを最大にしていくことを目標にしている。こんな都合のよいことができるのかと思われるかもしれないが、ここでポートフォリオの考え方を使う」と説明します。
そのうえで、「参照ポートフォリオのリスク量の範囲内で基本ポートフォリオに落とし込むうえでは、グローバル投資、パッシブ運用、オルタナティブ投資などにどのようなメリットがあるか、どんな知見やどんな運用体制が必要かについて考える必要がある」と指摘。「パッシブ投資は理論上はよい投資だが、市場が効率的であることが大前提となっている。全ての投資家が同一の目的で売買が自由にできて、市場が価格を決定できるのであればパッシブ運用に有効な状況ではあるが、債券市場などにはやはり非効率性が存在する。非効率的な市場から収益を獲得することはアクティブ運用なら可能だが、その選定や理解、評価、運用開始後のモニタリングの体制が必要不可欠だ」と述べました。
PEなどの非上場株式、不動産やインフラを含むオルタナティブについて杉本氏は、「個別性の強さを背景とした収益源泉を取り込むことができるが、オルタナティブは情報収集が難しいうえ、投資開始の意思決定から資金投入、残高積み上げまでのタイムラグなどコントロールが難しいところがある」と話し、管理体制の十分な整備が必要と説明しました。