finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート

全国のアセットオーナーの「お手本」に? 大学ファンドの運用担当幹部が手法と展望を明かす

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2024.08.21
会員限定
全国のアセットオーナーの「お手本」に? 大学ファンドの運用担当幹部が手法と展望を明かす

アセットオーナープリンシプルの正式策定が近づき、大学基金や企業年金にとって運用高度化に向けたプレッシャーが高まる中、政府が全国のアセットオーナーの「お手本」としてPRしているのが、大学に資金支援を行うための財源として国が10兆円規模で運営する「大学ファンド」です。7月に都内で開かれたフォーラムでは大学ファンドの運用担当幹部らが登壇し、ポートフォリオ構築の基本的な考え方や、オルタナティブ運用を含むアクティブ運用の比率を引き上げる方針について詳細に語りました。

アクティブ、オルタナティブ比率は段階的に引き上げへ

7月30日に開かれた「大学ファンド 大学基金運用フォーラム」(内閣府、文部科学省、国立研究開発法人科学技術振興機構《JST》主催)。JSTの運用担当幹部らが登壇し、出席した国立大学法人や大学基金の運用担当者らを前に、大学ファンドの基本理念や運用手法について解説しました。

大学ファンドの運用は、「参照ポートフォリオ」(レファレンスポートフォリオ)、「基本ポートフォリオ」、そして実際のポートフォリオという3段階で成り立っています。まず参照ポートフォリオは株式65%、債券35%で固定。そのうえで、この参照ポートフォリオとリスク量が同程度になるように「基本ポートフォリオ」を構築します。基本ポートフォリオは現時点で非公開ですが、JSTの喜田昌和代表理事は「私たちにとって北極星のような位置づけ」と説明します。実際のポートフォリオは、将来的に基本ポートフォリオと同一になるよう構築。現時点では自己資本が限定的なので基本ポートフォリオよりリスク量が低水準にとどまっているものの、今後、段階的にリスク量を引き上げていく方針といいます

大学ファンドは、アクティブ運用を積極的に活用する方向性を打ち出していますが、現時点でポートフォリオ全体に占めるアクティブ運用の比率は限定的です。喜田氏は「パッシブ運用が見当たらない社債を優先してアクティブ運用としているので、現時点でアクティブ運用は社債が中心となっている。グローバル株式については、株式のマネジャーはかなり多いので、私たちとして厳格に選ぶ必要があり、スタート時点ではまずはパッシブでスタートしている。ただ、グローバル株式についても今後、アクティブ比率を上げていく」と語りました。

状況に応じリスク早期引き上げも視野

また、オルタナティブ運用については「現時点で時価総額約3000億程度であり『投資してよし』というコミットメント(1.2兆円)の額に対して4分の1程度にとどまっている。PEなどにコミットするとマネジャーの投資期間がだいたい3~5年くらいになるので、標準進捗として1年で20%分ずつ積み上げていくとしても、コミットメントよりも残高が少ない状況はしばらく継続することになる。逆にいうと、オルタナティブの残高も今後数千億円ずつ増えていくことになるかと思う」と説明しました。リスク水準引き上げのスケジュール感については、「今年度は大統領選があるし利下げも期待されるということで、米国政権動向によって変動も出て来るだろうが、場合によってはリスクテイクを早めに取ることも考えながら着実に運用していく」と述べました。

リターン最大化とオルタナティブ投資

政府が7月に公表したアセットオーナープリンシプルの文案では、受益者等の最善利益を勘案した運用目標を設定するよう促しています。そのうえで、「ここでいう運用目標には、アセットオーナーによっては、目標リターンを定めた上でそれを最小のリスクで目指すという考え方だけでなく、許容できるリスク量の範囲内でリターンの最大化を目指すと いう考え方も含まれる」と注釈しています。

大学ファンドも、許容リスク量の範囲内でリターンの最大化を目指すという方向性を掲げています。JSTの資金運用本部副本部長・杉本直也氏は「リターンとリスクはトレードオフの関係にあり、同じリスクであればリターンが高い方が当然うれしい。同じリターンを目指すのであればより少ないリスクで達成したい。これは同時には達成できないが、大学ファンドは与えられたミッションとして、同じ許容リスクの範囲内でリターンを最大にしていくことを目標にしている。こんな都合のよいことができるのかと思われるかもしれないが、ここでポートフォリオの考え方を使う」と説明します。

そのうえで、「参照ポートフォリオのリスク量の範囲内で基本ポートフォリオに落とし込むうえでは、グローバル投資、パッシブ運用、オルタナティブ投資などにどのようなメリットがあるか、どんな知見やどんな運用体制が必要かについて考える必要がある」と指摘。「パッシブ投資は理論上はよい投資だが、市場が効率的であることが大前提となっている。全ての投資家が同一の目的で売買が自由にできて、市場が価格を決定できるのであればパッシブ運用に有効な状況ではあるが、債券市場などにはやはり非効率性が存在する。非効率的な市場から収益を獲得することはアクティブ運用なら可能だが、その選定や理解、評価、運用開始後のモニタリングの体制が必要不可欠だ」と述べました。

PEなどの非上場株式、不動産やインフラを含むオルタナティブについて杉本氏は、「個別性の強さを背景とした収益源泉を取り込むことができるが、オルタナティブは情報収集が難しいうえ、投資開始の意思決定から資金投入、残高積み上げまでのタイムラグなどコントロールが難しいところがある」と話し、管理体制の十分な整備が必要と説明しました。

 

アクティブ、オルタナティブ比率は段階的に引き上げへ

7月30日に開かれた「大学ファンド 大学基金運用フォーラム」(内閣府、文部科学省、国立研究開発法人科学技術振興機構《JST》主催)。JSTの運用担当幹部らが登壇し、出席した国立大学法人や大学基金の運用担当者らを前に、大学ファンドの基本理念や運用手法について解説しました。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #金融庁

おすすめの記事

SBI証券で「ゴールドファンド」を上回る運用成績の株式ファンドがランクイン、高分配の「WCM」もランクアップ

finasee Pro 編集部

資産運用ビジネスの本気度が問われる時代へ、変わる監督行政と業界
7月に発足した金融庁「資産運用課」の課題は  永山玲奈課長に聞く

finasee Pro 編集部

【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉔
過去最大となった個人マネーで広がる物価高対策

藤原 延介

【プロが解説】自然界から調達可能な次世代エネルギー技術「核融合発電」と、リサイクル技術に見る”ビジネスチャンス”とは

古川 輝之

運用成績で目を引く「宇宙」と「モノポリー」、ワイエム証券の売れ筋国内株ファンドでは「好配当株」が浮上

finasee Pro 編集部

著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
SBI証券で「ゴールドファンド」を上回る運用成績の株式ファンドがランクイン、高分配の「WCM」もランクアップ
資産運用ビジネスの本気度が問われる時代へ、変わる監督行政と業界
7月に発足した金融庁「資産運用課」の課題は  永山玲奈課長に聞く
「満期保有宣言を行えば減損回避可能」という謎のロジック
日証協会長が財政規律のバランスに言及。業界が次期政権に求めるものはやっぱり…?
「支店長!融資が第一とおっしゃいますが、投信販売は重要ではないのでしょうか。担当する私たちの仕事が軽視されているように感じます」
佐々木城夛の「バタフライ・エフェクト」
第16回 米価高騰の実態は? 飲食・製造・不動産…多セクターに広がる負担
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉔
過去最大となった個人マネーで広がる物価高対策
ファンドモニタリングは、どの指標を参照すればいいか
(2)アクティブファンドのモニタリング① シャープレシオについて考える
⑨自社株評価の考え方②(税法)【動画つき】
運用成績で目を引く「宇宙」と「モノポリー」、ワイエム証券の売れ筋国内株ファンドでは「好配当株」が浮上
資産運用ビジネスの本気度が問われる時代へ、変わる監督行政と業界
7月に発足した金融庁「資産運用課」の課題は  永山玲奈課長に聞く
SBI証券で「ゴールドファンド」を上回る運用成績の株式ファンドがランクイン、高分配の「WCM」もランクアップ
八十二銀行で「セゾン・グローバルバランス」が4カ月連続トップ、ランクを落とした「好配当株投信」の行方は?
「支店長!融資が第一とおっしゃいますが、投信販売は重要ではないのでしょうか。担当する私たちの仕事が軽視されているように感じます」
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉔
過去最大となった個人マネーで広がる物価高対策
日証協会長が財政規律のバランスに言及。業界が次期政権に求めるものはやっぱり…?
第14回 運用資産に関わる常識を疑え!(その3)
債券は本当に低リスク資産?
ファンドモニタリングは、どの指標を参照すればいいか
(2)アクティブファンドのモニタリング① シャープレシオについて考える
佐々木城夛の「バタフライ・エフェクト」
第16回 米価高騰の実態は? 飲食・製造・不動産…多セクターに広がる負担
唐突感ある「地域金融力」の論点化、金融庁の狙いの"ウラのウラ"を探る【オフ座談会vol.8:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
金融庁「地域金融力」強調の狙いは地銀再編の再ブーストか?金融審WG初会合の注目点
「支店長!融資が第一とおっしゃいますが、投信販売は重要ではないのでしょうか。担当する私たちの仕事が軽視されているように感じます」
佐々木城夛の「バタフライ・エフェクト」
第16回 米価高騰の実態は? 飲食・製造・不動産…多セクターに広がる負担
「ゴールベース資産管理」の実践を通じストックビジネスへの転換を加速させていく case of 足利銀行
資産運用ビジネスの本気度が問われる時代へ、変わる監督行政と業界
7月に発足した金融庁「資産運用課」の課題は  永山玲奈課長に聞く
地域金融機関44行が参加 バランスシート経営の強化へ向けたコンソーシアムが始動
暗号資産の"金商法適用"が既定路線に!有識者からは「正気の沙汰か」「ギャンブルだ」と批判も…金融審WG第2回会合で何が起きたのか
【文月つむぎ】NISA拡充策の議論が本格化、押さえておきたい3つのポイント
大和証券の売れ筋に見える投資家の力量、パフォーマンスが低迷してもトップ10をキープできるファンドとは? 
第13回 運用資産に関わる常識を疑え!(その2)
高金利通貨での運用は有利?
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら