攻めた目標、「抽象論」で達成できるか
J-FLECは3月の改正金融サービス提供法に基づき、国民の金融リテラシーを向上するための教育、啓発活動に取り組む組織として4月、中央区日本橋室町のコレド室町内を拠点に発足しました。
個別相談(「J-FLECはじめてのマネープラン」)の割引クーポン配布事業では、有料個別相談を初めて利用する人を対象に、相談料が80%オフ(最大8000円割引)になる電子クーポン3時間分を配布します。8月の本格始動後に準備作業を加速し、今年秋から取得申請を受け付け、当初は3000人分を配布して追加も検討する見通しです。
この個別相談サービスを提供することになるのが、ファイナンシャルプランナーなどの有資格者を対象にJ-FLECが認定する「認定アドバイザー」たちです。利用者からみた安心感を確保するため、認定にあたっては販売会社から報酬を得ないことなど、厳しい条件を設けています。
J-FLECは初年度のKPI目標として、講師派遣の年間実施1万回、年間参加人数75万人を目標に掲げています。安藤聡理事長は4月の就任記者会見で「相当アグレッシブな目標と認識している。新しい組織なので、できそうな目標を掲げるのはよくない。初年度をやってみて、目標が妥当かを検証し、年々この目標を引き上げていければ」と意欲を話しました。
初年度から目標を達成するためには、単に人材確保だけでなく、いかに利用者に満足感を与え、口コミによって広がることが重要です。
そこで問題となるのが、具体的な商品への言及に関する制約です。J-FLECに認定されたアドバイザーであっても、投資助言業などの登録を受けていなければ、具体的な商品に言及して報酬を受け取ると金商法に抵触する可能性があります。
J-FLECの制度整備に向けた金融審議会内での議論の過程では、当初、投資助言業に特別枠を設けて参入要件を緩和し、認定アドバイザー制度と組み合わせることで、個別相談の際にNISA対象商品などに限り具体的な商品名に言及できるよう、制度改正する案が浮上していました。2022年11月下旬に政府が開いた新しい資本主義実現会議「資産所得倍増分科会」で鈴木俊一大臣が提出した資料では、認定アドバイザー(当時の呼称は「中立アドバイザー」)を投資助言業者の新枠に取り込む考えが明確に示されています。
しかし、金商法改正のハードルは高く、この案は立ち消えになりました。今年8月以降、J-FLECの認定アドバイザーが相談事業を行う際にも、投資助言業などの資格をもたないアドバイザーは資産運用の具体論には踏み込むことができません。
もちろん、投資初心者にドルコスト平均法など金融の基礎的知識を伝授する際には、必ずしも個々の具体的な商品を紹介する必要はないかもしれませんが、抽象論に終始するアドバイスで利用者に満足感を与え、周囲の人に個別相談を勧める好循環を生み出すことは簡単ではないでしょう。
カギを握る「万一の不正」対策と対応
また、J-FLECによる認定アドバイザーの信頼性を持続的に確保し、ブランド化させていくためには、アドバイザーによる不適切行為の予防と、万が一それが生じたときの対応が鍵を握ります。認定アドバイザーの不適切行為としては(1)禁止されている個別商品銘柄への言及、(2)認定アドバイザーの肩書を不適切に利用した無関係のビジネス展開、(3)肩書を悪用した不公正取引――などが考えられます。
行動規範の抵触が認められる場合には、J-FLECが認定を取り消すなどし、適切な対応を取っているかについて金融庁がモニタリングを実施することになります。(1)(2)のような事例については利用者によるSNSでの情報発信で発覚する可能性もありそうです。また(3)については、折しも7月には現行金商法で禁止されている不公正取引の一種である「風説の流布」で初めての摘発事例が発生し、アドバイザーの銘柄言及にいっそう厳しい目が向けられることが予想されます。
「小さな不正」のまん延を野放しにして、のちのち認定アドバイザーの評判(レピュテーション)に深刻な影響を生じさせることのないよう、J-FLECには初動段階から、認定アドバイザーの慎重な管理態勢を敷くことが求められそうです。