finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート

人材不足だけじゃない!金融経済教育推進機構、8月の本格始動を前に「レピュテーション」の懸念

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2024.07.31
会員限定
人材不足だけじゃない!金融経済教育推進機構、8月の本格始動を前に「レピュテーション」の懸念

8月、金融経済教育推進機構(J-FLEC)が本格始動します。2022年に岸田政権が策定した「資産所得倍増プラン」で、NISA拡充と対をなす位置づけで打ち出された目玉施策として、官民で準備が進められてきました。実働部隊となる認定アドバイザーに厳しい要件が課せられたこともあって人材不足の問題が注目をあつめていますが、金融リテラシー向上策としての実効性を担保するには、他にもいくつか課題がありそうです。

攻めた目標、「抽象論」で達成できるか

J-FLECは3月の改正金融サービス提供法に基づき、国民の金融リテラシーを向上するための教育、啓発活動に取り組む組織として4月、中央区日本橋室町のコレド室町内を拠点に発足しました。

個別相談(「J-FLECはじめてのマネープラン」)の割引クーポン配布事業では、有料個別相談を初めて利用する人を対象に、相談料が80%オフ(最大8000円割引)になる電子クーポン3時間分を配布します。8月の本格始動後に準備作業を加速し、今年秋から取得申請を受け付け、当初は3000人分を配布して追加も検討する見通しです。

この個別相談サービスを提供することになるのが、ファイナンシャルプランナーなどの有資格者を対象にJ-FLECが認定する「認定アドバイザー」たちです。利用者からみた安心感を確保するため、認定にあたっては販売会社から報酬を得ないことなど、厳しい条件を設けています。

J-FLECは初年度のKPI目標として、講師派遣の年間実施1万回、年間参加人数75万人を目標に掲げています。安藤聡理事長は4月の就任記者会見で「相当アグレッシブな目標と認識している。新しい組織なので、できそうな目標を掲げるのはよくない。初年度をやってみて、目標が妥当かを検証し、年々この目標を引き上げていければ」と意欲を話しました。

初年度から目標を達成するためには、単に人材確保だけでなく、いかに利用者に満足感を与え、口コミによって広がることが重要です。

そこで問題となるのが、具体的な商品への言及に関する制約です。J-FLECに認定されたアドバイザーであっても、投資助言業などの登録を受けていなければ、具体的な商品に言及して報酬を受け取ると金商法に抵触する可能性があります。

J-FLECの制度整備に向けた金融審議会内での議論の過程では、当初、投資助言業に特別枠を設けて参入要件を緩和し、認定アドバイザー制度と組み合わせることで、個別相談の際にNISA対象商品などに限り具体的な商品名に言及できるよう、制度改正する案が浮上していました。2022年11月下旬に政府が開いた新しい資本主義実現会議「資産所得倍増分科会」で鈴木俊一大臣が提出した資料では、認定アドバイザー(当時の呼称は「中立アドバイザー」)を投資助言業者の新枠に取り込む考えが明確に示されています。

しかし、金商法改正のハードルは高く、この案は立ち消えになりました。今年8月以降、J-FLECの認定アドバイザーが相談事業を行う際にも、投資助言業などの資格をもたないアドバイザーは資産運用の具体論には踏み込むことができません。

もちろん、投資初心者にドルコスト平均法など金融の基礎的知識を伝授する際には、必ずしも個々の具体的な商品を紹介する必要はないかもしれませんが、抽象論に終始するアドバイスで利用者に満足感を与え、周囲の人に個別相談を勧める好循環を生み出すことは簡単ではないでしょう。

カギを握る「万一の不正」対策と対応

また、J-FLECによる認定アドバイザーの信頼性を持続的に確保し、ブランド化させていくためには、アドバイザーによる不適切行為の予防と、万が一それが生じたときの対応が鍵を握ります。認定アドバイザーの不適切行為としては(1)禁止されている個別商品銘柄への言及、(2)認定アドバイザーの肩書を不適切に利用した無関係のビジネス展開、(3)肩書を悪用した不公正取引――などが考えられます。

行動規範の抵触が認められる場合には、J-FLECが認定を取り消すなどし、適切な対応を取っているかについて金融庁がモニタリングを実施することになります。(1)(2)のような事例については利用者によるSNSでの情報発信で発覚する可能性もありそうです。また(3)については、折しも7月には現行金商法で禁止されている不公正取引の一種である「風説の流布」で初めての摘発事例が発生し、アドバイザーの銘柄言及にいっそう厳しい目が向けられることが予想されます。

「小さな不正」のまん延を野放しにして、のちのち認定アドバイザーの評判(レピュテーション)に深刻な影響を生じさせることのないよう、J-FLECには初動段階から、認定アドバイザーの慎重な管理態勢を敷くことが求められそうです。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #金融庁
  • #金融リテラシー

おすすめの記事

楽天証券の売れ筋で「オルカン」がトップに。米国市場への警戒感を背景に「世界のベスト」もランクイン

finasee Pro 編集部

企業型確定拠出年金の制度運営に中小企業ならではの距離感を活かす―新宮運送が構築した“一人ひとりに寄り添う”サポートの形

finasee Pro 編集部

経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行

Ma-Do編集部

【文月つむぎ】運用立国議連の新「緊急提言」を読み解く!NISA、税制の見直しで対応が求められる3つのポイント

文月つむぎ

SBI証券で再び米国大型テック株への関心高まる、新設「メガ10インデックス」もランクイン

finasee Pro 編集部

著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
J. フロント リテイリングに聞く企業型確定拠出年金制度運営の秘訣―継続投資教育の参加率が驚異の80%超えの理由とは?
企業型確定拠出年金の制度運営に中小企業ならではの距離感を活かす―新宮運送が構築した“一人ひとりに寄り添う”サポートの形
楽天証券の売れ筋で「オルカン」がトップに。米国市場への警戒感を背景に「世界のベスト」もランクイン
【運用会社ランキングVol.2/販売会社一般編①】銀行・証券会社からの評価トップは2年連続でアモーヴァ・アセットマネジメント、新NISA2年目で変転期の投信市場が求める運用会社は?
第16回 資産運用にまつわるさまざまな常識を疑え!【総集編】
「資産運用において疑うべき常識」を振り返る
SBI証券で再び米国大型テック株への関心高まる、新設「メガ10インデックス」もランクイン
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
J. フロント リテイリングに聞く企業型確定拠出年金制度運営の秘訣―継続投資教育の参加率が驚異の80%超えの理由とは?
第16回 資産運用にまつわるさまざまな常識を疑え!【総集編】
「資産運用において疑うべき常識」を振り返る
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉖
~米国投資信託最新事情
ミューチュアルファンド初の30兆ドル突破も、米国株ファンドから過去最大の資金流出
「支店長! お客さまへ良い提案をするためのコンサルティング能力はどうやって向上させればいいですか。何に関心を持つべきでしょう」
【運用会社ランキングVol.3/販売会社一般編②】販社からの評価を高める「野村」の底力と「フィデリティ」の運用力、2年連続で総合トップの「アモーヴァ」は安泰か
【運用会社ランキングVol.1】販売会社が運用会社に求めるものは、運用力か人的支援か? 2025年の評価を発表!
毎月分配型解禁見送りと運用立国の「親離れ」――地銀は新強化プラン+口座付番義務化で”地域金融出先機関”に?
【オフ座談会vol.10:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
【新連載】プロダクトガバナンス実践ガイド~製販情報連携の背景と事例
①プロダクトガバナンスが注目される背景と製販情報連携の重要性
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
【連載】こたえてください森脇さん
⑪預かり資産業務に対するマネジメント層の理解が低い
【運用会社ランキングVol.1】販売会社が運用会社に求めるものは、運用力か人的支援か? 2025年の評価を発表!
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【みさき透】高市内閣で「運用立国」から「投資立国」へのシフトが加速へ
【連載】こたえてください森脇さん
⑫元本保証でない商品の販売を嫌がる職員への働きかけ
長野市vs松本市"不仲説"を乗り越え統合の八十二銀・長野銀が、「もう取引しない」と立腹の取引先と雪解けに至るまで
【文月つむぎ】証券口座乗っ取り被害ゼロへ 金融庁の新監督指針を読み解く
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら