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【特別企画】元財務事務次官・公正取引委員会委員長、杉本和行氏インタビュー(後編)
「情報本位制」のデジタル時代は金融機関にも商機あり
イノベーションに向けたリスクテイクを

finasee Pro 編集部
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2024.07.24
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【特別企画】元財務事務次官・公正取引委員会委員長、杉本和行氏インタビュー(後編)<br />「情報本位制」のデジタル時代は金融機関にも商機あり<br />イノベーションに向けたリスクテイクを

なぜ日本企業は「失われた30年」の中で競争力を失い、国際競争力を失っていったのか。そして、今、巨大プラットフォーマーが覇権を握る「デジタル時代」にあって、日本企業はどのような戦略を持って成長を目指していけばよいのか。財務事務次官、公正取引委員会委員長を歴任、官僚トップとして日本の「失われた30年」を見続けた杉本和行氏が語る。

――「失われた30年」の間で、世界経済の絵模様は激変しました。日本企業にはどのような戦略が必要でしょうか。

今、経済はデジタル化の奔流の中にあります。今後のイノベーションは「AI」「IoT」「ビッグデータ」「Web3.0」といった分野が中心になっていくはずです。現代は情報が非常に重要な価値を持つ〝情報本位制〟とでも呼べる時代で、いかにして情報を活用してイノベーションを起こしていくかが、企業経営の重大な戦略要素となります。

「GAFAM」に代表される巨大デジタルプラットフォーマーは、消費者に対して多大な便益を与えてきましたが、その結果、極めて大きな市場支配力を持ち、独占・寡占になっています。そして、IT分野にとどまらず、金融、医療・健康産業といった多様な分野にも進出しています。

私が憂慮しているのは、日本企業が内向きになり、リスクテイキングに及び腰になっている間に、日本全体が〝下請産業化〟するのではないかということでした。下請産業化してしまうと、中国や韓国の追い上げで、日本経済はますます苦境に陥る可能性が高くなります。そうした意味でも、デジタルプラットフォーマー対策は重要です。

――具体的には、どんな対策が考えられるのでしょうか。

前述したように、日本企業の課題は、経済成長の源泉である供給サイドが、イノベーションを進めて行くことです。そして、情報処理データの飛躍的な増大に加え、Chat GPTに代表される生成AIの実用化という画期的な技術革新の下で、ビジネスチャンスは飛躍的に拡大する環境にあります。こうした状況は、巨大デジタルプラットフォーマーによってもたらされたものですが、この膨大な情報空間を活用しながら、GAFAMを乗り越える次の産業秩序を作り上げることを目指して欲しいと思います。

ハードおよびソフトの両面で社会の課題解決を図れる領域は多くあり、日本企業にも十分チャンスはあります。例えば、AIを活用しながら、中核となる事業とこれに関連するサービスを総合的、一体的に提供するプラットフォームを作り、その基盤の上に事業を展開する、といったことです。日立製作所が重電分野で作り上げたプラットフォーム「ルマーダ」は、その先駆的な例と言えるかもしれません。

情報を武器に金融機関は多彩な事業領域に挑戦を

――金融機関も他の産業と同様、これまでは競争原理が働きにくい環境にありました。デジタル時代において、どういった役割を担うことができるのでしょうか。

私は、金融サービスの根底は、「情報のやりとり」だと考えています。したがって、昨今の情報テクノロジーの飛躍的発展やこれまでの膨大なデータの蓄積は、金融サービスのイノベーションに向けて、絶好の環境を提供していると捉えています。情報化時代の社会、経済におけるユーザーのニーズに思いをはせて、金融サービスのイノベーションに努める経営姿勢が欠かせないでしょう。

そして、行政に必要なことは、情報社会における競争環境の確保であり、イノベーションの環境を整えていくことが優先されるべきです。その意味で、今年6月に国会で可決・成立した「スマホソフトウェア競争促進法」は評価できるものです。

――情報がモノを言うデジタル時代では、金融機関の強みを生かせる余地が大いにある、ということでしょうか。

そう考えていいでしょう。融資をコアにしながら、決済などスマホで拡大したインターフェースをつなぎ、ビックデータを取り込むことで、潜在的な需要を掘り起こすことができるはずです。近年、エクイティ性の資金に対するニーズが強まっている傾向が見受けられ、そうした資金を供給できるのは金融機関しかありません。

また、M&Aや事業承継対応、人材マッチング、経営コンサルティング、資産運用など、不動産仲介以外、金融機関はさまざまな事業領域を手がけることができます。ビックデータを集積しやすく、それをイノベーションに生かせれば、金融機関がプラットフォーマーになることも十分可能でしょう。三井住友銀行が提供している「Olive」が、個人ユーザーから人気を博していますが、これこそがデジタル時代の金融ビジネスの新たな姿の一例だと理解しています。

――日銀の金融政策の正常化も、金融機関にとっては追い風になりそうです。

コロナ禍を受けたサプライチェーンの混乱と再構築、ウクライナ戦争の影響による資源や食料価格の高騰、さらには、円安も加わり、日本経済はデフレ的状況からの脱却が急速に進んでいます。2023年度の消費者物価指数は前年比2%を超え、賃上げ率は昨年3%、今年5%超と、以前では考えられない状況が到来しています。これは間違いなく日本経済が反転する絶好のチャンスです。

日本企業のマインドも転換しつつあり、積極的なリスクテイキングや投資に舵を切ってきました。メディアでは、海外の成長力を取り込もうとする積極的なM&A、IT事業基盤あるいはネットワーク的な事業基盤の構築などが、日々報じられています。加えて、経済安全保障という観点からの国内半導体生産への巨額投資も現実化しました。脱炭素に向けての巨額の投資も視野に入ってきています。

こうした大きな動きをサポートできるのは、金融機関しかないでしょう。つまり、金融機関にも大きなチャンスが到来しているのです。さらに言えば、各金融機関自らが先頭に立って、こうした動きを推進していくことを願っています。

――「情報本位制」のデジタル時代に、金融機関が果たすべき役割が大きいと同時に、これまでにないポテンシャルに溢れているということですね。本日はどうも、ありがとうございました。

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