証券会社の幹事指名を狙い、銀行側が融資条件を変更か
監視委によれば、三菱UFJ銀行はMUMSSとの間で、情報共有の同意を得ていない法人顧客に関する非公開情報を少なくとも10回にわたって授受。一部の非公開情報については、銀行側の専務執行役員(当時、以下同)も自ら提供を行っていたといいます。
たとえば、ある企業は銀行側に対し、株式の売出に関する非公開情報について系列証券会社に情報提供をしないよう繰り返し念押ししていたにもかかわらず、銀行側の専務執行役員は主幹事としてのポジションを獲得するために、売出の実行時期や金額についてMUMSSに伝達。また、別の企業が予定していた企業買収について、買収資金に関する融資契約を結ぶ過程で情報を得た銀行側が、秘密保持契約を結んでいたにもかかわらず、その情報をMUMSSに提供したケースもあったといいます。
また、登録金融機関が本来禁止されている引受業務が部署横断的に継続的に行われていたとされる事例も複数、摘発対象となりました。ある企業の社債発行に関するケースでは、証券側の提案内容が他社と比べ見劣りしている状況を知った銀行側が、別件の融資について、金利スプレッドを引き下げる、弁護士費用や担保を免除するなど条件を変更してMUMSSが引受シェアを得られるよう交渉し、実際に、MUMSSが幹事に指名されたということです。
転機は2018年の中計にあった?
監視委内では、銀証連携を推進するグループに特有の評価体系の問題点を指摘する声もあります。
三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)は、2018年策定の中期経営計画以降、グループ収益の最大化を目指す施策を打ち立てたことを機に、収益目標について従来の2本柱(グループ連携収益と銀行収益)のかわりに、銀行収益を含むグループ収益に一本化した経緯があります。
監視委の調べでは行員の業績評価においても、銀行側がMUMSSに顧客連携し、証券会社側での成約によって収益が計上された場合も、その利益金額が行員側の営業成績に反映される仕組みとなっていました。監視委幹部は「一部営業店の行員においては、銀行収益と系列証券会社の収益を比較して、後者が大きい場合にはそちらの契約を獲得する方が収益目標額との関係で利点が多いと認識したうえで行動している状況も確認されている」と説明します。
MUFGは一連の処分勧告を受け、「お取引をいただいているお客さまをはじめ関係者の方々にご迷惑、ご心配をおかけしておりますことを、心よりお詫び申し上げます」とコメントを公表。勧告内容を厳粛に受け止め、再発防止に取り組むとしています。
また、今回の摘発は、同一グループ内での顧客情報の共有を制限するルール(ファイアウォール)の撤廃に向けた議論にも影響を広げそうです。
ファイアウォールをめぐっては、金融審議会傘下の専門家会合である市場制度ワーキンググループで、撤廃の是非について断続的に議題に上っているものの、独立系証券会社と銀行界とでの温度差の違いを背景に、足元の議論は停滞気味です。22年の法改正では、大企業の情報を対象として条件つきで制約が撤廃されました。ただ、その年の10月にSMBC日興証券と三井住友FGが不適切な情報授受で処分を受けたこともあり、中小企業や個人顧客の情報管理については結論が先送りされてきた経緯があります。
14日に政府が公表した「骨太の方針」原案では、「銀証ファイアウォール規制の在り方について、検討を行う」との一文も盛り込まれています。が、MUFG傘下の摘発によって、金融審側で慎重論がいっそう勢いづく可能性があります。