離婚まで考えた自分への迷い
昼下がり、志保は学生時代からの友人とカフェで向かい合っていた。昔から口が堅く、困ったときには親身になって話を聞いてくれる相手だった。現在は法律事務所で事務員として働いているため、離婚について何か知っていることがあるかもしれない。それが、志保が真っ先に彼女を頼った理由だった。
「志保、大丈夫? ずいぶん痩せたんじゃない?」
「うん……実は、ちょっと聞いてほしいことがあってさ……」
志保は結婚生活のことを順番に話した。
百合子の希望で義実家の近くに住み、謙介の勧めもあって仕事を辞めたこと。合鍵で勝手に家へ入り、家事に口を出され、両親までも悪く言われたこと。謙介に何度訴えても状況は変わらず、ついには心療内科を受診したことも打ち明けた。
「病院では、今の環境から距離を取ることも考えたほうがいいって言われたの。でも、引っ越すだけじゃ無理な気がして……正直、離婚も考えてる」
「そこまで追い詰められてたんだね」
「でも、姑とうまくいかないから離婚したいなんて、そんなの通るのかな」
友人は少し考えてから答えた。
「志保の場合がどうなるかは断言できないけど、姑との問題がきっかけで夫婦関係まで壊れて、離婚するケースは普通にあるよ」
「そうなんだ……」
それだけでも、志保は少し救われた気がした。
「でもさ、ひとつ気になるんだけど。志保が本当に嫌なのって、お義母さん?」
「え?」
「何度も謙介くんに助けを求めたんでしょう?」
「うん。でも、そのたびにお義母さんに悪気はないって言われた」
味方してくれない夫への失望
口にしてみて、志保はようやく気づいた。
百合子が勝手に家へ入ったときも、両親を悪く言われたときも、志保は謙介に助けを求めていた。それでも謙介は百合子をかばい、志保に我慢を求め続けた。誰より力になってほしかった夫は、自分の味方をしてくれなかったのだ。
「……ありがとう。自分の気持ちがやっと分かったよ」
その夜、志保は帰宅した謙介をリビングへ呼んだ。心療内科で聞いた話は、彼にも一通り伝えてある。
「私、離婚したい」
「は? まさか……母さんのことで?」
「お義母さんだけが理由じゃない。私、何度も嫌だって伝えたのに、謙介は、ずっとお義母さんをかばってた」
「分かった。ちゃんと母さんにきつく言うよ。もう勝手に来るなって」
「今さら遅いよ。私が一番苦しかったときに、謙介は助けてくれなかった。だから、もう一緒にいるのは無理なの」
謙介はしばらく黙ったあと、両家の両親も交えて一度話したいと言った。志保も了承した。このまま2人で話し続けても何も進展しないだろう。
謙介が浴室へ行ったあと、志保はスマートフォンを手にした。これまで何度も開いては閉じてきた実家の母の連絡先を開き、今度は迷わず通話ボタンを押す。呼び出し音が途切れ、受話口から聞き慣れた母の声が届いた。
「あら、志保、元気にしてた?」
その瞬間、志保の目から涙があふれた。心配をかけまいとずっと耐えてきたのに、一度こぼれた涙は止まらなかった。
