<前編のあらすじ>

結婚1年半の志保は、夫・謙介と義実家の徒歩圏内で暮らしている。義母・百合子は合鍵を使って連絡もなく家に入り、掃除や片づけ、料理にまで口を出すことを繰り返していた。志保は親切のつもりだと自分に言い聞かせ、我慢を続けていた。

ある日、家事のやり方を批判したあと「ご両親がもう少しきちんとした人たちだったら」と志保の両親まで否定する。耐えきれなくなった志保は、百合子に帰るよう求めた。

帰宅した謙介に、無断訪問をやめさせてほしいと訴える志保。しかし謙介は百合子をかばい「長い付き合いになるんだから、うまくやってよ」と返す。味方になってもらえないことに落胆した志保は、実家の母へ電話しようとするが、心配をかけると思い直して連絡できなかった。

●前編【「悪気がなければ、何をしてもいいの?」合鍵で勝手に入る義母…妻が夫に求めた“たった一つのこと”】

夫に訴えても届かない苦しみ

百合子のアポなし訪問は、相変わらず続いていた。

合鍵を使って入ってきては、冷蔵庫をのぞいたり、洗濯物をたたみ直したりしていく。もちろん志保の外出中にやってきて帰っていく可能性もあるので、外出から戻るたびに、まず部屋を見回し、物の位置が変わっていないか確かめる。それが普通ではないことに、自分でも薄々気づいていた。

「最近、あんまり食べてないけど大丈夫?」

ある晩、箸を持ったままぼーっとしている志保を見て謙介が言った。

「お義母さんが急に来るから、ずっと気が休まらなくてしんどいの。家にいても落ち着かないし、夜もよく眠れない」

「志保は真面目だな。そんなに気にしなくてもいいのに」

あまりに軽々しい返事に、志保は何も言えなくなった。目の前にいる夫にさえ、自分の苦しみは届いていないのだと思うと、まるで心が空っぽになったようだった。

我慢以外の選択肢を知る志保

予約したはずなのに信じられないほど長い待ち時間と短い診療を終えて、心療内科の優しい色合いのロビーから外へ出る。空は薄く曇っていた。

一向に気分が上向かない日々が続き、相変わらず夫は役に立たないし、物音に過敏になっているせいか些細なことでもイライラするようになり、志保はこのままではまずいと感じるようになっていた。あまり気は進まなかったが、話を聞いてもらうだけでも気分が晴れるかもしれないという軽い気持ちで心療内科を受診することにしたのだ。

しかし、医師からは軽い抑うつ状態だと説明された。このまま負担が続けばさらに悪化する可能性があるという。

志保は自分で思っていた以上に精神的に消耗していたらしい。原因になっている相手や環境から距離を取ることも考えたほうがいいと説明され、志保は初めて、我慢以外の選択肢に気づいた。

「距離を取る、か……」

百合子と会わずに済む場所へ引っ越せばいいのだろうか。しかし、あの義母なら、どこへでも押しかけてきそうだ。それにあの強情さを考えると、そもそも引っ越すなんて選択が現実的ではないような気がした。

自宅へ戻ると、その考えを裏づけるような光景が待っていた。干していたタオルは百合子流にたたまれ、冷蔵庫には見覚えのない保存容器が入っている。テーブルには「煮物を作っておきました。ちゃんと食べてね」と書かれたメモまで置かれていた。

「また勝手に……」

以前なら、せっかく作ってくれたのだからと無理にでもありがたがろうとしただろう。

しかし今は、百合子の手書きの文字を見ただけで息が浅くなった。引っ越すだけでは足りない。謙介が百合子をかばい続ける限り、どこへ住んでも同じことが繰り返されるに決まっている。

その瞬間、1つの考えが頭に浮かんだ。

離婚したら、この関係から解放される。

だが、姑とうまくいかないというだけで離婚などできるのだろうか。こんなことで離婚を考える自分のほうがおかしいのではないか。いつまでも考えはまとまらないまま、日が暮れていった。