義母の言葉がついに一線を越える
夕方、志保が夕食の支度をしていると、玄関で鍵の回る音がした。謙介が帰るにはまだ早い。包丁を持つ手が止まり、胸の鼓動が速くなる。予想どおり、廊下から百合子の声が聞こえてきた。
「志保さん、いるー?」
「お義母さん……来るなら連絡してください」
「家族なんだから、いちいち連絡なんて必要ないでしょう? 他人行儀なこと言わないの」
百合子は当然のようにキッチンへ入ってきた。志保が鍋で煮込んでいた肉じゃがをのぞき込み、お玉を手に取って勝手に味見する。
「謙介はこんなに甘いの好きじゃないわよ」
「いつもこの味付けで食べてますよ」
「あらま、じゃがいもも煮崩れしかけてるじゃない。火加減が強いからよ」
「私なりにやっていますから、アドバイスしてもらわなくても大丈夫です」
いつも曖昧に笑って済ませていたが、なぜか今日は無性に腹が立ち、どうしても黙っていられなかった。すると百合子は眉を吊り上げ、あきれたように息をついた。
「あなた、本当に何も教わってこなかったのね」
「……どういう意味ですか?」
「普通は結婚する前に、最低限の家事くらい身につけさせるものでしょう? ご両親がもう少しきちんとした人たちだったら違ったのかしら」
その瞬間、突然後頭部を殴られたような衝撃が走った。自分が責められるのには慣れている。しかし、何の落ち度もない両親まで悪く言われる筋合いはない。
「……お引き取りください」
「そうね。あなたも頭を冷やしたほうがいいでしょうし、今日は帰るわ」
