留守宅に入り込む義母への違和感

買い物を終えて帰宅した志保は、玄関の前でぴたりと足を止めた。ドアノブに触れたところで、鍵が開いていることに気づいたのだ。そっと扉を開くと、中からは食器の触れ合う音まで聞こえてくる。

「まただ」

侵入者が誰なのかは確かめるまでもない。義母の百合子だ。

「お義母さん?」

声をかけると、百合子がキッチンから顔を出した。

「あら、おかえり。ちょうど近くまで来たから寄ったのよ」

「連絡してくださったらよかったのに」

「鍵を持ってるんだから平気よ」

百合子は悪びれた様子もなく、再びキッチンへ戻っていった。志保が買い物袋を置いてのぞくと、調味料の並びがすっかり変わっている。

「ここ、整理しておいたわよ。古いのは処分したわ」

「あの、私も自分が使いやすいように置いてるので――」

「それと棚の上、ちゃんと拭いたほうがいいわよ。ほこりがあったから。水回りも、もう少し丁寧に磨かないと、すぐカビちゃうんだから」

頼んでもいないのに、次々と家事の報告をされる。志保は言い返したい気持ちをぐっと飲み込み、買ってきた食材を冷蔵庫へしまった。

すると百合子は、目ざとく冷蔵庫に入れてあった煮物を見つけた。

「これ、今日の夕飯?」

「はい。昨日の残り物ですけど」

「うーん、謙介はもう少し薄味のほうが好きよ。それに大根が厚すぎるわ。これじゃ火が通るまで時間がかかるでしょう」

百合子は勝手に味見をし、鍋を火にかけて水を加え始めた。

「お義母さん、自分でやりますから」

「遠慮しなくていいのよ」

「でも……」

「あなたはまだ慣れてないんだから、こういうことは主婦の先輩から教えてもらったほうがいいでしょう?」

結婚して1年半の間に何度、このセリフを聞いただろう。百合子は親切のつもりなのだろうが、志保には自分の家事を毎回採点されているようにしか思えなかった。

「じゃあね、また来るわ」

夫婦の暮らしに入り込む義母

嵐のような百合子の訪問が終わると、志保は力なく部屋の中を見渡した。そもそも、この家を選んだのも百合子だった。

謙介との結婚が決まったとき、

「何かあったときに助け合える距離がいいでしょう」

と言われ、義実家の徒歩圏内に住むことになった。

仕事についても百合子から家庭を優先するように勧められ、謙介まで「しばらくは家庭に入るのもいい」と同調したため、新卒で働いていた職場を辞めた。

田中家の一員になるのだから。

当時の志保は、夫の家族に認められるため多少我慢するのは当然だと思っていた。

「これ、昨日より薄味だね」

夜、帰宅した謙介が煮物を一口食べて首を傾げた。

「うん、お義母さんが味薄めたから」

「母さん来てたんだ」

「買い物から帰ったら家の中にいてびっくりしたよ」

「そっか。また手伝いに来てくれたんだな」

志保は「そんなの頼んでない」と言いかけた。しかし、嬉しそうに箸を進める謙介を見て、その言葉を飲み込んだ。