金融庁で8月31日、第57回金融審議会総会が開かれ、成長企業への資金供給と保険制度の見直しについて、それぞれ専門の作業部会(WG)を立ち上げて法改正に向けて議論する方向性が決定しました。金融審は近年、各業界の不祥事案を踏まえ、リテール分野を含めたビジネス健全化に向けた環境整備にリソースを割いてきましたが、今回のWG新設からは、政策上の重心を国内投資促進策へスライドさせようとする政府の狙いが窺えます。
総会の冒頭、岩田和親・内閣府副大臣(金融担当)が、7月21日に閣議決定した新金融戦略に言及。従来の資産運用立国の取り組みをさらに発展させ、「企業には中長期的な企業価値の向上に向けた成長投資を促しつつ、国民が経済成長の成果を最大限享受できるようにするため、これらをつなぐ金融機関、市場の機能発揮を強力に促す環境整備を行い、資金の好循環を創出していく」との同戦略の狙いを説明しました。
その上で、成長企業への資金供給について、「今後、拡大する成長投資の資金需要や社会情勢の変化に対応をするため、資金供給主体の多様化等を図るための制度の検討が必要」と指摘。保険制度については「企業のリスクマネジメントの高度化や、成長投資の後押しを図るため、再保険・キャプティブ制度の創設について検討するほか、生命保険に関し、国民に安全・安心なセーフティネットを持続的に提供していくための制度のあり方を検討する必要がある」との認識を示し、それぞれ金融審議会として検討を進めるよう要請しました。
事務局側の金融庁幹部は「『強い経済』の実現に向けた17の戦略分野等への成長投資や、日本企業の事業再構築・再編を支える資金の好循環を創出するためには、金融機関の資金供給、成長支援機能の強化が必要。特に、大型M&A等に取り組む成長企業の大規模な資金需要を満たすため、資金供給主体の多様化を図る必要がある」と説明。外国銀行のシンジケート参加に関する規制緩和、ノンバンク社債の要件緩和などを通じて、M&Aに取り組む企業への資金供給を促進する方向性を打ち出しました。
これに対して有識者委員からは、「金利のある世界へ移行する中、長年変化が少なかった法人向け貸出市場に変革と競争を促す機会になる」と期待する声が上がりました。一方、大企業のM&A資金調達とスタートアップ向けのノンバンク社債法の問題は性質が異なるため、横並びにせず焦点を絞って整理して議論するよう求める声もありました。
もう一つのテーマである保険制度について事務局は、自然災害の頻発・激甚化、人口減少、地政学リスクの高まりなど不確実性の高まりを踏まえ、「企業の成長投資を後押しするとともに、国民生活の安全安心を確保するための保険機能を強化することがより一層求められている」との認識を提示。保険会社ではない事業会社等が、ビジネス上のリスクを引き受ける保険子会社を設立する「キャプティブ」の国内普及に向け、環境整備を進める方向性を示しました。
委員側からは、現行制度で事業者側が海外に子会社を設立せざるを得なかった理由を明確にした上で議論するよう求める声や、リスクマネジメントが不十分な場合には破綻の原因になり得るため、まずは事業者側の能力を検証することが重要といった趣旨の意見が上がりました。
もともと「資産運用立国」は、岸田政権下で「成長と分配の好循環」を目指して政策措置がスタートしました。今後議論される成長分野への資金供給策は、壮大な構想の実現に向けた、従来路線の延長上の一歩と見なせます。一方、NISA拡充など家計の資産形成支援にフォーカスしていた当初の路線から、実質的に変容を遂げたとの見方もできそうです。
両WGは今後、来年の通常国会への関連法案提出を目指し、具体的な制度設計への議論を進めていく見通しです。
